第百八話:ケラウノス

「私のターン。スタートフェイズ、ドローフェイズ」


 音無おとなしツララ:手札4枚→5枚


 やっとターンが始まったよ。ついでにさっさと終わらせてくれ。


「メインフェイズ。私は〈スノー・シープ〉を疲労させて効果発動! 〈ジャバウォック〉を【凍結】!」


 さっそくデカブツを凍らせてきたか。

 まぁ正解だよな。今俺の場で一番強いブロッカーだし。

 またしてもカチコチと氷漬けにされるジャバウォック。

 これでこのターン中、ジャバウォックは動けなくなったわけだ。


「更に〈ザ・スノーマン〉の効果発動! 次は〈トリオ・スライム〉(C)を【凍結】!」


 今度はスライムが氷漬けになる。

 ……スライムなのに凍ってもターン終了時には元に戻るんだよな。不思議だな。

 それよりもブロッカーが〈トリオ・スライム〉(B)だけになってしまったのは面倒だな。

 どうせ音無先輩の手札には何かしらあるだろうし。


「私は貴方の場で【凍結】している〈トリオ・スライム〉(C)をコストで破壊!」


 ほらやっぱり。

 音無先輩が仮想モニターに1枚のカードを投げ込むと、氷漬けになっていたスライムが粉々に砕け散った。

 散らばった氷の破片を魔法陣が吸い込み、巨大な氷柱から獣が姿を現した。


「来なさい〈アイス・タイガー〉!」


 氷柱が砕け、氷で出来た猛虎が召喚された。

 条件付きとはいえ、相手モンスターをコストで破壊するのって強くない?


〈アイス・タイガー〉P9000 ヒット2


 しかも召喚コストに対してパワー高めだし。

 見ろよ俺の後ろ。藍が「自分のコストで相手を破壊できるの!?」って、テンプレみたいなリアクションをしているぞ。


「……ふっ」


 はいはい音無先輩は満足そうですね。

 露骨にドヤ顔してやがる。藍に褒められたのが相当嬉しかったらしい。

 まぁヨダレが垂れてる時点で酷い顔面だと思うけど。


「今日は特別よ。貴方の全てを氷漬けにしてあげる」

(うわぁ、露骨にやる気出してる)


 微かに顔を赤くした音無先輩が一枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 同時に、召喚コストとして〈スノー・シープ〉が破壊される。

 ……えっ、それコストで破壊しちゃうの?


「凍てつく世界の秩序のために、麗しき華よ開け!」


 音無先輩の場に現れた魔法陣から、大量の氷柱が出現する。

 あっ、やっぱり切り札召喚するのね。


「来なさい〈【氷河の姫騎士】スノードロップ〉!」


 氷柱が砕け散り、中から麗しい青髪を靡かせた姫騎士が召喚された。

 ……出たな、前の世界では通称「くっ殺」とか「コイツだけエロゲ世界の出身」とか色々言われていた一枚。

 イラストサイトでもエッチな絵がいっぱいあったなぁ。


〈【氷河の姫騎士】スノードロップ〉P12000 ヒット2


「出た、音無先輩の切り札」

「コストの割にパワーが高めなのは、流石SRって感じだよね」

「やっぱり音無先輩は天川君の強さを認めている」

「でも負けたらアレなんだよね……」

「そうなんだよね……藍も気をつけようね」


 おい聞こえてるぞ原作キャラども。

 本来ならお前らが相手するべきなんだからな。

 なんなら今すぐ俺の代わりにファイトを始めろ。


「アタックフェイズ」


 あぁもう、音無先輩がウキウキで攻撃耐性に入っちゃったよ。

 藍に見られているから変にテンション高いし。


「〈スノードロップ〉の効果発動! アタックフェイズ開始時に、相手は自身のモンスターを1体選んで【凍結】状態にする」

「……〈トリオ・スライム〉(B)しかいねーじゃねーか」


 残り1体はすでに【凍結】しているから選べないし、実質一択とか酷い事されたよ。

 しかも相手はこれだけで終わるようなカードじゃない。


「〈スノードロップ〉の効果。【凍結】しているモンスター1体につき、自身のヒットを+1する」


 現在【凍結】しているモンスターは2体。

 よって〈スノードロップ〉のヒットは……


〈【氷河の姫騎士】スノードロップ〉ヒット2→4


 ……無理して〈アイス・タイガー〉出さない方がヒット上がったよな?


「攻撃開始。〈ザ・スノーマン〉で攻撃」

「ライフで受ける」


 と言ってもモンスターでのブロックはできないんだけどな。

 雪だるま型モンスターが、巨大な雪玉を俺に投げつけてきた。


 ツルギ:ライフ9→8


「続けて〈アイス・タイガー〉で攻撃」

「ライフだ」


 氷の猛虎が、俺の身体を爪で引き裂いてくる。


 ツルギ:8→6


「まだいくわよ。〈スノードロップ〉で攻撃!」


 姫騎士が氷で出来たレイピアを抜き、俺に斬りかかってくる。

 俺は一度手札を確認してから……その攻撃を通した。


「……ライフだ」


 姫騎士のレイピアで斬りつけられる。


 ツルギ:ライフ6→2


 さぁて、普通ならこれで攻撃終了なんだろうけど。

 相手は仮にも六帝だからな。何かしら追撃の手段を持ってるだろう。


「魔法カード〈氷河姫ひょうがきの再演〉を発動」


 ほら持ってた。俺の予想通り。


「発動したのが自分のターンであれば、私の場の系統:《氷霊》を持つモンスターを1体選んで回復させる」


 回復するのは当然〈スノードロップ〉だ。

 姫騎士は再びレイピアを構えて、その切先俺に向けてくる。

 前の世界では散々弄ばれていたなぁ……(二次創作)。


「回復した〈スノードロップ〉でトドメよ!」


 冷たい目線と共に〈スノードロップ〉が斬りかかってきた。

 うん、やっぱり温存しておいて正解だったな。


「俺は【凍結】している〈ジャバウォック〉を破壊して、魔法カード〈トリック・ミラージュ〉を発動!」


 氷漬け状態から爆散するジャバウォック。

 なんか……ごめんな。


「このターン俺が受ける全てのダメージは、相手に跳ね返される。そして破壊された〈ジャバウォック〉の効果でカードを1枚ドロー!」


 ツルギ:手札5枚→6枚


 ちなみに【凍結】状態だと効果は無効化されるが、場以外で効果処理をする破壊時効果などは無効化されないぞ。

 そして〈スノードロップ〉の攻撃を、俺はそのまま受ける。

 ただし……ダメージは反射されるけどな。


「ッ!」


 俺の前に現れた鏡によって、ダメージは音無先輩に向かっていった。

 ちなみに【凍結】しているモンスターが1体減ったので、〈スノードロップ〉のヒットも3になっている。


 音無ツララ:ライフ10→7


「まずは3ダメージっと」

「…………」


 音無先輩、藍の前でダメージを受けたのがそんなに嫌だったのか?

 女子高生がしちゃいけない顔をしてるぞ。

 もう言葉では形容し難いくらい邪悪な何かになってる。

 あの人だけ出てくる作品のジャンル間違えてない?

 今の音無先輩、完全にホラーの住民だもん。


「……ターン、エンド」


 ツララ:ライフ7 手札2枚

 場:〈ザ・スノーマン〉〈アイス・タイガー〉〈【氷河の姫騎士】スノードロップ〉


 モンスターの【凍結】が解除されて、ターンも回ってきたけど、音無先輩の顔が怖すぎる。

 藍の前で中途半端なダメージを与えたのが間違いだったか。

 でも仕方ないじゃん、ライフ調整したかったんだもん。

 だから音無先輩、せめて女子高生らしい顔をしてください。

 特に血の涙はやめてください、リアルでは怖すぎるんです。


「藍たん……藍たん……藍たんの前で……ダメージを……許ざない……」

「早急に倒す。呪われたくない」


 もうこの人、生きた呪物とか悪霊の類だろ。


「俺のターン。スタートフェイズ、ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札6枚→7枚


 ドローしたカードは……おっ、良いカードが来た。


「メインフェイズ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉を召喚!」


〈コボルト・ウォリアー〉P3000 ヒット2


 モフモフ獣人な剣士が俺の場に現れる。

 単体では今すぐ戦えるカードではないけど、今必要なのは「コボルト」の名を持つモンスターである事だ。


「さぁて、ここでお披露目とは思わなかったけど……まぁ最適解だから使いますか」


 俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「俺は〈コボルト・ウォリアー〉と〈トリオ・スライム〉で融合進化!」

「なっ、融合ですって!?」


 2体のモンスターが1つの魔法陣に吸い込まれていく。

 和尚が使ってたんだし、俺も解禁するもんね!


「来い、融合進化獣! 〈キングコボルト・エックス〉!」


 魔法陣を突き破り、王冠を被った巨大な獣人が俺の場に召喚された。


〈キングコボルト・エックス〉P10000 ヒット2


「あれって、召臨寺の和尚さんが使ってたのと同じだ!」

「えっ、藍は見たことあるの?」


 後ろの原作キャラはのほほんとしてるなぁ。

 あと驚きのリアクションを取られたのがそんなに嫌だったんですか、音無先輩。

 俺が藍に驚かれた瞬間、先輩の身体から憎悪という憎悪が身体から漏れ出てるんだけど。

 怖いよ……やっぱりこの人の相手したくないよぉ。


「……〈キングコボルト・エックス〉の召喚時効果発動。デッキから2枚ドローして、手札を1枚デッキに戻す」


 便利な手札交換効果だけど……今一番交換して欲しいのは音無先輩の相手という立ち位置だ。

 お願いだから誰か交換してくれ。


『プイプイ! そろそろボクの出番っプイ!』

「そうだな」

『なんか白けてるっプイ!?』


 じゃあさっさと相棒を召喚しますか。

 終わらせたい。


「奇跡を起こすは以下省略。〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚」

『出番が来たけど、なんか雑に召喚されたっプイ!?』


 だって今めちゃくちゃ気力削がれてるもん。


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


「それが話に聞く貴方の切り札ね……そのカードの可愛さで藍たんを誑かして」

「もう突っ込む気力も無い」


 なんか新鮮なリアクションをされた気がするけど、どうでもいい。

 今すぐファイトを終わらせたい。

 でもそれはそうとして、音無先輩が何かカードを使ってきたな。


「その切り札を放置はできない! 魔法カード〈氷河の牢獄〉を発動。その緑のウサギを【凍結】するわ」


 なるほど、カーバンクルを【凍結】させて進化を封じる気なのか。

 確かに【凍結】してしまえば進化元にはできない。

 だけどそれは……【凍結】できればの話だけどな。


「魔法カード〈トリック・ディストーション〉を発動。自分の場のモンスターが魔法効果の対象になった時、その効果を他のモンスターに移し変える」


 カーバンクルに向かって来ていた氷が、俺の発動した魔法によって軌道を変えてしまう。


「俺が選ぶ対象は……〈ザ・スノーマン〉だ」


 軌道を曲げられた魔法効果によって、雪だるま型モンスターが氷漬けになってしまう。


「くっ。だけど効果ダメージは受けてもらうわ」

「はいはい……だから氷塊を全力投球すなー!」


 再び音無先輩は巨大な氷の塊を俺に全力投球してきた。

 絶対これ1ダメージの演出じゃないだろ!?


 ツルギ:ライフ2→1


「あと1点……あと1点で去勢……そして秘蔵写真……」

「だから無いモノねだりするなって」


 もう本当にやだ。さっさと終わらせる。


「ライフ4以下なので進化条件はクリア。俺は〈カーバンクル〉を進化」

『なんか進化も雑になってるっプイ!?』

「口上全省略。〈【幻紅獣げんこうじゅう】カーバンクル・ビースト〉を進化召喚」

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!(とうとう口上が全カットされたっプイ!?)』


〈【幻紅獣】カーバンクル・ビースト〉P15000 ヒット2


 合宿でも召喚した紅蓮の獅子こと、カーバンクル・ビーストの登場だ。

 なんか突っ込まれたけど許してくれ。気力がないんだ。


「はいじゃあさっさとぶっ放ちましょ〜、〈カーバンクル・ビースト〉を疲労させて【無限砲】を発動」

「【無限砲】ですって?」

「相手モンスターを全部破壊して、破壊したモンスター1体につき相手のデッキを上から3枚除外します」

「なっ、全破壊!?」

「はい撃って撃ってー」

『ガ、ガオォォォン……(今日は全体的に適当っプイ)』


 背中の大砲にエネルギーを充填する相棒。

 そして音無先輩の場を狙って、一気に発射した。

 凄まじいエネルギーの噴流に飲み込まれるモンスター達。

 だが一回で全滅させられるとは、俺も思っていなかった。


「くっ! 〈スノードロップ〉の効果発動。自身が破壊される場合、【凍結】状態のモンスター1体を身代わりとして破壊できる!」


 姫騎士の身代わりとして破壊される〈ザ・スノーマン〉。

 だがそれも織り込み済み。

 とりあえずは〈アイス・タイガー〉だけでも破壊できればOKだ。


「破壊したモンスターは1体。よって先輩のデッキを上から3枚除外」

「だけどこれで貴方の場には、攻撃モンスターが1体だけ……」

「あっ〈スノードロップ〉が場に残っているので【無限砲】の効果で回復します」

「回復効果まであるの!?」


 もうリアクションに付き合う気力も無いので、2発目いきますね。


「もう一回【無限砲】発射」

『ガオォォォォォォ!(やっぱり雑っプイ!)』


 再び放たれるエネルギー砲。

 今度はもう身代わり効果も使えない。

 姫騎士こと〈スノードロップ〉はそのまま破壊エネルギーに飲み込まれて破壊されてしまった。


「私の……〈スノードロップ〉が」


 音無先輩がショックを受けているけど、多分〈スノードロップ〉を出さない方が勝ち目あったかもしれませんよ。

 そもそもコストで〈スノー・シープ〉を破壊したのが間違いだし。

 まぁ今言っても無駄だろうから言わないけど。

 俺は俺で、最後の詰めに入りますか。


「このカードを出すには2点のライフコストが必要……だけど俺の場に〈カーバンクル・ビースト〉が存在する場合、そのコストは無くなる」


 俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 そして出現したのは紅い魔法陣。

 凄まじき雷鳴と共に、その武装は姿を現した。


「アームドカード〈【王の幻砲げんほう】ケラウノス〉を顕現!」


 俺の場に現れたのは、1つの巨大な大砲。

 グングニルが〈カーバンクル・ドラゴン〉の持ち武器なら、こっちは〈カーバンクル・ビースト〉の持ち武器だ。


「〈【王の幻砲】ケラウノス〉を〈【幻紅獣】カーバンクル・ビースト〉に武装アームド!」


 眩い雷を放って、ケラウノスは〈カーバンクル・ビースト〉の背中に武装される。

 ちなみに元々背中にあった大砲は事前に消えているぞ。

 さぁていきますか。


「アタックフェイズ!」

「疲労状態の武装モンスターなんて、何も怖くは」

「この瞬間〈ケラウノス〉の武装時効果発動! 場のモンスターを1体選んで、疲労または回復させる事ができる」

「なっ、それじゃあ」

「当然俺は〈カーバンクル・ビースト〉を回復!」


 起き上がる〈カーバンクル・ビースト〉。

 これで攻撃可能となったわけだが、効果発動は〈ケラウノス〉だけじゃない。


「さらにアタックフェイズ開始時に〈キングコボルト・エックス〉の効果発動! 自分の他のモンスターに追加効果を与える」


 ちなみに〈キングコボルト・エックス〉が味方に与えられる効果は次の3つだ。

 ・【2回攻撃】

 ・【指定アタック】

 ・パワー+4000とヒット+1


「俺は〈カーバンクル・ビースト〉に【2回攻撃】を与える」

「だけど私のライフは削り切れない」


 それはどうかな?


「早急に終わらせてくれ! 〈カーバンクル・ビースト〉で攻撃!」

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォン!』

「この瞬間〈ケラウノス〉の武装時効果発動! 相手の場にモンスターが存在しない状態で攻撃した時、除外されている相手のカード6枚につき、このカードのヒットを+1する!」


 さっきの【無限砲】でちょうど6枚除外できたからな。

 適度にパワーアップさせてもらうぞ。


〈【幻紅獣】カーバンクル・ビースト〉ヒット2→3


 流石に不味いと感じたんだろうな。音無先輩が静かに慌て始めている。


「な、なにか防御魔法は」

「無いだろ。手札にあるの〈氷河姫の再演〉あたりじゃないんですか?」

「な、何故それを」

「ただの推理」


 だって音無先輩のデッキだったら、優先的に入る防御カードってそれが筆頭格だし。

 この世界の人達って汎用カードを採用しないファイターも珍しく無いし。

 だから簡単に推理できたし。


『ガオォォォォォォォォォン!』

「くっ!」


 音無先輩に向かって〈カーバンクル・ビースト〉が爪で斬り裂いていく。

 ……いや背中の〈ケラウノス〉は使わないのかよ。


 音無ツララ:ライフ7→4


「2回攻撃」


 効果で〈カーバンクル・ビースト〉が起き上がる。

 さぁ終わらせますか。


「待って、せめて、せめてスマホのデータを!」

「聞く耳持たん!」


 俺の意思を汲み取ったのか、背中の〈ケラウノス〉にエネルギーを充填して、〈カーバンクル・ビースト〉は狙いを定める。

 さらに攻撃時に〈ケラウノス〉の効果がもう一度発動して、ヒットが4となった。

 これでトドメまでいける。


「ならせめて個人情報だけでも」

「〈カーバンクル・ビースト〉で攻撃ィ!」

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!』


 背中の〈ケラウノス〉から、膨大な破壊エネルギーを発射する〈カーバンクル・ビースト〉。

 防御カードを持っていなかった音無先輩は、呆気なくその光に飲み込まれてしまった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 音無ツララ:ライフ4→0

 ツルギ:WIN


 ファイトが終わり、立体映像も消えていく。

 なんというか……やっと苦痛から解放されたんだな。

 ちなみに音無先輩はその場で膝をついている。

 完全に敗北した姫騎士の構図だな。中身は蛮族側だけど。


「じゃあ先輩とりあえず」

「わかっているわ……脱げば良いんでしょ」

「脱ぐな服に手をかけるな少し大人しくしやがれ」


 お願いだから話通じてくれよ。


「藍、落としたって言ってたハンカチ先輩が拾ってくれてたってさ」

「えっ、そうなの!?」


 俺はしゃがんで音無先輩の前に手を出す。

 後は無言の圧をかければOKだ。


(おうハンカチ出せや。断ったらわかってんだろうな?)


 こんな感じの圧。

 音無先輩は心底残念そうかつ悔しそうにハンカチをスカートのポケットから取り出した。

 ……今取り出したのスカートのポケットで合ってるよね?

 別のところじゃないよね!?


「そ……その……」

「先輩が拾ってくれてたんだ〜、ありがとうツララ先輩!」

「…………」


 本性に気づいていないのか、音無先輩を前に無邪気な笑顔を浮かべる藍。

 これを歪めようとするんだから、音無先輩の罪は重いよな。

 で……音無先輩はというと。


「……………………」

「あれ? ツララ先輩?」


 音無先輩……気絶してなお、君臨するのか。

 先輩は膝をついた体制のまま、目を開けて気を失っていた。


「うわぁぁぁ!? ツララ先輩!?」

「……九頭竜さーん、コレ保健室まで運ぶの手伝ってくれない?」

「うん、わかった」


 気絶した音無先輩を、俺は九頭竜さんと一緒に保健室へと運ぶのだった。

 ……そこまでは良かったのだけれど。


「ツルギくん」

「天川君」


 どうして……


「「女の子にはもっと優しくしようね」」


 どうして俺の誤解だけは中々解けなかったんだ。

 結局2人からの誤解が解けるまでに3日もかかってしまうのであった。

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