第二十一話:決勝戦! ツルギVSソラ
準決勝第二試合、赤翼さんと速水の戦い。
制したのは赤翼さんだった。
ファイトが終わり、ステージ上に展開されていた立体映像が消失していく。
「準決勝第二試合。勝者! 赤翼ソラさん!」
放送部のアナウンスが、体育館に響き渡る。
緊張の糸が切れた赤翼さんは、ステージ上で深呼吸をしていた。
そんな彼女の元に、速水が近づく。
「俺もまだまだ修業不足だったようだ。完敗だよ」
「速水くん」
「いいファイトだった。決勝も頑張ってくれ」
「はい!」
敗北を認め、勝者を労い、潔くステージを去る速水。
いいなぁ、ああいうのカッコいいよな。
「3位決定戦と決勝戦を始める前に、10分間の休憩時間をとります。該当試合に出場する生徒は控室で待機していてください」
放送部のアナウンスが流れる。
そっか、もう決勝戦か。
俺はまだステージ上にいる赤翼さんと目を合わせる。
「……」
「……」
特別言葉は交わさない。
だが赤翼さんの目には、必ず勝ちたいという意志が宿っているように思えた。
それだけやる気があれば十分だ。
俺は踵を返して、静かに控室へと向かうのだった。
そして一人ぼっちの控室。
そこで俺は、自分のデッキと向かい合っていた。
「相手は赤翼さんか……嬉しいやら何やら。複雑な感じだな」
だが戦わなくてはならない。
腕も確かだ。今日のトーナメントで一番の強敵だろう。
「……約束、か」
赤翼さんとの間に交わした約束を思い出す。
俺はシンプルにデッキを渡したいのだが、赤翼さんはそう簡単に受け取ってくれない。
このランキングトーナメントで1位になる。その為に赤翼さんは全力を出してくるだろう。
「俺もそれに応えるべきなんだろうけど……少し悩むな」
適当なタイミングで投了しても、きっと彼女は納得しない。
ならば、出てくる答えはただ一つ。
「真面目にファイトするしかないか」
「決勝戦が始まります。ステージに上がってください」
放送部の部員が、俺を呼びに来た。時間経過を早く感じる。
俺はデッキを召喚器にセットして、覚悟を決める。
戦う。楽しむ。結局俺には、それしかないんだ。
俺は深呼吸を一つして、控室を後にした。
「それでは只今より『校内サモンランキングトーナメント』決勝戦を行います! 選手の方はステージに上がってください」
――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!――
流石に決勝戦という事もあって、観客の盛り上がりは最高潮だな。
俺もワクワクしてきた。
「上手側、二年A組。天川ツルギ君!」
「よっし、頑張るぞ」
「下手側、二年A組。赤翼ソラさん!」
ステージ下手側から登場する赤翼さん。
緊張している様子はない。シンプルに覚悟を決めてきたような感じだ。
「緊張とかは大丈夫なのか?」
「大丈夫です。天川くんは」
「余裕。むしろワクワクしてる」
「私もです……天川くん! 全力でいきます」
「そうこなくっちゃな」
正直まだ迷いはあるし、明確な答えは出せれてない。
ただそれでも、このファイトの中で何かが見つかるかもしれない。
なら俺は1人のファイターとして、サモンに向き合うだけだ。
「「ターゲットロック!」」
俺と赤翼さんの召喚器が無線接続される。
お互いに初期手札5枚をドローして、準備完了だ。
「それでは決勝戦。始めてください!」
「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」
ツルギ:ライフ10 手札5枚
ソラ:ライフ10 手札5枚
「先攻は俺だ! スタートフェイズ。メインフェイズ」
手札を確認する。
うん、まずは防御を固めよう。
「俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」
『スララー!』
俺の場に一匹のスライムが召喚される。
〈トリオ・スライム〉P1000 ヒット1
「召喚時効果発動。デッキから同名カードを1枚手札に加える。更に今手札に加えた〈トリオ・スライム〉を召喚。召喚時効果で3枚目を手札に加えて、それも召喚だ!」
『スララ~』
『スラァァァ!』
俺の場には3体のスライムが揃った。
てか今更だけど、こいつら鳴き声可愛いな。
〈トリオ・スライム〉(B)P1000 ヒット1
〈トリオ・スライム〉(C)P1000 ヒット1
これでブロッカーは揃ったが、先への保険はかけさせて貰おう。
「魔法カード〈トリックカプセル〉を発動! ライフを2点払って、デッキから好きなカードを1枚除外する」
ツルギ:ライフ10→8
俺がデッキからカードを1枚抜き取ると、空中に出現した巨大カプセルが、それを飲み込んだ。
「〈トリックカプセル〉で除外したカードは、2ターン後のスタートフェイズに俺の手札に加わる。俺はこれでターンエンドだ」
コンボパーツが揃わないと、先攻1ターン目はこれくらいしか出来ないのが辛いね。
ツルギ:ライフ8 手札3
場:〈トリオ・スライム〉(A)、(B)、(C)
さぁて、赤翼さんはどんな初動を見せてくれるのかな?
「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
ソラ:手札5枚→6枚
「メインフェイズ。私は魔法カード〈ホーリーポーション〉を発動します!」
「まずは回復カードか」
「手札の系統;〈聖天使〉を持つカード〈キュアピッド〉を見せることで、ライフを3点回復して1枚ドローします」
ソラ:ライフ10→13 手札5枚→6枚
いいなぁ、ついでの1枚ドロー効果。
古今東西ああいうのは強いのだ。
「〈キュアピッド〉を召喚します。更に、私のライフが相手よりも多いので【天罰】も発揮されます!」
「早速パワー9000にするのか」
〈キュアピッド〉P3000→P9000
「続けていきます。〈ヒーラーエンジェル〉を召喚です!」
赤翼さんの場に、看護師のような見た目をした天使が召喚された。
少し厄介だな。あのカードの効果は強いぞ。
〈ヒーラーエンジェル〉P4000 ヒット1
「〈ヒーラーエンジェル〉の召喚時効果を発動します。私の墓地から系統;〈回復〉を持つ魔法カードを1枚除外して、その効果をコストを払わずに発動します!」
「コスト踏み倒しは強いんだよぉ」
誰だよあんなカード入れたの!
俺だよ!
「私は墓地の〈ホーリーポーション〉を除外して効果発動。ライフを3点回復して1枚ドローします」
ソラ:ライフ13→16 手札4枚→5枚
手札が中々減らないのが恐ろしいな。
それに赤翼さん、絶対まだ何か仕掛けてくるぞ。
「うん。いいカードを引きました。私は〈アクエリアスエンジェル〉を召喚します」
赤翼さんの場に召喚された3体目の聖天使。
それは大きな水瓶を抱えた、女性の天使だった。
〈アクエリアスエンジェル〉P4000 ヒット2
あれも【天罰】状態だと、結構面倒くさいカードだな。
「召喚時に〈アクエリアスエンジェル〉の【天罰】を発動。相手の場に存在するパワーが一番低いモンスターを全て疲労させます!」
俺の場にはP1000の〈トリオ・スライム〉が3体。
見事に全員疲労だ。
「アタックフェイズ。まずは〈ヒーラーエンジェル〉で攻撃です! そしてこの瞬間、〈ヒーラーエンジェル〉の【天罰】を発動します!」
〈ヒーラーエンジェル〉の【天罰】効果で、赤翼さんはカードを1枚ドローした。
ソラ:手札4枚→5枚
さて、このまま総攻撃を食らうと大ダメージ不可避なのだが。
俺もそう簡単には通させない。
「魔法カード〈トライアングル・バースト〉を発動! 自分の場に同名モンスターが3体存在するなら、相手モンスターを全て破壊する!」
「全体除去魔法!?」
「力を借りるぞスライム! トライアングル・バーストォ!」
3体のスライムが力を合わせて、破壊エネルギーを作り出す。
解放された破壊エネルギーは、赤翼さんの聖天使を焼き払った。
しかし……全てが破壊されたわけではない。
「〈アクエリアスエンジェル〉は、相手の魔法カードでは破壊されません」
「まぁ、そうなるよな」
「モンスターは2体破壊されましたけど、まだ攻撃はできます。〈アクエリアスエンジェル〉で攻撃です」
「流石にそれはライフで受けよう」
〈アクエリアスエンジェル〉の水瓶から放たれた水流が、俺に襲い掛かる。
ツルギ:ライフ8→6
「……ターンエンドです」
ソラ:ライフ16 手札5枚
場:〈アクエリアスエンジェル〉
ライフ差は10点で、相手の手札は5枚。
う~ん、流石に少しキツいか?
まぁ、ドローしてから考えればいいか。
「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」
ツルギ:手札2枚→3枚
おっ、いいタイミングでいいカードを引けた。
どうでもいいけど、この世界に転移してから「引き」の強さがめっちゃ上がってる気がする。
「引いたからには、使わせてもらうか。メインフェイズ! 俺は魔法カード〈ザ・トリオ・ドロー!〉を発動! 自分の場に同名モンスターが3体存在する場合、カードを3枚ドローできる」
「一気に3枚もドローできるんですか!?」
「その代わり、条件重めだけどな」
俺は場の〈トリオ・スライム〉3体の力を借りてカードをドローする。
ツルギ:手札2枚→5枚
よし、いい感じのカードが来た。
「俺は〈トリオ・スライム〉(A)を素材にして、〈ファブニール〉を進化召喚!」
1体のスライムが魔法陣に飲み込まれて、巨大なドラゴンへと姿を変える。
〈ファブニール〉P10000 ヒット?
「〈ファブニール〉の召喚時効果発動。相手モンスター1体を破壊して、そのヒット数をコピーする。俺が破壊するのは〈アクエリアスエンジェル〉だ!」
ファブニールの吐いたブレスが、アクエリアスエンジェルを爆散させる。
魔法効果で破壊できなくとも、モンスター効果なら破壊できるんだよ!
〈ファブニール〉ヒット?→2
いつもならここでアタックを仕掛けるが、今回はいいものを引いてある。
「俺は場の〈幻想獣〉モンスター、〈ファブニール〉を素材にして、〈ジャバウォック〉を進化召喚だ!」
「進化モンスターを進化素材に!?」
まぁこの世界ならセオリー無視もいいところだよな。
だけどこいつは少し特別だぞ。
ファブニールが魔法陣に飲み込まれると、俺の場には恐ろしい外見をしたドラゴンが出現した。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
〈ジャバウォック〉P8000 ヒット3
「パワーが落ちてる?」
「だけど効果持ちだ。アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で攻撃!」
今の赤翼さんにブロッカーはいない。
ジャバウォックの爪が、赤翼さんに襲い掛かる。
「ライフで受けます」
ソラ:ライフ16→13
「〈ジャバウォック〉の効果発動。このカードが進化モンスターから進化している場合、【2回攻撃】を得る」
「ヒット3の2回攻撃ですか!?」
「その通りだ。〈ジャバウォック〉で、もう一度攻撃!」
「っ! ライフです」
ソラ:ライフ13→10
「更に追撃だ。魔法カード〈エヴォリブート!〉を発動!」
「リブート、モンスターを回復させる魔法ですか」
「大正解。〈エヴォリブート!〉の効果で、俺は〈ジャバウォック〉を回復させる。更に、回復させたのが進化モンスターだった場合、ヒットを+1する」
〈ジャバウォック〉ヒット3→4
強化された上で回復するジャバウォック。
この攻撃が通れば、かなり有利になるぞ。
「3回目の攻撃だ。行け〈ジャバウォック〉!」
「魔法カード〈デストロイポーション〉を発動します!」
おっ、ここで回復魔法を撃ってきたか。
「自分のデッキを上から5枚墓地に送って、その中のモンスターカード1枚につき、ライフを1点回復します」
赤翼さんのデッキから5枚のカードが墓地に送られる。
墓地に送られたカード。
魔法〈ホーリーポーション〉〈トリックゲート〉
モンスター〈ジャスティスエンジェル〉〈シールドエンジェル〉〈ジェミニエンジェル〉
「墓地に送られたモンスターは3枚。ライフを3点回復します」
「だけど〈ジャバウォック〉の攻撃は止まらない」
ジャバウォックは赤翼さんに、3回目の攻撃を食らわせた。
ソラ:ライフ10→13→9
さて、本当はここでスライムの攻撃を宣言したいのだが……
「〈エヴォリブート!〉のデメリット効果で、このターンの間、俺は進化ではないモンスターで攻撃できない。ターンエンドだ」
ツルギ:ライフ6 手札2枚
場:〈トリオ・スライム〉(B)〈トリオ・スライム〉(C)〈ジャバウォック〉
さぁ、痛手は負わせたぞ。
どうする赤翼さん?
「……ふふ」
赤翼さんが微笑んでいる。
そうだ、あの子がサモンをする時はいつもそうだ。
「楽しそうだな。赤翼さん」
「はい。私、今サモンがすごく楽しいです」
「なら良かった。サモンは楽しいもんなんだ。思いっきり好き放題してやろうぜ」
「はい! 私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
ソラ:手札4枚→5枚
いい表情で、ターンを始める赤翼さん。
いいなぁ、ああいうの。
心の底からサモンを楽しんでいる、真のファイターの表情だ。
だからこそ俺は、あの子にデッキを渡したいんだ。
「メインフェイズ。手札を1枚捨てて、魔法カード〈再臨〉を発動します」
ソラ:手札5枚→4枚
「その効果で、墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を召喚します。更に【天罰】の効果で、もう1体モンスターを墓地から召喚します」
「出たな〈聖天使〉の壊れカード」
本来手札コスト1枚でモンスター1体の蘇生なのに、なんだあの性能。
1枚で普通の蘇生カード2枚分の働きとかおかしいだろ。
だれだよ、あのカードデッキに入れた奴!
俺だよ!
「墓地から蘇って。〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉」
速水との試合でも活躍した、2体の聖天使が赤翼さんの場に登場する。
〈シールドエンジェル〉P7000→P9000 ヒット2
〈ジャスティスエンジェル〉P5000→P7000 ヒット2
「〈ジャスティスエンジェル〉の召喚コストで、手札1枚とライフ1点を払います」
本当に、召喚コストまでは踏み倒せないのが救いだよな~。
ソラ:ライフ9→8 手札3枚→2枚
「更に魔法カード〈リボーンギフト〉を発動です」
「げぇ! マジかよ」
〈リボーンギフト〉は、墓地からモンスターを召喚したターンにのみ使える魔法カード。
デッキから2枚のドローができるのだけど、俺あのカード1枚しか入れてなかった筈だぞ。
赤翼さん引きの運強くないか!?
「〈リボーンギフト〉の効果でカードを2枚ドローします」
ソラ:手札1枚→3枚
ドローしたカードを見た赤翼さんは、表情を明るくする。
「〈キュアピッド〉を召喚します」
「2体目か!」
赤翼さんは【天罰】状態を達成しているから、キュアピッドも厄介な高パワーモンスターとなっている。
ソラ::ライフ8→10
〈キュアピッド〉P3000→P9000
「まだまだいきます! 魔法カード〈オーバーライフドロー〉を発動です」
更にドローカードを発動する赤翼さん。
どんだけドローするんだよ。
もう変な笑いしか出ないわ。
「このカードは、自分のライフが相手より4点以上多い場合にのみ発動できる魔法カード。その効果で、ライフ2点を払ってカードを2枚ドローします」
ソラ:ライフ10→8 手札1枚→3枚
結構デッキを掘り下げられたなぁ。
だけどこのくらいの方が、俺も燃えてくる。
「アタックフェイズです」
「来い!」
「まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃します」
「〈トリオ・スライム〉(B)でブロックだ」
シールドエンジェルの大盾に、あっさりと潰されてしまうスライム(B)。
だが相手は【天罰】状態の〈聖天使〉デッキ。
こんなものでは終わらない。
「〈ジャスティスエンジェル〉の【天罰】で、〈聖天使〉は全て【2回攻撃】を得ています。〈シールドエンジェル〉でもう一度攻撃」
「〈トリオ・スライム〉(C)でブロック!」
最後のスライムも、シールドエンジェルの大盾に潰されてしまった。
「今度は〈ジャスティスエンジェル〉で攻撃です!」
「じゃあその攻撃を貰うぜ。魔法カード〈トリックゲート〉を発動!」
突如現れたゲートに、ジャスティスエンジェルは飲み込まれてしまう。
「〈トリックゲート〉の効果で、攻撃対象を変更する。〈キュアピッド〉を攻撃しろ!」
キュアピッドの前にゲートの出口が開き、ジャスティスエンジェルの攻撃に晒される。
しかしパワーはキュアピッドの方が上。
ジャスティスエンジェルは仲間によって、返り討ちにされてしまった。
「これでもう【2回攻撃】はできない」
「うぅ……」
悔しそうな顔をする赤翼さん。
そして少し考え込む。
恐らくキュアピッドで追撃をするか悩んでいるのだろう。
仮に俺が2枚目の〈トリックゲート〉を握っていたら、大きな痛手だからな。
「……アタックフェイズを終了します」
攻撃しない方を選択したか。
「アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果を発動します。ライフを1点回復です」
ソラ:ライフ8→9
「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】で、私のモンスターは全て回復します。ターンエンドです」
ソラ:ライフ9 手札3枚
場:〈シールドエンジェル〉〈キュアピッド〉
ターンを終える赤翼さん。
手札は3枚あるけど、除去カードは無いのか。
とりあえず、ある程度の痛手は追わせられたけど、俺の方に何か決定打があるわけじゃない。
なにより、今の俺は……赤翼さんと派手にやり合いたくて仕方がなかった。
「楽しいよな、赤翼さん」
「……はい」
「今の赤翼さんが相手だからこそ。俺は、俺のファイトを派手に魅せたくて仕方がない」
「天川くん」
「ちょっと付き合ってもらうぜ。ライバル!」
「はい!」
さぁ、暴れようじゃないか!
「俺のターン!」
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