第三十八話:開幕! JMSカップ
え~、本日は晴天なり。晴天なり。
夏の日差しが刺さるけど、俺達チーム:ゼラニウムは現在とあるテーマパークに来ていた。
「いやぁ、初めて来たけどすごい人だな」
「それもそうだ。人気テーマパークというのに加えて、今日は公式大会の会場だからな」
「観客もたくさん来てるんですねぇ……うぅ、緊張してきました」
凄まじい人の数。
その中にいる俺達三人。
ここは電車で数駅離れた場所にある大型テーマパーク。
その名もユニバーサル・ファンタジー・ジャパン。通称UFJである。
……なんかどっかで似たような名前があった気がするな。
それはともかく。
名前から察せる通り、ここはモンスター・サモナーを作っている会社『UFコーポレーション』が運営しているテーマパークだ。
アニメでも登場した事がある場所。うーん、テンションが上がるな。
テーマパークに来たとは言っても、今日は遊ぶ訳ではない。
目的地は、パークの中心にある巨大なドームだ。
「わぁ……大きい会場ですね」
「流石はUFコーポレーションと言ったところか」
ソラと速水が今日の大会会場を見上げて呟く。
俺も会場を見上げたけど、言葉を失ってしまった。
だってドームですよドーム。こんな大規模会場で、しかもUFコーポレーションのお膝元でファイトできるとか。
気合しか入らないな。
「
「んあ?」
速水に言われて、周囲を見回す。
何やら殺気立った感じでこちらを見る中学生が沢山いるな。
……なるほど。今日の対戦相手達ってわけか。
「速水。俺ら随分と注目されてるみたいだな」
「そうだな……主に天川のせいでな」
「俺そんな悪い事したか?」
「ツルギくん、流石に公式大会で1killは根に持たれると思いますよ」
だって相手が防御カード持ってなかったんだもーん。
俺は悪くないもーん。
反省は……ちょっとだけしておくか。
それはともかく。
これだけ出場選手がいるなら、と俺は周りを見渡す。
目的の人物は、すぐに見つかった。
「いた」
「どうしたんですか、ツルギくん?」
「アイだよ。あそこにいる」
俺が指さすと、ソラと速水もそちらを注視した。
サングラスと帽子で変装はしているが、間違いない。
いつも俺達と会っている時の会いアイだ。
「おーい、アイー!」
俺は手を振ってアイに声をかける。
アイは一瞬こちらを見たけど、すぐに顔をそらしてしまった。
「天川、流石にここでアイドルは返事できないだろ」
「ダメ元ってやつだよ。それよりやっぱりアイは」
「今日も【妖精】デッキを……」
使うんだろうな。
アレは完全にアイドルモードだった。
大人が見れば、今のアイは聞き分けのいい女の子かもしれない。
だけど俺達には、そんな事理解したくもなかった。
アイのそばに二人の女の子がいる。
きっとユニットメンバーなんだろうな。
二人の女の子はこちらを指さしながら、アイに何かを言っている。
だけどアイはそれを躱しながら、さっさと会場へ入っていった。
「やっぱり、サモンの問題はサモンで解決するべきか」
サモン脳にはサモン脳で。
アイとちゃんと戦えるかは分からないけど、今はアイとサモンファイトができるように頑張らなくてはならない。
「天川、
「速水くん」
「思うことが色々あるのは俺も同じだ。だがサモンの問題は、この大会の中で答えを見つけるしかない」
「……そうですね。私、絶対にアイちゃんとファイトしたいです!」
「天川もそうなんだろ?」
「当然だ。アイとファイトして、答えを見つけてやる」
よし、気合いも入った。
俺達は意を決して会場の受付へと向かうのだった。
……ところで、サモン脳から出る言葉ってパワー強いよね。
◆
受付を済ませて、開会式をやるドーム会場の中へと入る。
既にいくつかのチームが準備を終えているな。
周りを見ればTVカメラもある。
「そういえば、TV中継されるんだっけ」
「あぁ。JMSカップは毎年そうだな」
「どどどどうしましょう。私寝ぐせとかないですよね!?」
「落ち着けソラ。いつも通りだから安心しろ」
TVカメラを前に動揺するソラを宥める。
それはそうと、やはり俺が気になるのはアイだ。
アイはアイドル衣装に着替えて、既に会場入りしている。
だけど俺達の方を見ようとはしない。
まるで避けているようにさえ感じる。
そうこうしている内に開会式が始まった。
とは言っても、この手のデカい大会はお偉いさんの話ばっかで、始まりはつまらないんだけどな。
「(あ~、早くファイトしたい)」
大会協賛企業の挨拶に、協会の挨拶。
話が長くてあくびが出そうになる。
「続きまして。本大会の主催運営をいたしますUFコーポレーションCEOより、挨拶と説明をします」
その言葉が聞こえた瞬間、会場に居た全ての人間がザワっとした。
俺も思わず眠気が吹き飛ぶ。
会場にいた誰もが、壇上に上がる壮年の男性に注目した。
そして……俺は改めて、この世界というものを実感した。
「若きサモンファイターの諸君、初めまして。私はUFコーポレーションCEO」
何故ならそこに居たのは、俺がずっと見ていたアニメのキャラクター。
「ゼウス・T・ボルトだ」
モンスター・サモナーを支配する者。ゼウス社長が居たのだ。
ゼウス・T・ボルト。
彼はアニメの中では様々な行動をするトリックスター的なキャラクターだ。
目的は不明。時に主人公達を助ける事もあれば、敵組織に手を貸す事もある。
敵か味方かわからない、謎多きキャラクター。
アニメの中では、自身を「デウスエクスマキナ」と呼称していたりもする。
俺はただ茫然とその姿を見つめていた。
アニメ世界のキャラクターが、今目の前にいる。
自分でも今どういう感情を抱いているのか、上手く説明ができない。
ただ一つだけ言えることは……やはりこの世界は、アニメの世界なんだという事だ。
「(今更だけど、俺……本当にアニメの世界に来たんだなぁ)」
感動でいいのだろうか?
よくわからない感情が溢れそうになる。
もう話の内容なんかほとんど入ってこない。
「ツルギくん……どうしたんですか?」
「えっ!? いやぁ、なんか色々と物思いを」
「すごい顔してましたよ?」
いかんな、顔に出ていたらしい。
しっかりせねば。
俺は内頬を軽く噛んで、気持ちを切り替える。
「それでは、本年度のJMSカップ。その予選内容を発表しよう」
おっ、予選内容の説明か。危なかった。
速水曰く、予選は毎年内容が異なるらしいけど、今年は何するんだ?
「予選は二つのブロックに分かれての、バトルロイヤルを行う」
バトルロイヤル。つまり多人数戦か。
普通に考えれば四~五人程で行うファイトなんだけど……時間かかりそうだな。
いや待て、二つのグループって言わなかったか?
俺と同じ疑問を持ったのか、他のファイター達も首をかしげている。
「君達が首をかしげるのも無理はない。今回予選で行うのは八チーム、計二十四人で行う多人数戦だ」
マジかよ。派手すぎるだろ。
周りのファイターも皆驚いている。
「では、詳しいルールを説明しよう」
巨大モニターに、細かなルールが表示される。
簡単にまとめるとこうだ。
・各チームメンバー三人、合計二十四人による多人数戦。
・全員最初の1ターン目はドローフェイズとアタックフェイズを行えない。
・ライフかデッキが0になったら脱落。カード効果による勝利は適用されない。
・チームメンバー三人が脱落した時点で、そのチームは予選敗退となる。
・四チームが脱落した時点でファイト終了。メンバーが生き残っていたチームが本戦出場となる。
なるほどね。ルールは理解した。
まぁそれはそれとして、周りのファイターは戦慄しているけど。
「これは……厳しい戦いだな」
「そうですね。予選で半分も落とされてしまいます」
速水とソラも戦々恐々している。
「なぁに、大丈夫だろ」
「呑気なものだな、天川」
「だって一人でも生き残っていればいいんだろ? なら俺ら大丈夫だろ」
これは圧倒的な自信。
そして仲間への信頼。
仮に俺が撃破されても、ソラと速水なら勝ち進んでくれるだろ。
その意図が伝わったのか、二人は小さく微笑んだ。
「まったく。破天荒な仲間がいると苦労する」
「そうですね。でもツルギくんの言う通りです。私達、全力で頑張りますよ!」
ようし、その意気だ。
絶対にアイとファイトをする。その為にも、こんな予選で負けてられない!
「それでは、予選グループをランダムで決めよう」
巨大モニターにAグループとBグループが表示される。
俺達チーム:ゼラニウムは……
「あっ、私達Aグループですね」
「チーム:
幸運と言うべきかどう言うべきか。
いきなりアイと戦うチャンスが来たな。
とは言っても、バトルロイヤルルールじゃあ、真面目にぶつかれそうに無いけど。
「ではAグループから予選を始めてもらおうか」
壇上でゼウス社長が笑みを浮かべる。
「今ここに! JMSカップ、開幕を宣言する!」
歓声が会場を埋め尽くす。
遂に大会が始まるのだ。
ひとまず予選Bグループ組は、控室に下がる。
予選Aグループの俺達は、スタッフの指示で円を描くように並ばされた。
「ソラ、速水。デッキ調整は十分だよな?」
「はい!」
「愚問だな」
ならよし! 俺も当然準備万端だ!
で、アイの様子はというと……
「……やっぱり、なんか辛そうじゃねーか」
絶対に勝つ。そしてアイと戦う。
俺がそう決心していると、全ての準備が終わったらしい。
アナウンスが聞こえてくる。
『それでは、予選Aグループ。バトルロイヤルファイト。スタートしてください!』
全員一斉に召喚器を手に取る。
さぁ、始めようか。
「「「ターゲット。フルロック!!!」」」
全員の召喚器が無線通信すると同時に、バトルロイヤルモードへと移行する。
「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」
さぁさぁ派手に暴れますかぁ!
「……って、俺の番最後かよ」
いきなり暇になるとか、少しショックだぞ。
とりあえず最初の奴がターンを始める。
「オレのターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」
まぁバトルロイヤルなら、いきなり攻めてくる事は少ないだろ……
「オレは魔法カード〈ファイアボルト〉を発動! このカードは相手プレイヤーに2点のダメージを与える!」
おっ上手いな。確かに効果ダメージなら、開幕早々攻める事ができる。
ちなみにバトルロイヤルルールでは、この手の相手を対象とした効果を発動する場合、いずれかのプレイヤー一人を選んで効果を適用するぞ。
中には例外もあるけど、今はいいだろう。
「さぁて。最初に焼かれるのは誰かな?」
「オレが選ぶプレイヤーは。チーム:ゼラニウムの天川ツルギだ!」
「え?」
いきなり俺!?
魔法カードから出現した火の玉が、俺に襲い掛かる。
ま、まぁ2点のダメージならまだ許容範囲だな。
「助太刀しますわ! この瞬間、わたくしは魔法カード〈超加熱!〉を発動しますわ!」
「げっ!? そのカードは」
というかそこのお嬢様口調の人! あんた別チームの人だろ!?
「この魔法カードは、系統:〈火力〉を持つカードが与えるダメージの量を一度だけ2倍にいたしますわ!」
「おい、それは流石にキツ――熱っつう!?」
魔法効果で巨大化した火の玉が、俺に襲い掛かる。
ツルギ:ライフ10→6
「バトルロイヤルのコツはみんなで各個撃破だ!」
「まずは貴方に消えてもらいますわよ、天川ツルギ!」
よく見れば、ゼラニウムとFairys以外のファイター全員が俺の方を見ている。
よーく顔を見たら、今まで俺が倒してきた奴らだ。
「……あっ、これかなり不味いな」
いくら俺でも、18対1は厳しいです。
これ……マジでどうしよう?
俺は素直に顔を青ざめさせました。
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