第九十一話:意外な安全地帯……からの?
雲も少なく、今日も月がよく見える夜だ。
どうせ
「あっ、やっぱりツルギくん来てた!」
「藍が分かりやすいとも言う」
案外すぐに落ち合えた。
ブイドラもやる気十分な様子だ。
「今夜も頑張るブーイ!」
「言っとくけど、俺も簡単には負けるつもりはないぞ」
「それはアタシ達もだよ!」
召喚器を構える藍。
早速始める気らしい。そう来なくっちゃな。
「さぁ藍、今日はどんな負け方をしたい?」
「ツルギくんがアタシに負ける方で!」
「言うじゃんか、だったら手加減はなしだ!」
俺も召喚器を手に取って、起動させ――
「ターゲットロ――」
「ストーップ! 召喚器はダメだ、ポイントが移動する!」
「あっ!」
藍がしまったという顔で、慌てて召喚器をしまう。
俺もうっかりしそうだった。
「アナログファイトにしよう。いい感じに切り株もある」
「うん、そうしよう」
俺はアナログファイトに慣れていない藍に、細かな説明をして、切り株にカードを並べる。
ふと上の方に気配を感じて顔を上げると、白く光る獣が見えた。
闇夜の空に浮かぶ、四足歩行の獣。
馬と龍を掛け合わせたような見た目だ。
アレは確か……麒麟だったか?
(確か
何にせよ、和尚は俺達の事を見ているらしい。
あるいは、今は見定めている最中なのか。
「ツルギくん?」
「あぁ悪い。ちょっと考え事してた」
まぁ、最終的に和尚とファイトできれば、それで正解なんだ。
今は頑張って、和尚に認められるようにしますか。
「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」
そして俺達は、日の出直前までアナログファイトに明け暮れていた。
◆
翌朝。
第二の試練後半戦が始まったわけだが……俺と藍は寝不足だった。
「むにゅぅ……眠い」
目を擦る藍。だが起きてるだけ偉いと思うぞ。
俺は目の下に隈ができてそうだけど……まぁいいか。
あとで余りポイント使ってコーヒーでも買おう。
「さて
速水に指示を仰がれた。
頑張って目を覚まさなくては。
「今日は団体行動だな。チーム分けもしない」
「む、そうなのか?」
「現状、俺達は試練クリアに必要なポイントを既に保有している。あとは時間切れまで耐えてやればいい」
「なるほど。極論昼飯代を詰めファイトマシンで確保すれば、あとは能動的にファイトを行う必要もないのか」
「そういうこと」
ただし試練のルール上、挑まれたファイトは断れないけどな。
要するに受け身に徹するという作戦だ。
挑んできた奴だけを倒せば、色々リスクも最小限で済む。
「そうなると、今日の拠点が必要ね」
アイの言う通りだった。
受け身に徹するなら、今日はあちこち動く理由が無い。
となれば一箇所にとどまってしまうのが良いのだが。
「無難考えれば、お寺の近くとか、人気の少ない場所に隠れるのが良いですよね」
「まぁソラが言うそれも、一つの手だな」
「天川は何か別の案があるのか?」
待ってました速水君。
俺も思わずニヤリとしちゃうよ。
「物資補給は楽にしたいだろ? なら逆転の発想にしてしまうんだ」
そう言って俺は、最高の拠点に皆を案内した。
◆
で、拠点(仮)に到着しました。
うんうん、皆スゴいリアクションしてるな。
「ツ、ツルギ……ここって、もしかしなくても」
「見ての通りだぞ」
アイが何だか困ったような声を出す。
まぁ普通に考えたらそうなるだろうな。
だってここ、洋室ことホテルのロビーだし。
「天川、流石にここは危険じゃないか?」
「ところがどっこい、そうでもないんだ」
「……どういうことだ?」
速水が眼鏡の位置を直しながら聞いてくる。
なぁに、簡単な理屈さ。
「第二の試練では挑まれたファイトを断れないだろ」
「そうだな。だからこそ身を隠して――」
「危険度に変化が出ないんだよ」
俺がそう言うと、
「挑まれたら断れない。なら身を隠すなんて誰でも考える手法だ。言い換えれば、隠れた奴を探し出してポイントを狩りにくる奴だって現れる」
「それはそうですけど、それならやっぱり隠れた方が良くないですか?」
「ソラ、試練終了の午後五時まであと何時間あると思う?」
「えっと……」
「追加で言えば、外で一カ所に留まり続けた場合リスクが出る。数カ所を移動し続けるにしても、移動中を狙われないと思うか?」
ソラは「あっ」と声を出してしまう。
そう、外に隠れるとなった場合、数回移動した方が良い事になる。
しかしそうなると、移動中襲撃されるリスクも出てくる。
その可能性を考慮した場合、意外なところに最適解が出てくるんだ。
「最初に俺は言っただろ。逆転の発想をしてやるんだって」
「それがホテルのロビーなのか?」
「そうだ。速水もこのロビーにいる奴らをよく見てみろ」
俺に言われて、速水はホテルのロビーに残っている他の生徒を軽く見渡す。
数秒眺めた後、速水は「そういうことか」と納得していた。
「今ホテルに残っている生徒は、大半がポイントが枯渇した生徒。つまり詰めファイトに助けを求めている者ばかりなのか」
「正解」
そう、宿泊施設が洋室と和室に分かれて、更にテントによる野宿組もいる。
これによって、第二の試練に挑戦している生徒は施設内のあちこちに点在してしまっているのだ。
つまり今からポイントを大きく稼ごうとした場合、外に出て相手を探した方が圧倒的に効率が良いのである。
「そういう事なのね。むしろホテルのロビーが一番安全になってしまっている」
「それに挑まれても、最初から強い人はタイムリミットまでにホテルに戻ってくる理由もないですよね。大きなポイント獲得も望めないですし」
アイとソラも理解してくれたようだ。
「天川くん。ボクから質問しても良いかな?」
「どうぞ九頭竜さん」
「ここが比較的安全なのは分かったんだけど、最初に言ってた物資補給ってのは?」
「あぁ、その事か」
俺は後ろにある自動販売機を指差す。
「飲み物、すぐに買いたいだろ」
しかも詰めファイト1回で、ジュース1本ですよ。
まぁもう一つ理由を上げるとすれば、カフェが併設されているから、昼食にサンドイッチを買えるというのもある。
「ん、納得。たしかに天川くんの案が最適」
「サンキュ九頭竜さん」
九頭竜さんも分かってくれたようだ。
……それはそうとして。
「藍、大丈夫か? 理解できてるか?」
「ぷす〜」
藍は頭から湯気を出していた。
どうやら脳のキャパシティを超えたらしい。
俺が九頭竜さんに頼んで、藍に膝枕をしてもらった。
九頭竜さんは筆舌に尽くし難いリアクションと共に、膝枕を始めた。
「……」
あっ、九頭竜さんが賢者タイムに突入した。
完全に無と同化している。
まぁ藍を見ておいてくれれば何でもいいか。
「それでツルギ? ここで籠城するのは良いけど、何か暇つぶしは考えてあるの?」
「テーブルあるんだからアナログファイトしようぜ」
「貴方に聞いた私が馬鹿だったわ」
アイが呆れた表情を向けてくる。
何でだよ、良いじゃんアナログファイト。
「なぁ速水」
「天川はもう少しサモン以外にも手を出すべきだと思うぞ」
「ごめんなさいツルギくん。私も……そう思います」
これはひどい。
サモン至上主義世界の住民にここまで言われるとは。
俺のサモン愛が少し重すぎたか?
……はいそこの3人、珍獣を見るような視線を向けるな。
サモンの息抜きにサモンは基本なんだぞ。
「とはいえ、確かに暇つぶしは必要だよな」
スマホはバッテリーが勿体ないし、カバンからトランプでも出すか。
そう考えて俺がカバンを漁り始めると、1人の生徒が近づいてきた。
「これは幸運だな。いや、君にとっては最大の不幸か」
「お、お前は!?」
何故かボロボロになった雨合羽を羽織っているが、見覚えがある顔だ。
金髪と、妙に尊大な態度のこの同級生。
たしか名前は……
「
「
あぁそうだ、財前君だったわ。
何故かこいつの名前は一発で出てこないんだよな。
「で、なんの用だ? あとそのボロボロの合羽はなんだよ」
「当然、君にリベンジファイトを挑みにきたのさ! あとコレは昨夜のサバイバルの名残りだ」
お前昨日どんな夜を過ごしたんだよ。
「おやぁ? 僕の壮絶なサバイバル武勇伝を聞き――」
「欠片も興味ないから話さなくていいぞ」
「本当に失礼な奴だな君は!」
だって興味ないし。
あとサバイバルとか言うけど、このボンボンの事だ。
どうせ西洋映画の真似をしてただけだろ。
コンビニで買ったビーフジャーキーとカロリーメイトを、紅茶で流し込んで満喫しただけだろ。
「天川ぁ、絶対今余計なことを考えているだろう」
「お前の昨日の夕飯を考えていたんだよ。ビーフジャーキーとカロリーメイトは美味かったか?」
「な、何故分かったんだ!?」
マジかよお前。一周回って好感が持てるわ。
と、このままでは馬鹿とのコントで一日が終わってしまう。
「で、俺とファイトしたいのか?」
「そうだ! 僕の新たなデッキで、今度こそ君を討ち取る! そしてランチを豪華にするんだァ!」
「一日くらい豪華ランチは我慢しろよ」
だが挑まれた以上、断る事はできない。
こういう事態を想定してか、ロビーのすぐ隣にはファイトステージがある。
「速水、俺の荷物見といてくれ」
「あぁ……負けるなよ」
「当然。なんなら暇つぶしに観戦してくれてもいい」
それに向こうは新デッキと言っている。
これは少し期待しても良いかもしれない。
「フフフ、ギャラリー付きは盛り上がるね。せいぜい無様に負けないよう頑張ってくれたまえ」
「お前こそ簡単に負けてくれるなよ……えっと、ぜんざい!」
「財前だッ! いい加減名前を覚えたまえ!」
だってお前の名前覚えにくいんだよ。
そんな事を考えながら、俺達はファイトステージへと移動した。
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