第二十二話:【紅玉獣】VS【天翼神】
「スタートフェイズ! この瞬間〈トリックカプセル〉の効果発動。除外していたカードを手札に加える」
「手間をかけてまで手札に加えたカード。一体何なのでしょう」
「それを今から見せてやる。俺はカード効果で手札に加わった〈ダイヤモンドボックス〉の効果発動!」
「このタイミングで発動する魔法カードですか!?」
「〈ダイヤモンドボックス〉は、効果で手札に加えないと発動できない代わりに、カードを3枚ドローできる優れものだ」
まぁこのコンボのせいで〈トリックカプセル〉は制限カードなんだけどな。
ツルギ:手札1枚→4枚
「また強力なドローコンボ」
「そしてここからドローフェイズだ」
ツルギ:手札4枚→5枚
あっという間に初期手札と同じ枚数になる。
これには体育館の観客も驚いてる様子だ。
さて、ここからが腕の見せ所だ。
「メインフェイズ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉を召喚!」
犬の頭を持った、モフモフの獣人戦士が召喚される。
〈コボルト・ウォリアー〉P3000 ヒット2
「更に〈スナイプガルーダ〉を召喚」
予選のバトルロイヤルで使ったせいか、これを召喚した瞬間に体育館から悲鳴が聞こえてきた。
失礼な奴だ。
〈スナイプガルーダ〉P3000 ヒット1
「さぁアタックフェイズだ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉で〈キュアピッド〉に指定アタック!」
〈スナイプガルーダ〉のおかげで、俺の場の〈幻想獣〉は【指定アタック】を持っている。
コボルト・ウォリアーは剣を掲げて、キュアピッドに突撃する。
だがこのままではキュアピッドにパワー負けしてしまう。
「〈コボルト・ウォリアー〉は、墓地の〈幻想獣〉の数だけパワー+1000される」
〈コボルト・ウォリアー〉P3000→P5000
「それでも〈キュアピッド〉には敵いません」
「だからこうする。魔法カード〈トリックドーピング〉を発動! 相手モンスターと戦闘を行っている自分モンスターを、パワー+8000する」
「それじゃあ!」
「行け! 〈コボルト・ウォリアー〉!」
〈コボルト・ウォリアー〉P5000→P13000
コボルト・ウォリアーの剣が、キュアピッドを両断する。
「まだまだ行くぜぇ! 今度は〈ジャバウォック〉で〈シールドエンジェル〉を指定アタックだ!」
パワーは8000対7000。
ジャバウォックの勝ちだ。
ジャバウォックの爪が、シールドエンジェルを切り裂く。
「これでモンスターはいない。〈ジャバウォック〉で2回攻撃!」
「ライフで受けます。キャア!」
ジャバウォックの攻撃が、赤翼さんを襲う。
ソラ:ライフ9→6
「〈スナイプ・ガルーダ〉でも攻撃だ!」
背負ったライフルを構えて、スナイプガルーダは赤翼さんを狙撃する。
ソラ:ライフ6→5
ライフが俺を下回った。
これで赤翼の【天罰】状態は解除だ。
「さぁ、返しのターンはどうするのか。見せてもらうぜ。ターンエンド!」
ツルギ:ライフ6 手札2枚
場:〈ジャバウォック〉〈コボルト・ウォリアー〉〈スナイプ・ガルーダ〉
【天罰】状態を解除されたせいか、赤翼さんは少しだけ焦りの表情を見せている。
だが深呼吸を一つしてから、自分のターンを始めた。
「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」
勢いよくカードをドローする赤翼さん。
ソラ:手札3枚→4枚
引いたカードを見た瞬間、彼女は何かを確信した様子になった。
「……ありがとうございます。来てくれて」
「何か引いたみたいだな」
「はい。一番大事なカードを。だから……このターンは、一気に攻めます!」
赤翼さんの纏う雰囲気が変わった。
俺は強いワクワクを感じながら、身構える。
「メインフェイズ。まずは〈ヒーラーエンジェル〉を召喚します。その召喚時効果で、墓地の〈ホーリーポーション〉の効果をコピー!」
さっき〈デストロイポーション〉で墓地にいったカードか。
てか何で俺、あのカード2枚もデッキに入れたんだよ。
仕方ないじゃん、強いんだもん!
「ライフを3点回復して、1枚ドローです」
ソラ:ライフ5→8 手札3枚→4枚
あっという間にライフ差が出てしまった。
これは不味いかな?
「魔法カード〈再臨〉を発動! コストで手札1枚を捨てます」
なんで俺、あのカードも2枚入れたんだろう?
だって赤翼さん困ってたからつい……
過去の自分に一言物申したい気分だ。
「墓地から〈ジャスティスエンジェル〉と〈シールドエンジェル〉を召喚です」
そして蘇る黄金コンビ。
ジャスティスエンジェルの召喚コストで、赤翼さんは手札1枚とライフ1点を払う。
ソラ:ライフ8→7 手札2枚→1枚
〈ジャスティスエンジェル〉P5000→P7000 ヒット2
〈シールドエンジェル〉P7000→P9000 ヒット2
さて、赤翼さんの手札は残り1枚。
おそらくあのカードは……
「いきます、天川くん!」
「あぁ、来い!」
「私は系統:〈聖天使〉を持つモンスター、〈ヒーラーエンジェル〉を進化!」
赤翼さんは、1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。
すると、巨大な魔法陣がヒーラーエンジェルを飲み込んだ。
「天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる。最後まで一緒に戦って! 〈【
魔法陣が弾け飛び、赤翼さんの場にウサ耳の大天使が光臨する。
速水との勝負でフィニッシャーになった、SRカードだ。
〈【天翼神】エオストーレ〉P11000 ヒット3
準決勝に続いて召喚されたSRカード。
体育館のボルテージは一気に最高潮へと達した。
やっぱ盛り上がるよな~、切り札の召喚は。
まぁそれはそれとして。
「これは流石に不味いかもだな」
「そして私にとっては良いことです。アタックフェイズ! 〈エオストーレ〉で攻撃します!」
攻撃宣言と同時に、エオストーレはエネルギーを溜め始める。
来るぞ、【天罰】効果が!
「攻撃時に〈エオストーレ〉の【天罰】を発動! 相手はモンスター2体を選んで、デッキの下に送らなければいけません」
相手に選ばせるデッキ送り効果。
防ぎにくくて、厄介だ。
さて、どうする。
先の事を考えるならば……
「……〈コボルト・ウォリアー〉と〈スナイプ・ガルーダ〉をデッキに戻す」
エオストーレが放った光によって、2体のモンスターが場から消滅する。
そしてここからがメインの攻撃なのだが。
「お願い〈エオストーレ〉!」
「使うべきは、この瞬間だ! 魔法カード〈ギャンビットドロー!〉を発動」
「このタイミングで!?」
「効果で俺は〈ジャバウォック〉を破壊して、カードを2枚ドローする」
ツルギ:手札1枚→3枚
爆散するジャバウォック。
だがコイツはただで死ぬモンスターじゃない。
「〈ジャバウォック〉が破壊された時、俺はカードを1枚ドローする」
頼むよ何か来てくれ……
ツルギ:手札3枚→4枚
来た!
「ひとまずその攻撃はライフで受ける」
ツルギ:ライフ6→3
ライフが致死圏内に入る。
体育館の観客も、勝負あったかという雰囲気になっている。
勝ちを確信しかけているのは、赤翼さんも同じだ。
「この攻撃で終わらせます。〈エオストーレ〉で2回攻撃!」
ジャスティスエンジェルの効果で得た2回攻撃を、エオストーレが使ってくる。
エオストーレは翼を羽ばたかせ、光のエネルギーを雨あられと撃ち込んできた。
喰らえば負ける。
だが当然、俺がそんな事を許すわけがない。
「〈エオストーレ〉の攻撃宣言時に、魔法カード〈ダイレクトウォール〉を発動だぁ!」
「〈ダイレクトウォール〉!?」
「このカードは、自分の場にモンスターが存在しない状態で、相手モンスターに攻撃宣言された時に使える魔法カード。その効果は、相手のアタックフェイズを強制終了させる!」
薄く透明なバリアが展開され、エオストーレの攻撃から俺を守ってくれる。
万が一を考えて、入れておいて正解だったな。
アタックフェイズが強制終了した事で、エオストーレの攻撃も強制的に中断させられた。
どんでん返しに次ぐどんでん返し。
観客の生徒たちのテンションもすごい事になっていた。
「天川くん、最初からこの為に自分のモンスターを?」
「若干賭けではあったけど、だいたい正解」
「やっぱり、天川くんはすごいですね」
「そんな事はない。ただの努力の成果だよ」
カードプールに関しては、ほぼチートだけど。
「それでもです。私、今すごく楽しいんです。天川くんみたいなファイターと戦えて、ワクワクしてるんです」
「それは俺も同じだ。赤翼さんとのファイトが楽しくて仕方ない」
そう、だからこそ伝えなくちゃならない。
「俺は赤翼さんにサモンを続けて欲しいと思ってる。赤翼さんが楽しいと思える未来に進んで欲しいと思ってる。それだけは忘れないで欲しいんだ」
「天川くん」
そうだ。赤翼さんはもう、俺にとって大切なサモン仲間なんだ。
だからこそ、デッキを受け取って欲しいし、楽しくサモンを続けて欲しい。
このファイトの中で見せてくれた笑顔を、俺は守りたい。
「私、絶対に天川くんに勝ちたいです」
「ライバルとしてか?」
「はい」
「じゃあ俺も、ライバルとして全力で抗ってやる」
「お願いします! アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果発動。ライフを1点回復します」
ソラ:ライフ7→8
「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】効果で、私の場のモンスターを全て回復させます」
起き上がる聖天使たち。
これでブロッカーも十分ということだ。
「ターンエンドです」
ソラ:ライフ8 手札0枚
場:〈ジャスティスエンジェル〉〈シールドエンジェル〉〈【天翼神】エオストーレ〉
さぁ頑張って勝ち取った俺の番だ。
「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
ツルギ:手札3枚→4枚
おっ、いいものが来た。
「メインフェイズ。俺は魔法カード〈ザ・ファンタジーゲート〉を発動! 効果でデッキから系統:〈幻想獣〉を持つモンスター1体を手札に加える」
「サーチカードですか」
「俺が手札に加えるのは……〈【
俺がカーバンクルを手札に加えた瞬間、体育館がざわめいた。
赤翼さんも警戒している。
ですがご安心ください。今回は無限ループではございません。
「さぁ行くぞ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」
俺の場に巨大なルビーが出現して、砕ける。
その中から、緑の体毛をしたウサギ型モンスターが姿を現した。
『キュップイ!』
〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1
対峙する2体のSRカード。
この世界では中々お目にかかれない光景に、体育館から一瞬音が消えた。
「〈カーバンクル〉……天川くんのエースカード」
「そうだ。いつもはループコンボに使ってるけど、今回は違う」
「えっ?」
「赤翼さんには、コイツの真の力を一つ見せてやる」
そう。何もループするだけが〈カーバンクル〉の価値じゃない。
コイツが俺の相棒たる所以。その一つは専用のサポートカードの存在だ!
「いくぞ! 魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動!」
魔法カードを発動すると、カーバンクルの周りに無数の紅玉が出現した。
「このカードは、自分の場に〈【紅玉獣】カーバンクル〉が存在する場合にのみ発動できる魔法」
「〈カーバンクル〉専用の魔法カード!?」
「そうだ。そしてその効果によって、相手の場のモンスター全てを、パワーマイナス無限にする!」
「パワーマイナス無限!?」
「さぁ行け〈カーバンクル〉! 必殺の、ルビー・イリュージョン!」
カーバンクルが『キュップイ』と鳴くと、周囲に浮かんでいた紅玉が激しい光を放ち始めた。
その紅い光が、赤翼さんの聖天使たちを飲み込み、弱体化させる。
〈【天翼神】エオストーレ〉P11000→P0
〈ジャスティスエンジェル〉P7000→P0
〈シールドエンジェル〉P9000→P0
「パワーが0になったモンスターは、存在を維持できず破壊される」
「だったら。〈【天翼神】エオストーレ〉の【ライフガード】を発動! 一度だけ破壊を無効にします」
「でもパワーは0のままだ。もう一度破壊される」
「そんな」
パワーを失った聖天使たち存在を維持できなくなり、その場で爆散した。
SRカードやレアカードが、たった1枚のカードで全滅する。
そのあまりの光景に、体育館にいる生徒たちは唖然となっていた。
「さぁ、これで守るモンスターはいなくなった。アタックフェイズ!」
派手にいくぞ!
「〈カーバンクル〉で攻撃! 更にその時、魔法カード〈幻想の継承〉を発動!」
発動コストとして、デッキを上から5枚除外して、ライフを2点払う。
ツルギ:ライフ3→1
「このカードは、自分の墓地から進化モンスター1体以上を含む、2体の幻想獣を除外する事で、除外したモンスターのヒットの合計分、場のモンスター1体のヒットを上げる魔法カード!」
「ヒット数を上げるカードですか」
「俺は墓地から〈ジャバウォック〉と〈コボルト・ウォリアー〉を除外して、場の〈カーバンクル〉のヒット数を+5にする」
〈【紅玉獣】カーバンクル〉ヒット1→6
「行け、〈カーバンクル〉!」
「……ライフで受けますッ」
カーバンクルの体当たりによって、赤翼さんのライフが削られる。
ソラ:ライフ8→2
手札も場も壊滅させた。さぁ、今度こそ追い詰めたぞ。
「……」
俺は最後に残った1枚の手札を見る。
これを上手く使えば……きっと俺は……
「……ターンエンド」
ツルギ:ライフ1 手札1枚
場:〈【紅玉獣】カーバンクル〉
さて。ゲームエンドが見えてきた。
お互いにライフは残り僅か。
赤翼さんに至っては手札も場も0枚。
体育館からは、赤翼さんの敗北を悟ったような声も聞こえる。
だが……
「私の……ターン!」
赤翼さんの心は、まだ死んでいない。
そう来なくっちゃな。
最後まで何があるのか分からないのが、カードゲームの醍醐味なんだ。
「スタートフェイズ。ドローフェイズ」
ソラ:手札0枚→1枚
おそらくこれが最後のドロー。
赤翼さんは恐る恐る、引いたカードを確認する。
そして彼女は、笑顔を咲かせた。
「きた! メインフェイズ。私は〈アンカーエンジェル〉を召喚します!」
赤翼さんの場に、大きな錨を手にした少女型天使が召喚される。
〈アンカーエンジェル〉P1000 ヒット0
「〈アンカーエンジェル〉は、単体だと強くないモンスターです」
「だけどそのカードには」
「はい。〈アンカーエンジェル〉の【天罰】を発動!」
アンカーエンジェルは、手にした錨を墓地へと投げ入れる。
「〈アンカーエンジェル〉の召喚に成功した時、私のライフが相手より多ければ、墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を手札に加えます」
「てことは、この状況で回収するのは一つしかないよな」
「そうです。私が回収するのは〈【天翼神】エオストーレ〉!」
赤翼さんの手札に、再びSRカードが来た。
予想外の展開に、周りのテンションもすごい事になっている。
「もう一度お願い。私は〈アンカーエンジェル〉を素材にして、〈【天翼神】エオストーレ〉を進化召喚!」
そして、再び光臨する大天使。
そのヒット数は3。俺のライフを削るには十分な数字だ。
しかも俺の場には、疲労状態の〈カーバンクル〉しかいない。
「今度こそ、終わらせます! アタックフェイズ。〈【天翼神】エオストーレ〉で攻撃!」
エオストーレの手に光が集まり、カーバンクルをデッキに戻そうとしている。
さて、サモンのルールでは攻撃宣言と攻撃時効果発動の間に、魔法カードを使えるタイミングが存在する。
俺は最後の手札に視線を落とす。
〈トリックミラージュ〉
エオストーレが攻撃宣言した今、これを発動すれば俺の勝ちだろう。
赤翼さんにはもう手札が無いから確実だ。
ならきっと、今このタイミングで発動を宣言すればいい事。
だけど……俺の心が待ったをかける。
対峙している赤翼さんを見る。
きっとここで俺が勝てば、彼女は潔くデッキを手放すだろう。
俺が何を言っても、諦める事を選択するだろう。
赤翼さんは、今この瞬間もサモンを楽しんでいる。
本当に、尊敬するくらいに、いい表情をしている。
だからこそ俺は、そんな彼女の笑顔を……奪いたくなかった。
「……できないよなぁ」
どうかバレませんように。
俺は手にしたカードを……発動しない選択をした。
召喚器が処理を進めて、俺の場から〈カーバンクル〉がデッキに戻される。
「ライフで受ける」
エオストーレの攻撃が当たる瞬間、俺の心は驚くほどに落ち着いていた。
ツルギ:ライフ1→0
ソラ:WIN
「えっ」
ステージの上で、赤翼さんが小さく声を漏らす。
中々現実を咀嚼できないのか、呆然としながら消える立体映像を見ていた。
「『校内サモンランキングトーナメント』決勝戦! 見事制したのは、二年A組。赤翼ソラさんだー!」
――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!――
耳をつんざくような歓声が響く。
それを聞いてようやく、赤翼さんは現状を理解したようだ。
「私……勝ったんですか」
「あぁ。ランキング1位おめでとう」
「……」
「赤翼さん?」
「や……やったぁぁぁ!」
大きな勝利を手にしたからか、赤翼さんは大きく跳ねて喜んだ。
俺もその姿を見て、さっきの選択は間違いじゃなかったと、自分に言い聞かせた。
というか赤翼さん、めっちゃテンションぶち上がってるな。
これ後で恥ずかしくなるパターンな気がする。
でも、それも面白そうだから、俺はあえて放置する事にした。
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