第四章:高校生編①

第六十八話:入学! 聖徳寺学園

 季節の移り変わりは早いものだと感じる今日この頃。

 ドキドキの合格発表から時は経ち、俺達は中学校を卒業。

 桜の花が咲き始めて、気づけばもう4月。

 この世界に転移して随分経ったが、ついに俺は、憧れのアニメ世界の学校に入学する日を迎えたのだ!


「うーん。アニメで見た制服を着るというのは、なんだか不思議な感じだな」


 俺は自室の鏡の前で、自分の制服姿を確認する。

 前の世界のアニメでは見慣れた聖徳寺しょうとくじ学園の制服。

 だけど今日からは俺が着る制服でもある。ちなみにブレザータイプ。


「お兄、そろそろ出る時間じゃないの?」


 扉を開けて、卯月うづきが時間を知らせてくる。

 確かにそろそろ出ないとまずいな。

 だがそれはそれとして。


「なぁ卯月。俺コスプレっぽくなってないか?」

「それアタシに聞く? 普通にコスプレにしか見えないんだけど」

「まぁそうだよな」


 前の世界のアニメを知ってる卯月からすれば、そうとしか見えないよな。

 なーに、そのうち慣れるさ。今は我慢しよう。

 俺は通学カバンでもあるリュックを背負って、自室を出た。

 一階に下りると、母さんがウキウキした顔で写真を撮ってくる。


「あらあらまぁ。似合ってるわよツルギ」

「2回目の高校生活だし、撮らなくてもいいだろ」

「でも新しい制服よ? せっかくなんだし撮っておきましょ」


 パシャパシャとスマホで写真撮る母さん。

 これは後数分は拘束されるな。


「母さん、俺そろそろ時間なんだけど」

「あら、そうなの? じゃあ続きは帰ってから撮りましょう」

「まだ撮る気なんかい!」


 どんだけ記録残したいんだ。

 俺は少しだけ呆れを覚えながら、家を出た。

 で……家の前に待ち構えていたのは、お隣に住む主人公ちゃん。

 

「おっ! やっと来たねツルギくん」

らんは朝から元気だな」

「だって待ちに待った入学式だよ! テンション爆上げじゃん!」


 はしゃぐ藍。絶対こいつ遠足の前日に眠れないタイプだな。


「ほら早くいこーよ!」

「わかったから。藍は少し落ち着け」


 藍に急かされるまま、俺は駅へと向かうのだった。

 道中サモンの話題で盛り上がる。

 やっぱり中心になるのはアームドカードの話。

 既にパックに封入されているので、入手報告は世界中で相次いでいる。

 UFコーポレーションのホームページで詳しいルールも公開された。

 ただまぁ、なんと言うべきか。登場すぐ故の需要と言うべきか。

 現在アームドカードの値段は、コモンのやつでも最低1万円。

 レアのアームドカードともなれば、最高数百万円の値段がついている。

 高すぎるだろ……落ち着けよ。

 まぁ手持ちの要らないアームドカード売って、俺も儲けさせてはもらったけどな!

 素晴らしい収入になりました。

 それはそれとして。今日からは俺もアームドカード採用したデッキ使うようにしている。

 やっぱり使えるものは使いたいしね。


「そういえば藍はアームドカード当てたのか?」

「えっへへ! 実は1枚だけ当てたんだ」

「マジかよ。よかったじゃん」

「うん。これでまたデッキパワーアップだー!」


 まぁ藍がアームドカードを入手してから入学するのは、アニメで見たんだけどな。

 それでも友人の戦果は素直に祝福したい。


「ツルギくんはどう? いっぱいカード持ってるし、もうアームドも持ってたりして」

「そうだと言ったら?」

「やっぱり。デッキに入れたの?」

「当然。学園で大活躍させてやるからな」

「ねぇねぇ、入学式終わったらファイトしようよ!」

「気が早いなぁ」


 本当にサモン愛する女の子だな藍は。

 そんな会話している内に、駅に着く。

 朝の駅は人が多い。そんな人混みの中から、よく知っているシルエットが見えた。

 ちっさい身体に白い髪の女の子。


「あっ、ツルギくん!」

「ようソラ。おはよう」


 ソラとエンカウントした。

 今までの見慣れたセーラー服から、聖徳寺学園指定のブレザー姿になっている。

 なんだか新鮮な絵面だな。そして普通に可愛い。


「藍ちゃんもおはようございます」

「おはよう。高校でもよろしく!」

「速水とアイは一緒じゃないんだな」

「速水君はもう学園に着いてるそうです。アイちゃんはまだ下宿先ってメッセージが来ました」


 元々遠方に住んでいたアイは、聖徳寺学園への進学を機にして一人暮らしを始めたらしい。

 学園のすぐ近くに下宿しているらしく、今度みんなで遊びに行く予定だ。

 電車が来たので、3人揃って慌てて乗り込む。

 それから十数分、学園の最寄り駅で降りた。


「いや〜、入試以来の道だな」

「これからは毎日通るんですよ」

「だな。しっかり覚えとかなきゃな……ところでソラ、そのたい焼きは?」

「はっ!? いつの間にか買ってました」


 まぁ通学路と言っても、駅から学園まで数分なんだけどな。

 ちなみに藍は途中にあった焼きそば屋に惹かれていた。

 そしてソラはパン屋の隣にあったたい焼き屋に無意識で寄っていた。

 入学式の朝に買い食いですか。


 そんなこんなで校門前に到着したのだが。

 ここまで来れば新入生ばかりだ。

 この新入生達が、今後のクラスメイトでありライバルになる。

 そう考えると一気にワクワクが湧いてくるな。


「藍。こいつら全員ライバルなんだぜ」

「そうだね。ワクワクしちゃう」

「一つ勝負してみるか? どっちがより多くのライバルを倒すのか」

「それ面白い! 乗った!」

「お前達は朝から何を物騒な事を……」


 声がしたので振り向くと、そこには速水がいた。


「おう速水。おはよう」

「あぁ、おはよう。それより天川、武井。今日は入学初日だぞ、暴れるのはほどほどにしておけ」

「だってよ藍」

「言われてるのツルギくんだよ」

「両方だ!」


 メガネに怒られてしまった。

 でも良いもん。どうせそのうち暴れてやるもん。

 特に今年は……事件も起きるはずだしね。


「あら、ツルギももう来てたのね」


 聞き慣れた声に呼ばれる。

 振り向くとそこには、制服に身を包んだアイが立っていた。

 流石は元アイドルと言うべきか、なんというかその、すごく華があるな。完璧に制服を着こなしている気がする。

 というかそれよりも……


「アイ、髪下ろしてるんだな」

「えぇ。せっかくだからイメージチェンジしようと思って」


 いつも栗色にツインテールだったけど、これからは長い髪を下ろすつもりらしい。

 アイは少し朱に染まった顔で「どうかしら?」と聞いてくる。


「うん。似合ってると思うぞ」

「そう……なら良かったわ」


 個人的に髪下ろしている女の子が良いってだけでもあるんだけどな。

 でもアイは随分と満足気であった。

 ……なんか俺の横でソラが頬を膨らませている気がするけど。


「どうしたソラ?」

「なんでもありませーん」


 なんか顔を逸らされてしまった。

 女の子というものは、よくわからん。

 そんな感じで仲間内で駄弁っていると、校門がついに開いた。


「新入生の皆さんは係員が案内いたしますので、入り始めてくださーい!」


 職員の声が伝達する。

 集まっていた新入生が次々に校門を抜けていった。


「……なぁ速水」

「なんだ天川?」

「この門をくぐれば、俺達の高校生活始まるんだぜ」

「そうだな」


 メガネの位置を正す速水。

 藍も早く入りたくてウズウズしている。


「ツルギくん! アタシ、絶対に誰にも負けないから!」

「天川。俺もこの学園で頂点を目指すつもりだ」

「私はほどほど頑張るわ。でもツルギ、その辺の馬の骨に負けたら許さないわよ」


 各々が思いの丈を俺にぶつけてくる。

 するとソラが、俺の袖を摘んできた。


「ソラ?」

「えっ、えっと……私は、ツルギくんに勝てるくらい、強くなりたいです!」

「そっか……じゃあ俺も負けてられないな」


 覚悟完了。みんなで強くなるんだ。

 いずれ来る事件に負けないためにも。


「じゃあ始めるか! 俺達の学園生活!」


 俺がそう言うとみんなが頷き、一斉に校門をくぐった。

 さぁ始めよう、聖徳寺学園での青春を!

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