第十五話:【蛇竜皇】シュヴァルツシュランゲ

「スタートフェイズ! ドローフェイズ!」


 ソラ:手札4枚→5枚


 ソラは手札を確認する。

 卯月のデッキ破壊戦術は厄介この上ない。

 しかし、その戦い方を逆に利用できることにも気がついた。


「メインフェイズ。私は魔法カード〈再臨〉を発動します」


 魔法カードの効果で、ソラの場と墓地を繋ぐゲートが開かれる。


「このカードは、私の墓地から系統:〈聖天使せいてんし〉を持つモンスターを1体復活させます」

「あーあ、逆に利用されちゃったか~」

「更に〈再臨〉の【天罰てんばつ】を発揮! もう1体墓地から聖天使を復活させます! 来て〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉!」


 墓地から復活したのは巨大な二つの盾を携えた天使。

 そして、大槍を構えた天使だった。


〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2

〈ジャスティスエンジェル〉P5000 ヒット2


「〈ジャスティスエンジェル〉の召喚コストで、手札1枚とライフ1点を払います」


 ソラ:ライフ12→11 手札4枚→3枚


「更に〈ジャスティスエンジェル〉の効果で、私の場のモンスターは全てパワー+2000されます」


 〈シールドエンジェル〉P7000→P9000

 〈ジャスティスエンジェル〉P5000→P7000


「2体目の〈キュアピッド〉を召喚。召喚時効果でライフを2点回復します」


 〈キュアピッド〉P3000→P11000 ヒット1

 ソラ:ライフ11→13


 ソラは自分の手札に目線を落とす。

 その中には、デッキの中に1枚だけ入れていたSRカードの姿があった。


「(このカードを召喚すれば……でも)」


 迷いがあった。貰い物の力で強くなった自分に、このカードを使いこなせるのか。

 ソラには自信が無かった。

 そして迷いが躊躇いを産む。

 このカードを使わずに、本当に勝てるのかという思考に至ってしまう。

 そしてソラは、答えを得てしまい、SRカードを召喚しないことを選んでしまった。


「私は、魔法カード〈エンジェルオーラ〉を発動します! その効果で私の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターのパワーを+2000。更に【天罰】を発揮! 追加でパワーを+3000します」


 〈シールドエンジェル〉P9000→P14000

 〈ジャスティスエンジェル〉P7000→P12000

 〈キュアピッド〉P11000→P17000


「そして、魔法カード〈天聖剣舞てんせいけんぶ〉を発動!」


 魔法カードの効果で、ソラの場にいる天使たちが光に包まれていく。


「〈天聖剣舞〉は、自分のライフが相手よりも多い時に発動できる魔法カード。その効果で、このターンの間、私の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターは全て自身よりもパワーの低いモンスターにはブロックされません!」

「ふーん。それ強いね」

天川てんかわくんがくれたレアカードです。そしてこれだけパワーを上げておけば、モンスターを全部回復されても防ぎきれない筈です」

「やってみれば?」

「言われなくてもそうします! アタックフェイズ! まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃」


 シールドエンジェルは、手にした盾で卯月に殴り掛かる。

 だが卯月うづきは表情一つ変えない。


「ブロックできないなら仕方ないね。ライフで受ける」


 卯月:ライフ10→8


「この瞬間〈ジャスティスエンジェル〉の【天罰】発揮! 私の場の〈聖天使〉を持つモンスターは全て【2回攻撃】を得ます!」

「……お兄めぇ、面倒くさいカードを」

「〈シールドエンジェル〉で2回攻撃!」

「それもライフで受ける」


 卯月:ライフ8→6


「〈ジャスティスエンジェル〉で攻撃!」


 ジャスティスエンジェルは大槍で卯月を攻撃する。


 卯月:ライフ6→4


「〈ジャスティスエンジェル〉の2回攻撃!」


 卯月:ライフ4→2


「今度は〈キュアピッド〉で攻撃です!」

「それもライフ」


 キュアピッドは卯月に向けてハートの矢を射った。


 卯月:ライフ2→1


 あと一撃で終わる。

 ソラはこの瞬間、自身の勝利を確信した。

 故に、卯月にまだ手札がある事を失念していた。


「〈キュアピッド〉で攻撃!」

「魔法カード〈スネークウォール〉を発動」


 キュアピッドが放った矢は、突如現れた蛇の幻影によって阻まれてしまった。


「〈スネークウォール〉は自分の場に系統:〈蛇竜じゃりゅう〉が存在する場合に、相手モンスター1体の攻撃を無効化できる」

「倒し……そこねた」

「更に追加効果で、【溶解:2】をするね」


 蛇の幻影が、ソラのデッキを攻撃する。


 ソラ:デッキ15枚→12枚 墓地21枚→24枚


「手札の枚数は可能性の数。ソラさん、お兄の話聞いてた?」

「うぅ」

「やっぱり貰い物の力。強くはなっても、使いこなせてはいない」


 ソラは唇を噛み締める。

 倒し損ねた悔しさもあるが、それ以上に卯月を納得させられない自分を情けなく思っていた。


「……アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果でライフを回復します」


 ソラ:ライフ13→14


「そしてエンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】を発揮。私の場のモンスターを全て回復させます・ターンエンド」


 ソラ:ライフ14 手札1枚

 場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉


 ターンを終えたソラは自分に残された最後の手札を見る。

 それは召喚できなかったSRカード。

 このターンでは止めまでいけなかったが、次のターンで召喚すれば勝利できる。

 しかし……


「ソラさん、もしかして次のターンで勝てるとか思ってませんか?」

「えっ!?」

「その考えは甘すぎる。勝ったって感情は、相手を倒してから抱かないと」

「で、でも。卯月ちゃんを追い詰めることはできましたよ!」

「……だから甘いんだって」


 冷たい声で、卯月が呟く。


「ソラさん、ハッキリ言います。アナタ弱いですね」


 そして卯月のターンが始まる。


「スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 卯月:手札1枚→2枚


「ソラさん、このターンで終わらせますね」


 卯月は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「必要な条件は相手の墓地にカードが10枚以上ある事。アタシは系統:〈蛇竜〉を持つ〈ポイズンサーペント〉を進化!」


 ポイズンサーペントの周りに、紫色の魔法陣が出現する。

 魔法陣はポイズンサーペントを呑み込み、強大なる蛇竜の皇を呼び覚ました。


「黒き闇の底より戴冠せよ、破壊の皇! 〈【蛇竜皇じゃりゅうおう】シュヴァルツシュランゲ〉を召喚!」


 魔法陣を食い破り、卯月の場に降臨したのは、黒く巨大な蛇の皇。


 〈【蛇竜皇】シュヴァルツシュランゲ〉P10000 ヒット3


 卯月が召喚したSRカードを前に、ソラは圧倒されていた。


「SRカード、二つ名持ち。卯月ちゃんも持ってたんだ」

「自力で引き当てたカードだから結構思い入れあるんだ。能力も強いし」

「これが……卯月ちゃんの切り札」

「そうだよ。だから……このカードで終わらるね」


 卯月の言葉に合わせて、シュヴァルツシュランゲが攻撃態勢に入る。


「アタックフェイズ。〈シュヴァルツシュランゲ〉で攻撃! そして攻撃時効果【溶解:10】を発動」

「【溶解:10】!? ということは」

「〈ナーガウィザード〉の効果も合わせて、ソラさんのデッキを上から11枚破壊するね」


 シュヴァルツシュランゲの口から、大量の毒霧が吐き出される。

 その毒によって溶かされたソラのデッキが、一気に墓地に送られてしまった。


 ソラ:デッキ12枚→1枚 墓地24枚→35枚


「デッキが、残り1枚!?」

「シュヴァルツシュランゲの攻撃は続行中。どうするソラさん?」


 ソラは悩んだ。

 パワーだけで言えば〈キュアピッド〉で返り討ちにできる。

 しかし万が一〈シュヴァルツシュランゲ〉が【ライフガード】を持っていた場合、回復状態で場に戻ってしまう。

 そうなればもう一度攻撃されてデッキアウトは確実だ。

 次のターンの事を考えるならば……


「……ライフで受けます」


 ソラ:ライフ13→10


「ふーん。ブロックしないんだ」

「こっちの方が良いと判断しました。これで私の勝ちです」

「なんで?」

「〈ナーガウィザード〉は私の場のモンスターでブロックできます。〈ナーガガーディアン〉は戦闘さえしなければ、ライフダメージだけで済みます。そうすればまだ、私には次のターンが――」

「だから、次のターンは無いって言ったじゃん」

「えっ」

「〈【蛇竜皇】シュヴァルツシュランゲ〉の効果。相手の墓地にカードが30枚以上あれば、このカードは【2回攻撃】を得る」


 ソラは慌てて自分の墓地にあるカード枚数を確認する。


「35枚……じゃあ」

「〈シュヴァルツシュランゲ〉は回復して、もう一度攻撃できる」


 起き上がるシュヴァルツシュランゲ。

 ソラの手札には、防御カードは無かった。


「〈シュヴァルツシュランゲ〉で攻撃。そして【溶解】を発動」!」


 シュヴァルツシュランゲの吐く毒霧が、ソラの最後のデッキを破壊する。


 ソラ:デッキ1枚→0枚


「……ライフで受けます」


 もはやソラに、抵抗する気力も残っていなかった。


 ソラ:ライフ10→7


「ターンエンド」


 卯月がターンを終了させ、ソラのターンが回ってくる。

 だがそれは、ただ敗北するだけの瞬間であった。


「私のターン……スタートフェイズ……」

「スタートフェイズにデッキが0枚。アタシの勝ちだよ、ソラさん」


 ソラ:デッキアウト

 卯月:WIN


「ソラさんの事よーくわかった。色々弱いし甘いし。アタシがどうこう言う必要すらないみたい」


 日の沈んだ公園の中で、召喚器が出していた立体映像が、静かに姿を消していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る