第七十一話:平和な学園生活……終了!?

 聖徳寺しょうとくじ学園に入学して数日が経過した。

 とりあえず授業は始まったが、やはり一年生の最初故か、まずはサモンの基礎を復習するのが中心。

 一般科目の授業もあるが、それに関してはごく普通の授業だ。

 やはりここで注目したいのはサモンの授業……なのだけど、そもそも実技の授業がまだなので語る内容がない!

 早く実技で暴れさせてくれとは、藍と俺の言葉である。

 とはいえ、派手派手なファイトをするのは時間の問題。

 今はこの平凡な日常を楽しむのも一興だと思う。


 まぁ、中にはすでに平凡なから遠ざかっている奴もいるけど。

 それはそれとして、俺は平凡。

 今日は学園にある食堂の飯を楽しんでいるぞ。


「流石は聖徳寺学園の学食。飯が美味い」


 今俺はカレーを食べている。

 肉は軍鶏肉、スパイスは自家配合。完全に専門店のカレーである。

 これが学食価格で一杯500円って素晴らしすぎない?


「ここの食堂は学園長の趣味で、一流のスタッフが揃ってるらしいわね。お祖父様が言ってたわ」

「流石はアイ。そういうのには詳しいな」


 ちなみに今俺はアイ、ソラと一緒に昼飯中。

 速水は図書館で調べ物だそうだ。


「あら? そういえば藍は居ないのかしら」

「あぁ、藍なら」

「藍ちゃんなら今日もS組に殴り込みにいっているらしいです」


 困り顔で答えるソラ。

 だけどその通りなんだよなぁ……。

 入学式の日以来、藍は九頭竜真波にファイトを挑むために、何度もS組に行っている。

 まぁことごとく追い返されているんだけどな。


「でも不思議ですね。どうしてファイトを受けないんでしょう?」

「予約があるんだろ。S組の生徒、ましてや六帝りくていとのファイトともなればやりたい奴はいくらでもいる」

「なるほどね。先約がすでに多すぎて、藍のファイトを受けている余裕はないってこと」

「それだけファイトを挑まれているなんて……すごいですね〜」

「実際スゴいんだよ、六帝評議会ってやつは」


 下手をすれば直接対面する事も難しい人達だからな。

 アニメだと六帝が登校してきただけで、ギャラリーが沸いてたからな。

 ファイトするともなれば、簡単にはいかない。


 ま、この悩みは藍だけじゃなくて俺も抱えているんだけどな。


「俺も六帝とファイトしてー」

「ツルギくんが言うと、冗談に聞こえないですね」

「というか、冗談じゃなくて本気で言ったでしょ」

「とうぜん」


 だって六帝評議会に入りたいんだもん。

 あとは色々と探りたい事もあるしね。


「ツルギ……お願いだから、変な騒ぎは起こさないでよ」

「失礼な。俺は普通にファイトを挑む予定だ」

「ツルギくんの普通は信用できないです」


 ソラさんや、真顔でそんな事言わないでください。

 泣きそうになります。


「でも六帝って、どうやってなるんでしょうか?」

「ランキング戦で上位に入ればなれるんじゃないの?」


 ソラアイが純粋な疑問を上げている。

 まぁ普通ならそう思うよな。

 勿論俺はきちんと調べた後だぜ。


「ランキング戦で上位に入るのは最低条件だ。問題はその後」

「どういうことかしら?」

「ランキング戦で上位6名に入ったら、六帝への正式な挑戦権が得られる。そこで六帝の誰かに勝てば良いらしい」


 ちなみに六帝が卒業でいなくなった場合は、ランキング上位者から繰り上がりで六帝に入る事になるとか。

 もっとも、繰り上がりなんて甘い事象は一度も発生した事ないらしいけどな。


「そうなんですね。厳しいです」

「まぁ最強を名乗るわけだからな。これくらいしないといけないんだろ」

「でもツルギ。それだけじゃない、でしょ?」


 流石アイ。察しが良いな。


「この学園はサモンが全ての学園。当然何かを賭けた勝負だって珍しくない」

「……それって、もしかしてですけど」

「六帝の席を賭けた勝負。そういうのも有りなんだ」


 当然だけど、双方の合意が必要だけどな。


「とは言え、この方法はあまり現実的じゃない。六帝の席を巡るファイトなんて、どっちかの退学を賭けても割に合わないからな」

「それでも割に合わないんですね」

「改めて考えると、中々に飛んでる学園ね」

「それが聖徳寺学園だ」


 ここは良くも悪くもサモンが全て。

 サモンの強さは権力の強さ。

 強さこそ正義の学園だ。


「ということは、ツルギくんはやっぱりランキング戦を目指すんですか?」

「そうだな。まずは正攻法でランキング戦を勝ち抜く予定」

「勝算はあるのかしら? 少なくともランキング戦では私達A組だけじゃなくてS組とも対戦する事になるわよ」

「みんな間違いなく強いファイターのはずです。特にツルギくんはJMSカップでテレビに映ってますから、ループコンボの対策もされてそうです」

「大丈夫だ。ちゃんと考えはある」


 俺は1枚のカードを召喚器から取り出して、二人に見せた。


「ツルギ、それって!」

「新しいSRカードですか!?」

「選択肢は多い方がいいだろ?」


 あたかも最近当てたように振る舞う俺だけど、手にしているカードは前の世界から持ってきたもの。

 ちなみにJMSカップで使わなかった理由は、アイのデッキにはあまり刺さりそうになかったからだ。


「このカード……カーバンクルの進化形態なのね」

「蒼いドラゴンじゃなくて、今度は紅いライオンです」

「名前はカーバンクル・ビースト、これをデッキに入れて頑張る予定だ」


 刺さるデッキにはとことん刺さるカードだからな。

 これとカーバンクル・ドラゴン、そしてアームドカードで暴れてやるんだ。


「でもねツルギ」

「私達も負けてはいません!」


 そう言ってアイとソラはカードを取り出して、俺に見せてくる。


「それは、アームドカードか」

「はい。この前アイちゃんと買ったパックで当てたんです」

「私達もこのカードでデッキを強化する予定よ」

「これは強力なライバル登場だな」


 だけど負けるつもりはない。

 ランキング戦勝ち抜いて、六帝に入るんだ。

 それに……誰にも言わないけど、現在は無制限、未来では禁止指定受けたカードも仕込んであるしね。

 例の事件が起きたら、このカードを迷わず使う予定だ。


「それにしても速水はともかく、藍のやつ全然食堂にこねーな」

「もうすぐお昼休み終わっちゃいますよ」


 結構食いしん坊な藍が昼飯を抜くとは考えられない。

 どうしたんだろうか?

 いや待て……入学から数日経過?

 なんかアニメでイベントがあった気がする。


「あら、何か騒がしいわね」


 アイに言われて気がついた。

 食堂のモニターに、ファイトステージが映し出されている。

 皆それを見ているのだ。

 誰かファイトしているのか?


「……まさか」

「あっ、ツルギくん!」


 俺は一つの可能性に行きつき、急いでモニター前に移動した。

 人をかき分け、顔を上げる。


「あっ、やっぱり!」


 モニターに映っているファイトステージ。

 そこに立っているのは藍。

 そしてもう一人は、九頭竜くずりゅう真波であった。


「おい見ろよ竜帝りゅうていのファイトだぜ」

「相手は最近竜帝に付き纏っていた新入生の女だ」

「こりゃあボコボコにされるぞー」


 ギャラリーが好き勝手に言っているが、今はどうでも良い。

 モニターの向こうで、藍と真波が召喚器を向け合う。


『『ターゲット・ロック!』』


 そうか、今日だったのか。

 藍と真波の初ファイトは。


『『サモンファイト! レディー、ゴー!』』


 俺は静かに、二人のファイトを見守る事にした。

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