第百二十五話:夏休みはバカンスに
なんてうまい話にはならない訳でして。
まさかの黒幕2名が海外に飛んでいるというオチになってしまった。
いや完全に失念してたな。アニメでもしばらく不在の期間があったし、二学期に戻ってくる描写では確かに海外からの帰りだった。
見事に出鼻を挫かれてしまったなぁ。
とはいえ何もせず待つわけにはいかない。
一学期も残り一ヵ月を切っているが、ウイルス関係の事件がないわけではないんだ。
(……あれ? 黒幕2人がいないのに、なんでウイルスカードを入手するヤツが出てくるんだ?)
アニメでもあった疑問。
黒幕不在期間にどうやってウイルスを入手するのだろうか?
まぁそれに関しては、感染した人から直接聞けば良いか。
……なんて考えていたんだけどな〜。
「オイラ、大活躍ブイ!」
「ツルギくん。アタシ、なんか変なカードとファイトしちゃったんだけど」
昼休みに
どうやら知らないところで、藍とウイルスの戦いが始まって、初戦が終わったらしい。
えぇ……もう終わったの?
「なぁカーバンクル……ウイルスの気配とか感じ取れたりしないの?」
「スピ〜、スピ〜」
俺の頭上で熟睡するカーバンクル。
相変わらず学校では眠くなりやすいらしい。
「そうか……とうとう藍もウイルスと戦ったか」
ひとまず俺は、ウイルスカードの危険性や特性に関して説明をする。
あと黒幕が政誠司だという事も付け加えて、オマケに速水も被害に遭った事も伝えておいた。
色々と情報量多いけど、頑張って理解してくれた藍。
「む〜、じゃあ
「その政帝さんは今アメリカだってさ」
「海の向こう!?」
「学園の代表として、アメリカの姉妹校で交流会だってさ。牙丸先輩が教えてくれたよ」
「……それアメリカ大丈夫なのかな?」
藍、正直それは俺も思ったけど考えないようにしていたんだ。
アメリカの規模でウイルス流行とか想像もしたくない。
アニメでは特に描写がなかったから、大きな問題にはならないと信じて……いいよね?
それに一応は政誠司の持っているウイルスの本体を倒せば、連鎖して広まったウイルスも消せる筈だし。
(問題は、どのタイミングで本体を叩くかなんだよな……)
最終的には本体が無数の根を張るように、ウイルス感染者を操ってくる展開なんだけど。
一つの仮説として、全ての感染者に本体が接続をしたところで叩くのが正解なんじゃないか、とも考えている。
実際アニメの一年生編ラストでは、そんな感じの描写があったし。
早期に決着をつけられるなら、それが最善なんだろうけど……中途半端に感染者が残っていた場合が一番面倒かもしれない。
(アメリカに感染者が出ていたらと考えれば……色々難しい選択だよな)
危険性を承知した上で、一番確実な根絶手段を取る。
もしくは地道に潰して、目に見える範囲だけ対処していく。
二つに一つなんだよなぁ。
「にしても、カーバンクルはあんな不味いエネルギーを食べてたブイ? オイラはあんまり食べたくないブイ」
げんなりした顔で文句を言うブイドラ。
あっ、やっぱり化神的には不味いんだ。
でも残さず食べてね、人間には死活問題なので。
「ブイブイ……あの不味さ、シルドラは絶対オエって吐くに決まってるブイ……」
うわぁ、簡単に想像できる。
絶対シルドラは「無礼者! 我に汚泥のようなエネルギーを口にさせるとは!」ってキレ散らかすと思う。
……いっその事その怒りを黒幕2人に向けさせるか?
「まぁ何にせよ、藍は一度戦ったからウイルスの危険性は理解できただろ?」
「うん……ツルギくんが言ってた通りだったね」
「無理に首突っ込まなくても良いんだぞ。逃げた方が安全なのには変わりな――」
「アタシは戦うよ。だってサモンってもっと楽しいものだもん!」
まぁ……藍はそう言うよな。
分かっていた事とはいえ、意思までは簡単に変えられないか。
「サモンは楽しく、激しく! もっとテンション爆アゲでやらなきゃ! ウイルスで暗くなったら楽しくないよ!」
「そうだな……その通りだな」
分かる事もあれば、分からない事もある。
化神のような未知の要素もあれば、感染後のカードという未知の脅威もある。
情報という大きなアドバンテージがあるとはいえ、自分は決して万能とは言えない。
最近はそれをひしひしと感じる事が多い。
「アタシ真波ちゃんにも相談してみる! あんなカードよくないもん!」
「あぁうん……九頭竜さんは間違いなく協力してくれるだろうな」
だって爆速で藍にデレたもん。
今から藍がお願いしたら即答で協力してくれるだろうさ。
シルドラは……なんだかんだ言って九頭竜さんに従うから大丈夫か。
(にしても……ウイルスと化神か……)
ウイルスを食べて除去してくれる化神。
非常にありがたい存在であると同時に、やはり化神そのものに対して分からない事も多い。
カーバンクルの説明では難しい単語も多いからなぁ。
(地道に探っていくしかないか……世界の差異なんかも含めて)
ひとまず今は、目の前に出てきた問題を片付ける方向で行こう。
それくらいしか、やる事もないだろうしな。
◆
で、少し時間は経って7月の末になり、聖徳寺学園も夏休みに突入した訳ですが。
一言だけ世界に文句を言わせてください。
なんで俺の知らない場所でウイルス関係の事件が解決しちゃってるの?
アニメでは夏休み前にもウイルス感染者の事件とかあったよ。
だから俺もそれを早期に解決できたらと思ってたよ。
なのに全部……ここまでの全部、俺の知らないところで始まって、終わってました。
なんなの!? 俺も仲間に入れてよ!
ピンポイントで俺が参加できないタイミングで、感染者と藍が戦うし。
九頭竜さんも初めてのウイルス戦を経験してたし。
その九頭竜さんのファイトを目撃した事で、アイがウイルスカードについてちゃんと理解をしてくれました! ありがとう。
事件が無事に解決したのは良いけどさぁ……俺も参戦させてよ。
見たかったんだよ、アニメと同じファイトを生でさぁ。
どうするんだよ、気づけばもう夏休み入ったよ。
「ツルギくん、なんだかゲッソリしてませんか?」
「ファイトし足りないな〜って思ってさ」
「期末試験も終わったのにですか!?」
隣でソラに突っ込まれてしまった。
だって本心だもん。期末試験のファイトは合宿より楽だったもん。
……一般科目は追試回避したのでノーコメント。
さて、色々段落がついた訳だけど。
現在俺は、とある離島に向かうフェリーに乗っている。
俺とソラ以外には、速水に藍と
「うーん、楽しみー! 夏休みに海! これぞバカンスって感じだよね!」
「うん、お友達一緒にお泊まりだから……ボクも楽しみみみみみみみみ」
「一緒に買いに行った水着もあるし! 真波ちゃん、全力で楽しむよ!」
「あババババババババババババババ」
近くでは藍がはしゃぎ、九頭竜さんが隣でバグっている。
いや九頭竜さん、そろそろ耐性つけてくれよ。
非リアにとって海が眩し過ぎるのは……痛い程分かるからさッ!
「海か。俺も長いこと行ってなかったな」
眼鏡の位置を直しながら呟く速水。
今回は速水に羽根を伸ばして貰いたいもんだよな。
ウイルス感染の一件から、まだまだ時間が経ったとは言い難いし。
ただそれはそれとして……
「速水……飯作る時の助手、任せるぞ」
「心得ている」
もし今日速水が不在だったら、俺は人間の限界を超えていたかもしれない。
「でもアイちゃんの実家もスゴいですよね。海の近くに別荘だなんて」
「フフ。たまにしか使わない場所なんだけどね。風を通すついでだから、適当に使っていいわよ」
そう言うアイだけど……普通の御家庭は別荘なんて持ってないからね?
別荘を持つ実家ってスゴいからね。
まぁそんな事を言うと、そもそも聖徳寺学園は金持ちが多いんだけど。
カードの価値が高いのも影響しているんだろうな。
「ちなみにアイ。別荘へのお誘いの時にさ……何が何でも俺達に来てもらおうとしていた理由はあるのか?」
「ふ、深くは気にしなくていいわよ」
「本当は?」
「申し訳ありません、実家から別荘の掃除を任されました手伝ってください」
正直でよろしい。
あと宮田家よ、生活力皆無の娘一人に任せるな。
どう考えても人選ミスだろ。
「そんな事だろう思ってたよ。バケツとか現地調達でいいよな?」
「ごめんなさいアイちゃん。私も荷物に雑巾と手袋を入れて来ました」
「すまない宮田……俺もある程度の準備はして来た」
「フフフ……優しさで心が痛む事ってあるのね」
涙目になるアイ。
だって滅茶苦茶必死に誘ってきたじゃん。その時点で何かあるって察したよ。
「えっお掃除するの? じゃあアタシも」
「藍は九頭竜さん係に任命する。とにかく九頭竜さんから離れないでくれ」
「天川くん、今ボクは普通に傷ついたからね」
申し訳ないがマイナス補正はNGとさせて頂きます。
そんなやり取りしていると、フェリーが目的地に近づいてきた。
「あら、もうすぐ到着よ」
アイに言われて、俺達は外を見る。
絵に描いたように自然が生い茂っている、大きな島が視界に入ってきた。
あれが今回の目的地『
「みんなでお泊り、楽しみですね」
「だな。合宿の時は楽しむ余裕もなかったし」
今回ばかりは、しっかり羽根を伸ばす事に専念しますか。
幸いにして、離島でウイルス事件なんてアニメには無かったし。
これは安心してバカンスを満喫する絶好の機会だ。
「ん〜……」
「ツルギくん、どうしたんですか?」
「いや、ふと思った事があってさ」
本当にくだらない発想ではあるのだけど。
「アニメとかだと、離島で事件に巻き込まれたら……それって絶対に劇場版の話だよな」
「何の話をしてるんですか?」
ただの偏見の話です。
そもそも劇場版は無いアニメだったから、ただの妄想なんだけどな。
「まぁとにかく、夏の海を満喫するとしますか」
ここを逃したら、しばらく忙しくなりそうだし。
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