第九十二話:きたぞボクらの合体機神!

 ホテルに併設されているファイトステージに来た俺と財前ざいぜん

 ……うん、もうホテルにファイトステージがある程度では驚かないぞ。


 さて、向こうはやる気満々だな。


天川てんかわツルギ! 今日こそ貴様に勝って、僕こそが最強のファイターなのだと証明してやる!」


 本当にやる気が凄いなぁ。

 というか、サラッと俺が最強認定されてるんだが。

 ランク戦はまだ先ですよ財前くん。

 いや俺は本気で上目指す予定なんだけどな。


「さぁデッキを抜け! 僕の新たな力で敗北を味わうがいい!」

「へいへい。頑張ってくれ」


 じゃあ俺も頑張りますか。

 召喚器を取り出して、無線接続させる。


「「ターゲットロック!」」


 初手を引いて、ファイト開始だ。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 先攻は……お、久しぶりに俺だ。

 意外と運がないのか、先攻にならないんだよな。


「じゃあ始めますか。スタートフェイズ。メインフェイズ」


 さーて、どう動こうかな。

 まず前提として、この世界の人々は一種類のデッキを極めるのが基本だ。

 まぁカードのシングル価格を考えたら、自然ではあるんだけどな。

 で、そうなると財前のデッキは前回と同じく、系統:《機械》を主軸にしたデッキだろうな。

 機械の特徴は、極端に高い攻撃性能。

 もしくは圧倒的なパワーによるゴリ押し戦法。

 どちらにせよ、真正面からの戦闘は得策ではないな。


 となれば、まずは壁モンスターによる防御だな。


「俺は〈コボルト・ライブラリアン〉を召喚!」


 俺が仮想モニターにカードを投げ込むと、司書の姿をしたモフモフの犬獣人が召喚された。


 〈コボルト・ライブラリアン〉P5000 ヒット1


「続けて魔法カード〈フューチャードロー〉を発動! 2ターン後のスタートフェイズにカードを2枚ドローする」


 発動コストでライフは払うけど、手札は予約しておくに越したことは無いからな。


 ツルギ:ライフ10→8


 さて、動き過ぎてもよくないからな。

 まずはこれで様子見としよう。


「ターンエンドだ」


 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈コボルト・ライブラリアン〉


 ひとまずの下準備はしたけど、問題は財前だな。

 アイツがどれだけデッキを強化してきたのか……それによって先の動きも変わって来る。

 さぁさぁ、どんな強化をしてきたのかな。


「僕のターンだ。スタートフェイズ、ドローフェイズ!」


 財前:手札5枚→6枚


「メインフェイズ! 刮目しろ天川ツルギ! これが僕の新たな力だァ!」


 はよしろ。

 財前は意気揚々と1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「僕は魔法カード〈ザ・コアマシンスクランブル!〉を発動!」

「なっ! そのカードは、まさか!」


 馬鹿な、財前はあのカードを使う気かっ!?


 俺が驚いたせいか、観覧席の皆も固唾を飲んでいる。

 だろうよ、特に男子はここから更に驚く……いや、燃え上がる事になるぞ!


「〈ザ・コアマシンスクランブル!〉は、僕のデッキから系統:《センター》を持つモンスターを1体召喚する!」


 デッキからの直接召喚。

 それだけでも強力だが、このカードの凄いポイントはそこじゃない。

 呼び出すのは系統:《センター》を持つ機械モンスター。

 つまり、前の世界でも凄まじく根強い人気があった、ヤツがくる!


「僕が呼び出すのはコイツだ! 出撃せよ〈【中核機神ちゅうかくきしん】コア・アーサー〉!」


 すると財前の背後に、異空間へと繋がるゲートが出現する。

 そして何故か、ゲートの向こう側の様子がミニ仮想モニターで表示された。

 モニターに映るのはどこかの出撃カタパルト。

 そこに一体のスーパーロボットが乗り、カウントダウンが始まる。


 3

 2

 1

 Go!


 カタパルトが動き、機体を異空間に繋がるゲートへと射出する。

 そしてスーパーロボットは財前の場へと出撃した。


 〈【中核機神】コア・アーサー〉P3000 ヒット2


 俺達は言葉を失った。

 だがそれも一瞬、その圧倒的カッコよさを前に興奮を隠しきれなかった。


「「「か、かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」


 いつの間にか観覧席に来ていた男子達も、俺と一緒に叫んだ。

 そうだ、格好いいんだよ。

 スーパーロボットは男の子のロマンなんだよ!

 見ろ速水を! 眼鏡の向こうで少年のような目の輝きをしているぞ!


「男の子って、本当にロボットが好きなんですね」

「私にはよく分からないセンスだわ」

「ボクもちょっと、この喜び方は理解できない」


 聞こえてるぞ女子三名。

 スーパーロボットはな、男の魂であり義務教育なんだよ。


「えー、でもアタシは好きだけどな~。カッコいいし」


 らん、お前とは良い語り合いができそうだ。

 おっと、それはそうとして、ファイトに集中せねば。


「フッ、君にもアーサーの良さが理解できたみたいだな」

「日本男児はそれ全員理解できるぞ」

「ならば君には褒美として、更なる力をお見せしよう」


 そう言ってカードを仮想モニターに投げ込む財前。

 ま、まさか……アレもやってくれるのか!?


「僕は〈レフト・シールドマンモス〉を召喚!」


 再びミニ仮想モニターから流れる出撃演出。

 今度は巨大なマンモス型ロボットがフィールドに現れた。

 ……いやマジでデカいな。

 

 〈レフト・シールドマンモス〉P5000 ヒット1


 系統:《レフト》のモンスターが来た……ということは。


「続けて、僕は〈ライト・バリアヘッジホッグ〉を召喚!」


 今度はハリネズミの意匠を持つ、小型の人型ロボットが出撃してきた。

 こっちは意外と小さいんだな。


 〈ライト・バリアヘッジホッグ〉P3000 ヒット2


 これで財前の場には系統:《センター》《レフト》《ライト》を持つモンスターが揃った。

 俺は、これまで経験したこと無いほどのドキドキを感じていた。

 それは観客の男子達も同じだ。

 恐らく感じ取ったのだろう。

 その名前と、演出から、この後なにが起きるのかを!


「さぁ、刮目せよ僕の真なる力!」

「く、くる!(歓喜)」

「僕は〈【中核機神】コア・アーサー〉の専用能力【合体】を発動!」


 【合体】それは系統:《レフト》か《ライト》を持つモンスターと合体して、1体の大型モンスターへと変わる能力。


「行け!  〈コア・アーサー〉! 〈シールドマンモス〉! 〈バリアヘッジホッグ〉!」


 財前の命令を受けて、三体の機械モンスターが高くジャンプした。

 は、はじまる!


「レッツ! コン、バイーン!」


 財前は右腕に(いつの間にか)巻かれた指令ブレスに合体指令を入れる。

 おいなんだそのブレスは! ズルいぞ、カッコいいぞ!

 あとなんか曲が流れてるんだけど、ナニコレ!?

 ロボットアニメ特有の熱血アニメソング!?


 上空……という名の異空間(命名:バンク空間)では三体のロボットが合体体勢にはいっていた。

 コア・アーサーは手足を収納し、その名の通り核ユニットへと変形。

 バリアヘッジホッグはバラバラになって、強化装甲ユニットへと変形。

 そしてシールドマンモスは、手足と胴体の一部とシールドに変形。


「知恵と勇気と仲間への愛ィ!」


 合体していく三体……だけどな財前、その口上は怒られそうだからやめようか。

 そして合体完了して……あぁ、あんな口上言っちゃうから七割マンモスになってる。


「降臨せよ! 〈【合体機神がったいきしん】デルタ・アーサー〉!」


 〈【合体機神】デルタ・アーサー〉P14000 ヒット5


 財前のフィールドに降臨した巨大合体ロボ。

 その高いパワーと凄まじいヒット数に、観覧席からは男子達の凄まじい興奮の叫びが聞こえる。

 ただ、その……このカードの本質を知っている俺は、全く別の感想を抱いていた。


(贅沢なのはわかるけど……前の世界でもこういう演出が見たかったなぁ……)


 演出の都合で、このカードは文字通り合体して1体のモンスターに変化しているようだが、実際は少し違う。

 実はこのカード〈コア・アーサー〉の能力で3枚のカードが横並びに繋がっているだけである。

 決して〈デルタ・アーサー〉という新しい専用カードが出たわけではない。

 更に付け加えると〈デルタ・アーサー〉のパワーとヒットは、合体したカードのパワーとヒットを合計しているだけである。

 ちなみに〈コア・アーサー〉は合体中にパワーが+3000される。

 凄まじく大型でロマンを感じるけど……3体で合体しても、場には3枚のカードが出ている扱いになるから……実はモンスターの総数は減ってるんだよな。


(とても……使いにくいです)


 しかも〈コア・アーサー〉は3枚で合体中の時のみ、名前が〈デルタ・アーサー〉に変わる効果を持つ。

 だが……名称変更による恩恵は何もない! 変更された名称を参照するカードが存在しないのだ!

 文字通り、何も意味のない効果!

 でもカッコいいから、いいか!


「アタックフェイズ!」


 おっと、今アレを相手してるのは俺だったわ。

 って、コイツでアタックされるのか、面倒だな。


「行けェ! 〈デルタ・アーサー〉!」

「流石にいきなり5点は受けられない。〈コボルト・ライブラリアン〉でブロック!」


 デルタ・アーサーの巨大な拳に潰されて爆散してしまう、モフモフのコボルト。

 でもまぁ、コイツは墓地にいるほうが嬉しいから良いか。

 あとモンスター総数が減ってるから、これで攻撃終了だぞ。

 やっぱり使いにくいよなぁ。


「エンドフェイズ。〈シールドマンモス〉の効果で、僕の〈デルタ・アーサー〉は回復する」


 これで防御はできるってわけか。

 それくらいは流石にするよな。


「ターンエンド。せいぜい僕を楽しませてくれ」


 財前:ライフ10 手札4枚

 場:〈【合体機神】デルタ・アーサー〉+〈ライト・バリアヘッジホッグ〉+〈レフト・シールドマンモス〉


 えっとね、財前くん……俺はもう既に十分楽しませてもらえたよ。

 それはそうと、少し面倒なカードが出てるな。


(合体している〈バリアヘッジホッグ)あいつがいると相手に効果ダメージを与えられなくなる)


 かといって〈デルタ・アーサー〉を破壊しようにも、コアに合体している左右のモンスターが身代わりになってしまう。

 あの合体ロボを倒すには、3回破壊しなけれなならないんだ。

 だけどパワーは非常に高いので、真正面から行くのは少し面倒。

 さぁて、どうしようかな。


「ドローしてから考えるか」


 俺は心に強いワクワクを感じながら、ターンを開始した。

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