第六章:高校生編③

第百二十四話:第二回色々確認事項

 無事に速水をウイルスから救い出し、問題解決をした俺。

 傷痕はあれど、一応回復してから帰宅した結果!


「言い訳は?」

「ありまふぇん」


 卯月うづきにボッコボコにされました。

 今リビングで正座させられてます。


「あのさぁ……もっとこうやり方あるでしょ」

「だって伝えたい事伝えるには引き分けしか」

「あ“ぁ”?」


 滅茶苦茶睨まれました。

 家に帰るや傷だらけなので、卯月と母さんにめっちゃ心配された俺。

 流石に隠すわけにはいかないから全部説明したんだけど、結果がコレだよ。


「なぁ卯月、もうちょっと手心とかない?」

「どの口が言ってんの?」

「だって俺の顔見てくれよ。めり込み過ぎて*みたいになってるぞ。自分で言うのもアレだけどよく喋れてるな俺」

「顔全体でモゴモゴ言わないで。絵面がキモい」


 酷い言われようだ。すぐ治るからいいけど。


「まぁまぁ卯月もその辺りで、ね?」

「お母さんは呑気しすぎ。流石に今回はちゃんと怒った方がいいよ」

「でもツルギもお友達を助けられたんだし、こうして帰ってきたなら良いじゃない」


 そうだそうだ、もう少し褒めてくれ。

 言葉にしたら次は俺の頭部がモザイクに包まれるから言わないけど。


「キュ〜っプ〜イ」


 あとカーバンクルよ、母さんの膝の上でのんびりしないでくれ。

 俺がピンチなんだよ、助けてくれ、弁護してくれ。


「本当にありがとうね、カーバンクルちゃん」

「プイプイ、当然っプイ」


 母さんに撫でられて幸せそうなカーバンクル。

 俺は妹に叱られて対極だけどな!


「それにしても、ウイルスって怖いわね〜」

「うん。お兄もかなり怪我したみたいだし、カーバンクルがいなかったら無事じゃなかったみたいだし」

「それなんだよな……ここまでダメージが実体化してくるウイルスは、もっと後で少しだけ出てくるはずだったのに」


 まさかここまで早期で出てくるとは、完全に想定外だったな。

 逆に言えば、一回怪我すれば次からは想定内にして動けるんだけど。


「ねぇお兄、アタシ達がウイルス感染者とファイトする事になった時、どうすればいいの?」

「基本的にはファイトそのものを回避した方が怪我はしない……ってのは前提なんだけど、それでも避けられない場合は全力で勝ちにいけ」

「いいの? 相手が一方的に怪我しちゃうんだけど」


 まぁ対戦相手を怪我させるのは忌避感でるよな。

 人間なら当たり前の感性だ。


「俺はカーバンクルがいるから今回みたいな選択が取れたけど……基本的にウイルスとの戦いでは負けた時の方がデメリットが大きい」

「じゃあお兄は相手が誰であっても勝ちに行けって言うの?」

「……できる範囲でいいよ。できない時は、人間絶対にできない」


 卯月が言いたい事はわかる。

 今回の俺みたいに、親しい友人が感染した場合の話だ。

 速水の場合は、俺自身が因縁を断ちたかったというのも大きい。

 だけど卯月はどうだ。まいちゃんや智代ちよちゃんが感染したら、相手が怪我する可能性を知っても戦えるのか。

 正直、俺は難しいと思う。

 速水と真正面からファイトできた俺が特殊なだけだ。

 普通ならきっと、自分の心が傷つく。


(……もしも、感染していたのが他の奴だったら)


 口には出せないけど、俺は同じようにファイトできたと言い切れない。

 もしもアイやらんだったらどうだろうか。

 俺は同じように戦えただろうか。

 ソラだったら……考えたくもない。


「ウイルスカードの配布。アイツがどこまで外に広げるかなんだよな」

「アニメだったらどうなの?」

「基本的に学園の中。たまに外に配布するけど、大抵すぐに藍に撃破されてたな……アニメなら、な」


 速水への感染そうだけど、地下施設に放置をかますとは思わなかった。

 恐らくこれはアニメでは省略されていたような行動。

 完璧に予防をするには、その省略さえも予測して動く必要がある。

 なんて言っても、それは流石に限度がある。


「いくらアニメ知識があるとは言っても、見えないものまでは対策しきれないぞ」

「そりゃそうよね〜」


 卯月も大きなため息をつく。

 未知がここまで恐ろしいとは、俺自身正直甘く見ていたな。


「にしても前の世界でもだけど、あのゴミ男こっちでも悪さばっかじゃん!」

「だな……世界は変わっても根っこまでは変わらないみたいだ」


 まぁおかげで予測しやすい部分もあるんだけど。

 速水リュウトなんかは特にね。


「ねぇお兄。もうあのクソ男のとこ乗り込んで一回〆ない?」

「ダメだ」

「なんで」

「アレは速水が討つべき相手だし、速水が断つべき因縁だ」


 正直やろうと思えば、今すぐに速水リュウトを倒す事なんて、俺には簡単にできる。

 もっと言ってしまえば、感情的には今すぐにでもアイツに制裁を加えたい気持ちは強くある。

 でもそれじゃあダメなんだ。そっれじゃあ速水の因縁切れない。

 あくまでアイツは速水が討つべき相手。

 俺にできる事は、決戦の日までの下準備を手伝う事だけだ。


「でもさーお兄。アイツ今プロなんでしょ? 早めに始末しないとリーグとか色々で、こっちから近づき難くなるじゃん」

「問題ない。速水とアイツは来年必ず戦える」

「言い切るじゃん。根拠あるの?」

「来年、アニメ2年生編……つまり四年に一度の世界大会の予選がある。しかも赤土あかど町で」


 そう、アニメ2年生では世界大会の日本代表戦が描かれる。

 この世界では四年に一度行われる、最大規模の世界大会。

 予選はプロアマ問わず参加できるんだけど、それが来年は日本でも開催される。

 重要なのはプロアマ問わずという部分。

 最大規模の世界大会だ、プロが参加しない理由なんてない。

 何よりアイツが参加をスルーするような性格なわけがない。


「来年はウイルスとは別の問題も発生するけど、少なくとも速水には大きなチャンスが来る。それまでに俺がなんとかするさ」

「来年か〜……いや来年も問題発生するんだ。知ってたけど」

「するんだよな〜、今度は侵略者的なのが来るし」


 アレはアレで絶対面倒くさいんだよな〜。


「侵略者? 宇宙人が攻めてくるのかしら〜?」

「母さん、宇宙人ではないけど悪いヤツとだけ覚えておいてくれ」

「はーい」


 のんびりしてる母さんだなぁ。

 とりあえず俺は、目下ウイルス関係をなんとかしなきゃな。

 その時ふと思った事があった。


「なぁカーバンクル」

「キュップイ?」

「化神ってエネルギーがないと存在が維持できないんだよな?」

「そうプイ。ボク達は擬似生命体だから、存在がすごく不安定っプイ。存在維持のためにもエネルギーはたくさん必要っプイ」

「ウイルスって、エネルギーなんだよな?」

「エネルギーっプイ。ツルギに感染したのを食べて、ボクは復活したっプイ」


 そうなんだよな。ウイルス以外に俺の体力も食われてたけど。


「速水の〈スチームパンク・ドラゴン〉も……確かに化神だったんだよな?」

「プイ……一瞬だったけど、確かに擬似生命体、化神だったっプイ」

「エネルギーを失った化神って、どうなるんだ?」


 少し恐ろしいものを聞く質問。

 だけど知っておきたかった。

 もしかすると、この後もウイルスの影響で芽生える生命があるかもしれない。


「……エネルギーを失った化神は、死ぬっプイ」


 少し間をおいて、カーバンクルは答えてくれた。


「だけど完全に死ぬ場合と、復活の可能性が残る場合があるっプイ」

「復活の可能性? なんじゃそれ」

「化神は存在が不安定。言い換えれば死ぬ事さえ不安定っプイ。ボク達は理論上、存在の大部分が消滅しても欠片さえ残っていれば、他を補うエネルギーを得て復活が可能っプイ」


 急に不死身みたいな事言い始めたな、この緑ウサギは。


「でも死ぬほどのエネルギー枯渇になったら、欠片が残ったとしても復活に必要なエネルギーが莫大過ぎるっプイ」

「えっと、つまり?」

「現実的に復活は難しいっプイ……だからあのドラゴンも、化神として復活するのは難しいっプイ」


 どうやら思惑を読まれていたらしい。

 そうか……難しいか。


「意外と、なんでもは上手くいかないな」


 思わずそうぼやいてしまう。

 方法があるなら、速水と〈スチームパンク・ドラゴン〉をちゃんと合わせてやりたかったけど、そう簡単な話にはならないらしい。


「ねぇカーバンクル。化神になる可能性があるカードって見分けられないの?」


 珍しく卯月がカーバンクルに質問をした。

 確かに、今後化神になる可能性があるカードがわかるなら知っておいて損はないかもしれない。


「う〜ん、難しいっプイ。化神になる前の状態だと、存在が小さ過ぎてボクには感じ取れないっプイ」


 申し訳なく答えるカーバンクル。

 まぁ確かにそうかもしれない。感じ取れているなら合宿終わりの段階で、カーバンクルが〈スチームパンク・ドラゴン〉について触れていたはずだ。


「うーん、アタシのカードに化神がいるか知りたかったのに」

「……蛇竜じゃりゅうの?」

「当たり前じゃん。絶対可愛いパートナーになるじゃん」


 蛇なんですよ。結構見た目が怖い蛇なんですよ。

 そんな事したら余計に『蛇姫』の字面を体現する事になるぞ。


「で、お兄はアイツどうするの?」

政帝せいていか?」

「当然」


 まぁ卯月が言いたい事はわかる。

 早急にあいつを倒した方がいいだろって話なんだろ。

 それは俺も同感だ。


「一応基本的なスタンスは変えない。あくまで藍が倒すならそれで良い」


 ただし。


「俺が倒せる余地が少しでもあるなら。まつり誠司せいじは俺が直接潰す」

「うわっ、お兄が本気だ」

「もちろん。あの帝王気取りにはデカいツケを一括で払わせてやる」


 そのためには勿論、俺自身のデッキを強化する必要がある。

 流石にウイルスのせいで未知のカードが出過ぎた。

 ならもう、限定解除してもいいよな?


「後でデッキを組み直す……【幻想獣】から【カーバンクル】にする」

「……ねぇお兄、それって確か」

「幻想獣の派生デッキ。そして俺が転移前に使っていたガチデッキの一つだ」

「急にブレーキペダル投げ捨てじゃん。あれって確かSRめっちゃ入ってなかった?」


 入ってますよ。カーバンクルとその進化形態7種を含めれば、合計8種類が最低枚数です。

 そこに制限指定もかかった専用インチキドロー魔法や、その他パワーカードが盛り沢山よ。

 ……見えないテキスト相手には、どこまで余裕持てるかが問題だけどね。


「とりあえず後でカーバンクルの進化形態全部引っ張り出す」

「なんかボク急にパワーアップの予感っプイ」


 今のところ使った事あるのは……ドラゴン、ビースト、テンコの3種。

 あと必要なのは……サムルク、ヴァンプ、ミョルニール。

 それから7枚目の切り札だな。


「お兄、ちなみに聞くんだけどさ……どの範囲までのカード使うの?」

「範囲?」

「収録時期。来年実装予定のカードとかも使うの?」


 卯月に言われてハッとなった。

 確かに未来過ぎるカードの仕様は少し不味いか。


「ギミックが未来過ぎなければセーフ……じゃダメかな?」

「しっかりしてよ。お兄が頼りなんだからさー」


 だって一部の特殊ギミックさえ使わなければ、滅茶苦茶自由に組めるもん。

 俺の【カーバンクル】だって9割は力を発揮できるぞ。


「ツルギは色々悩んでばかりっプイ」

「悩まなかったら人間は何もできないんだよ」

「そうだったプイ。だからボクは人間が好きになったっプイ」


 しかしギミックか……


「一応今がアニメ1年生編……商品展開だと【王国編】ってやつだから、それ以降の特殊ギミックだけ避けるか」

「避けた方が良いギミックだけ教えて」

「とりあえず2年生編【解放編】のギミックだと……名前が変わるアームドは全部だな」


 来年もアームド推しなんだよな。

 なんなら敵側専用のアームドとか出るし。


「で、3年生編【誓約編】……アレなんだよな」

「お兄が何を言いたいか理解した上で言うね。アタシは絶対にアレ使わないからね」

「そもそも《蛇竜》にはアレ無いだろ。《幻想獣》にも無いけど」


 一応俺達は無関係……だけど、他の面々は3年生になると使うかもなんだよな。

 ……頭が痛くなるから想像しないようにしよう。


「とりあえず明日は、政帝のとこに乗り込むか」

「お兄、アタシの話聞いてた?」

「明日はデッキ強化して行くからセーフだろ!」

「無茶するなって話!」


 結局その後、俺はしばらく卯月に叱られ続けるのであった。

 もちろん、デッキは【カーバンクル】に組み直したけどな。



 翌日。

 気合を入れて登校した俺だったが、肝心の政帝と嵐帝が海外の姉妹校に行っていると聞いて、盛大に出鼻を挫かれるのであった。

 間が悪すぎる。


(そういえばアニメでもそんな下りあったね。よりによって今だったのかよ!)

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