第四十一話:助けたい人がいる
予選Bグループが終わり、本戦出場チームが決定した。
俺達はその様子を控室のモニターで見守る。
「さぁて、本戦はどんな感じでくるのかな?」
発表された本戦の内容は8チームによるトーナメント戦。
チームメンバー3人が順番に戦い、先に2勝したチームが勝ち進むというルールだ。
「これは……戦う順番も考えなくてはな」
「だな。相手との相性もあるだろうし」
だけどこういう戦略性は個人的に大好きだ。
俺達チーム:ゼラニウムはどんな順番で出ようか、今からワクワクする。
「あぁ、
「え?」
「そうですね。ツルギくんは私達の最終兵器ですから」
「むしろ最後に出てもらわないと困る」
戦略性ってなんだっけ?
完全に俺を駆使したパワーゴリ押し戦術が、そこにあった。
俺の……俺の入り込む余地がない。
そうやって俺が静かに涙を流していると、控室のモニターに動きがあった。
『それでは、確定したトーナメント表を発表いたします!』
モニターにでかでかとトーナメント表が表示された。
俺達はそれを食い入るように確認する。
やはり一番気になるのは……
「アイのチームとはかなり離れたな」
「そうだな。この組み合わせだと、チーム:
「焦らされるなぁ」
「が、頑張らないといけませんね」
ソラが鼻息荒く気合を入れる。
確かに頑張らないといけない。だがそれは俺達だけじゃなく、アイ達もだ。
「俺達が決勝に行くのは確定として、問題はアイの方だけど……」
「きっと大丈夫ですよ。アイちゃん強いですから」
「そうだけどさぁ。今のアイはあのメンタルだからなぁ……」
ソラが無言になって俯く。
やはりどうしても心配になってしまうんだな。
「どうした二人とも。らしくないな」
「速水」
「信じ抜きたいんじゃないのか? アイの事を、ライバルの事を」
「速水くん」
「俺達はサモンファイターだ。信じて戦い続ける事が、相手への最大のリスペクトになるんじゃないのか?」
そうだ。速水の言うとおりだ。
「だな。最後までアイを信じ抜くべきだよな」
「そうですね。私もアイちゃんを信じたいです」
「だったら俺達は俺達で、出来る限りのファイトをするだけだ。そうだろ?」
「あぁ! 思いっきり暴れてきてやる!」
「天川は少し自重してくれよ」
「ツルギくん、ほどほどでお願いしますね」
ご安心ください。
本戦は可能な限り正攻法で勝つ予定です。
……可能な限りでね。
「それはそうと、試合開始まで結構時間あるな」
「そうですねぇ。お昼休憩挟んでますから」
「せっかくパークに来てるんだし、どっかで美味い飯でも食いに行こーぜ」
テーマパークのグルメは割高だけど、お祭り気分で美味しくなるものだ。
割高だけど!
「天川の言うとおりだな。どこか近くにレストランでもあれば良いんだが」
「あっ、それなら私パークの地図持ってますよ!」
「ソラ……付箋がいっぱいついてるけど、もしかして」
「ち、違いますよ! 別に食べ歩きをしたかった訳じゃないですよ!」
ソラさんや。
食べ物屋にばかり付箋を貼った地図を出されても、説得力がないですよ。
「まぁいいや。チュロス食いながら練り歩こうぜー」
「たい焼き! たい焼きもお願いします!」
「何故このテーマパークにはたい焼き屋台があるんだ?」
速水が疑問を持っているが、深く考えるのはやめた方が良い気がする。
俺達が昼飯食べ歩きツアーの計画を練っていると、控室の扉をノックする音が聞こえた。
「ん? 俺出てくるよ」
とりあえず昼飯計画は二人に任せて、俺は扉に手をかける。
また三神さんだろうか。
俺が扉を開くと、そこには意外な人物がいた。
「……君らは」
立っていたのはの黒髪ロングの女の子と、金髪ショートボブの女の子。
俺はこの二人を知っている。
「あっ、あの……その」
黒髪の女の子、
「……誰かに見られても面倒だろ。話あるなら中で聞くよ」
「あっ、ありがとうございます」
俺はさっさと二人の女の子を控室に入れた。
念のため誰かが見てないかも確認する。大丈夫そうだ。
「ツルギくん、誰か来てたんで……え?」
「どうした
「お、お邪魔してます」
「配慮されて連れ込まれました」
二人の女の子を見てソラと速水が唖然としている。
だってそうだろ。
俺が控室に招き入れたのはチーム:Fairysのメンバー、佐倉夢子と
「おい天川! なんでライバル選手を控室に連れてきてるんだ!」
「だって話があるっぽかったから」
「だとしてもだ! もう少し思慮というものをだな!」
「あの、やっぱりご迷惑だったでしょうか」
夢子が恐る恐るそう言ってくる。
それをソラが全力で否定した。
「そ、そんなことないですよ! 問題ないです!」
「なら、良かったです……」
「速水も問題ないよな?」
「……まぁ、やってしまった事は仕方ない」
渋々理解を示してくれた速水。ありがたい事だ。
俺はとりあえず二人のアイドルを椅子に座らせる。
本題に入ろうか。
「で、アイドルさんは俺達にどんな用事があるんだ?」
「えっと……その、お願いが、ありまして」
「ユメユメ、アタシから話そうか?」
夢子は静かに頷く。
するとミオは、どこからか一つの召喚器を取り出した。
その召喚器を見た瞬間、俺達は目を見開いた。
何故なら俺達はその召喚器を見たことがあるからだ。
「それって、アイちゃんの召喚器、ですよね」
「あぁ。間違いなくアイの【
「アイっちには怒られるかもしれないけど、こっそり持って来たの」
俯き気味に、ミオがそう答える。
でもなんでデッキを持って、俺達のところへ?
「あの、お願いっていうのは」
「愛梨ちゃんの召喚器と、遠距離接続設定をして欲しいんです!」
やや悲痛気味に、夢子がそう言う。
それにしても、遠距離接続設定?
「なぁ速水。遠距離接続設定って、たしか」
「あぁ。距離の離れた相手の召喚器にターゲットロックをする為のシステムだな。とは言ってもせいぜい50メートルくらいの距離にしか対応していないが」
「でもなんでそんな設定を頼んでくるんだ?」
それがよく分からない。
するとミオと夢子は、静かに話を始めた。
「愛梨ちゃん。最近ずっと苦しい思いをしてるんです。自分のデッキを思うように使えなくて……」
「だからせめて、アイっちが尊敬している相手とくらいは、自分のデッキで戦って欲しくて」
「……本当は話すべきではないのかもしれないけど、アイから全部聞いてる」
俺がそう言った瞬間、ミオと夢子は膝の上で拳を握りしめた。
「プロデューサーの意向なんだってな。アイが【妖精】デッキを使ってるの」
「……はい。だけどそれは」
「アタシ達のせいでもあるの」
「ん? どういうことだ?」
「私とミオちゃんは、元から【妖精】のデッキを使っていたんです。だからアイドルとしてデビューした時も、それを活かしてアピールしました」
「アタシもユメユメと同じ。その後ユニットを組むことになって、アイっちと出会って……アイっちも同じ【妖精】デッキを使ってるんだって、最初は喜んでたの」
だけど……とミオが続ける。
「アイっちのは、全部、プロデューサーが無理強いしてただけだった。ある日アイっちが【樹精】デッキを持ってるのを見て、全部察したの」
「宮田愛梨という実績を彩るために、プロデューサーは愛梨ちゃんの意思を全部無視してきたんです」
今にも泣きだしそうな顔で二人のアイドルが語る。
「……プロデューサーの事も、俺はアイから聞いてるよ。君達二人を人質にしてる事も」
「ッ!」
「愛梨ちゃん……」
「アイが言ってたんだ。大切な仲間の夢を壊してまで、自分のエゴを通していいのか悩んでるって」
俺がそれを告げた瞬間、ミオと夢子はポロポロと涙を流し始めた。
「わ、私は」
「アタシは! アイっちを犠牲にしてまで、アイドルなんてやりたくない!」
ミオの悲痛な叫びが、控室に響き渡る。
「みんなを笑顔にしたくてアイドルになったのに……大切な友達を犠牲にして、デッキを使えなくするなんて……そんなのしたくないよ」
「私も……同じです」
涙ながらに気持ちを吐露するアイドル二人。
俺の後ろでは、ソラも少しもらい泣きをしている。
少しの間が、空間を支配する。
俺は無言で、テーブルに置かれたアイの召喚器に手を付けた。
「遠距離接続設定をすればいいんだな」
「天川!?」
「アイがターゲットロックをするより早く、この召喚器に俺がターゲットロックをする。それが作戦で良いんだな?」
「は、はい! そうです!」
俺は自分の召喚器を取り出し、設定画面を起動する。
だけどそれを速水が止めようとする。
「まて天川! 早まるな、もっと警戒しろ!」
「警戒する要素、あるか?」
「こんな事は言いたくないが、あのプロデューサーの部下相手だぞ! 何か罠の可能性も」
「ないだろ」
「何を根拠に」
「根拠なんてなくていい。友情がSOS出してるんだ、助けなくちゃだめだろ」
それにな……
「仮に罠だったとしても、友達のために動くんだ。俺は後悔しねーよ」
本心からの言葉。
アイという友達のためにやる行動だ。後悔なんてするもんか。
「私も。念のために設定しますね」
「赤翼!?」
ソラも自分の召喚器を取り出して、設定画面を開いた。
二人で遠距離接続設定をする。
「アイちゃんが自分を失いかけてるんです。私にできる事なら、喜んでしますよ」
「速水はどうする? 別に強制しないし、やらなかったからと言って責める事もしない」
しばし無言になる速水。
メガネの位置をただし、二人のアイドルを見る。
「君達の言葉、信じて良いんだな?」
「はい」
「うん。信じて欲しい」
「……わかった」
そう言うと速水も召喚器を取り出して、設定画面を開いた。
これで誰がアイと当たっても、作戦は実行できる。
「一応確認しておくけど、本当にいいんだな?」
これだけが懸念事項。
「アイが【樹精】デッキを使えば、君たちがどうなるか分からない。アイから聞いた話を信じる限りじゃきっと……」
「いいんです。私もミオちゃんも、覚悟は決まってますから」
「うん。自分の事よりも、アイっちを助けたい」
「そうか」
なら、俺から追及する事はもう無いな。
俺は遠距離接続設定を終わらせる。
「ルール上、ターゲットロックで繋がったデッキがファイトをする事になってる。予備デッキで登録されているアイのメインデッキと繋げば、上手くいくはずだ」
「だが問題は、俺達チーム:ゼラニウムと、チーム:Fairysが対戦するまでの道のりだ」
「速水曰く、俺達が戦うには双方が決勝戦に行く必要があるんだってよ」
その話を聞いた瞬間、ミオと夢子は固唾を飲んだ。
「約束してくれ。必ず決勝に行くって。俺達も必ず決勝に行く」
「……はい。約束します」
「絶対に勝って、アイっちを連れていくね」
交わす約束。
俺は自分のデッキが入った召喚器に目を落とした。
アイとファイトをして、それでアイを救えるかどうかは正直分からない。
だけど、それでもこのファイトで、アイが何か答えを見つけてくれるのだったら。
「絶対にアイと戦う……あいつの魂を救うんだ」
俺は控室にいる全員を見渡す。
思いは、同じだ。
「絶対に決勝に行くぞ……アイを助けるために!」
速水とソラ、そして二人のアイドルは力強く頷いた。
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