第十六話:ソラ、問う
ファイトが終わってからの事は、あまり覚えていない。
ソラは卯月と何かやりとりしたような記憶はあったが、それすら碌に残らないほどに落ち込んでいた。
気づけば卯月と別れて帰路についていた。
心がズシリと重い感覚に襲われながら、ソラは帰宅する。
「……」
玄関を開けて、無言で帰宅。
だけどそれを咎める者は誰もいない。
暗い部屋に電気を点けながら、ソラは自室へと足を運ぶ。
母親は働きに出ていて、父親は幼い頃に亡くした。
ソラは基本的に、自宅では一人なのである。
自室に入ったソラは学校鞄を床に置くや、顔からベッドに沈み込んだ。
ただただ心が重い。自己嫌悪が強くなる。
ソラは静かに、卯月とのファイトを思い返していた。
「……勝てなかった」
それは何故か? 卯月が強かったからか?
違う。自分が弱かったからだ。
ソラは下唇を噛み締める。
「この子を使ってたら、勝てたのかな?」
ソラは召喚器から、1枚のカードを取り出す。
〈【
能力も強い。だがそれを使う勇気がソラには出てこない。
自信が無いのだ。このカードを完璧に使いこなせる自信が、ソラには無い。
その自信の無さが躊躇いを産み、彼女に負け癖をつけている。
「卯月ちゃんに「弱い」って言われちゃったけど……本当ですね」
それはサモンの強さを表しているだけではない。
きっと、ソラの心の弱さも表しているのだ。
全てを見抜かれたようで、心が苦しくなる。
だがソラには、それの言葉を否定する気も起きなかった。
「私、なにしてるんだろ」
召喚器にセットしていたデッキを抜き取り、ソラは眺める。
ツルギから預かったデッキ。
失ってしまった以前のデッキと比べても、明らかにパワーアップしている代物。
そして、ソラ自身を強くしてくれたデッキだ。
「このデッキに相応しいファイターになろうと思ってたのに……なにも前に進んでなかった」
ツルギとの特訓に加えて、放課後の勉強会。
それらに参加して、自分の力が強くなったと錯覚していた。
だけど現実は、借り物の力でそう思い込んでいただけ。
肝心なソラという人間の中身は、何も進歩していない。
卯月とのファイトで、彼女はそう思わざるを得なかった。
「私、なんでサモンしてるんだろう……」
自分でもよくわからなくなる。
元々は亡くなった父親の影響で始めたサモン。
SRカードも父から譲り受けた遺品だ。
故にソラは、重く受け止めてしまう。
カードを使う事も、サモンをする事も。
「やっぱり、デッキは天川くんに返したほうが良いのかな?」
そんな考えが頭を過ってしまう。
きっとデッキを返せば、プレッシャーからは解放されるだろう。
ツルギも意志を尊重してくれるだろう。
だがそれで良いのか、ソラは悩んだ。
「……逃げて、いいのかな?」
デッキはまた時間をかけて組めばいい。
辛い事なんて逃げてしまえばいい。
だけど……ソラの中で何かが突っかかる。
「天川くん……」
脳裏に浮かぶのは、東校の生徒と戦った時のツルギの姿。
西校の皆が諦めていた中で、ただ一人最後まで諦めずファイトし続けた背中。
そして、その強さに溺れることなく、子供たちに惜しみなくサモンを教える姿。
それらはまさに、ソラが理想に描いていた「強き者」の姿でもあった。
だから憧れたのだ。天川ツルギという少年に。
だから期待を裏切りたくなかったのだ、彼が作ってくれたデッキに対して。
しかしソラの心はまだ重い。
「やっぱり明日、天川くんに返したほうが――」
きっと自分は、このデッキに相応しくないのだろう。
サモンも心も、ツルギの期待に応えられる領域に達していない。
ソラが深い闇の底で、そう決断しようとした時だった。
――~♪ ~♪ ~♪――
ソラのスマートフォンに、一本の電話が入ってきた。
「誰だろう?」
画面を見る。そこに表示されていたのは意外な名前であった。
「天川くん!?」
ソラは慌てて電話に出る。
「もしもし」
『もしもし赤翼さん? よかったー出てくれて~』
ツルギの声を聞いた瞬間、ソラは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
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