第百二十九話:のんびりお祭り?
世界は違えど、お祭りというのは賑わいがあるものである。
のんびりバカンスのつもりで来た離島だけど、こういうイベントに出会えるのは幸運でしかない。
やはり友人達と夏祭りに行くなんて、美しき青春の一ページでしかないからな。ここで堪能しなきゃアド損の極みだ。
とはいえ……一つ問題があるとすれば。
「たこ焼き美味しいです〜。ツルギくんも食べてみますか?」
「いや、俺は大丈夫だから」
「どうしたのよツルギ。さっきから顔が無になってるわよ?」
左には無邪気な笑顔で屋台飯を堪能しているソラ。
右には唐揚げ串を手に持っている元アイドルことアイ。
その二人に挟まれながらゴミ袋を持っているのは、当然ながら一般人の俺。
恐らく二人は理解していないだろうけど、完全に両脇に美少女を侍らせている謎男子高校生という絵面が完成してるんだよ!
頼むから周囲の視線に気づいてくれ。俺は今めちゃくちゃ変な目で見られてるんだぞ。
なお過半数は明らかに男からの「嫉妬と憎悪」だと思う。
「なぁ、もう少し俺から離れて移動するとかできない?」
「あら、エスコートはしてくれないのかしら?」
「ダメですよツルギくん。女の子を放置するのは」
「そっか。ならせめて俺を串刺しにしてくる視線に気づいてくれないかな?」
他人からの視線ってさ、物理的な痛みを感じる事があるんだよ。幻痛なのかもしれないけど。
「別に気にしなくてもいいでしょ。同性からの嫉妬なんて、勝者だけが得られる特権よ」
「説得力が強すぎるんだよ元アイドル」
「他人の嫉妬を実力で粉砕する瞬間、これが一番心地いいのよ」
「その気持ちが理解できてしまったあたり、俺も大概なバーサーカーだな」
だって理解できちゃうんだよ。
嫉妬だけで自己の研鑽をしない相手を、実力差でねじ伏せるの好きだもん。
でもそれとこれとは話が別だ。
俺は今突き刺さってくる視線をどうにかしたい。
「頼むからアイもソラも自分のビジュアル値の高さを自覚してくれ」
「私が自覚なしだと本気で思ってるの?」
「あぁそうだったな元アイドルさん」
となると問題はソラなんだけど。
「わわわ私ですか!? 私なんてどこにでもいるモブ顔ですよ!?」
「ソラ、貴女自分の顔を鏡で見たことないの?」
俺はノーコメントでお願いします。
多分ソラの美少女度について喋ったらややこしくなるから。
「イヤイヤイヤ、私はアイちゃんとは違って本当に普通ですから!」
「何言ってるのよ。貴女下手なアイドルよりも顔が良いのよ」
「でも私、別に男の子にモテたことも無いですし、見ての通り……その……小さいですし」
あっ、ソラの拳に血管が浮いてる。
相当な葛藤があったな。その上で曖昧な言葉をチョイスしてる。
「大丈夫よ。それも含めて需要なんていくらでもあるわ。ねぇツルギ?」
「その流れで俺に振ってくるのは悪意だぞ」
需要って話の後に振るなよ。
どう答えても後で俺がダメージ食らうじゃねーか。
「ツルギくんは、あると思いますか……需要」
「ソラ、頼むから笑顔でそういう質問をぶつけないでくれ」
あと目のハイライトを戻してくれ。怖いんだよ、圧がすごくてさ。
「ツルギくん?」
「需要……すごく、あると思います」
俺の意思は弱かった。
無理だよこんなの。無言を貫いたら、物理的に腹を貫かれるよ。
それくらいのプレッシャーがあったぞ。
「ほらね。ツルギもそう言ってるでしょ?」
おいアイ、ちょっとニヤニヤしてんじゃないぞ。
完全に狙ってこの流れを作っただろ。
「まぁその、なんだ。ソラならいい相手がすぐ見つかると思うぞ」
「……」
なんかソラが無言とジト目で俺を見てくるんだけど。
別に変な事は言ってないと思うんだけどな。
「はぁ……本当にこの男は」
アイにまで呆れられているような気がする。
分からないよ。彼女歴0年のカードゲーマーには、女の子の心理なんて何も分からないよ。
ただ……少しだけ不思議なのは。
(……なんか、モヤっとするな)
ソラの相手を想像すると、心がモヤモヤした事だ。
そんなやり取りをしながら、俺達三人はお祭りを楽しむ。
歩くペースはゆっくりめ。何故なら食べ物系の出店でソラが立ち止まるからだ。
あれ大丈夫かな? 本当に屋台飯食い尽くしとかしないよな?
流石にそれだけは大丈夫だと信じつつ……俺は手に持っているゴミ袋の重量に戦慄をしていた。
これは食べ歩きで発生していい重みじゃない。
「あの子……本当に食べた栄養どこに行ってるのかしら?」
「むしろ俺が知りたい」
「ツルギが持ってる袋、九割以上ソラが食べ終わったものでしょ? なんであの子お腹すら膨れていないの?」
そうなんだよな。帯を緩めたとか言ってたけど、全くそれが影響してなさそうなんだよな。
帯に関係なくドカ食いしてるだろ。
焼きそば、たこ焼き、唐揚げ、クレープ、フルーツ飴、たい焼き……全制覇を目指せる勢いだ。
「ところでケバブの屋台ってあったか?」
「だからなんで貴方はケバブに執着してるのよ」
「日本のお祭りには必須だからな」
「どこの文化よそれ」
多分関西方面だと思う。
美味しいんだぞ、屋台のケバブ。
「にしても、色々あるもんだな〜」
食べ物ではない出店を見てみる。
基本的には前の世界とそう変わらないラインナップだ。
お面屋があったり、ビニール製の人形が売ってたり等々。
ただし……全部サモン関係のものになっているがな。
(お面屋はタヌキ以外全部サモンのモンスターだし……ビニール製の人形も同じくだし)
よく見れば食べ物系もサモンに侵食されている。
ベビーカステラがカードの裏面デザインになっている。
どうりでサイズが大きめな筈だよ。
たい焼きの店にはカード焼きという名の、カードの裏面デザインになったたい焼きがある。
わざわざ金型を作ったのか。
(やっぱりこういうのを見ると、異世界って感じがするよな)
そんな事を考えながらのんびり歩いていると、ちょっとした人集りを見つけた。
本殿のすぐ近くという、妙に浮いた場所にある一つの屋台。
気になった俺は、そこに近づいてみた。
「……くじ引き?」
店にはオーソドックスな「くじ引き」の文字。
お祭りの定番ではあるが、ここまで人が集まるのも珍しい。
しかも子どもだけではなく、大人も沢山いる。
「あれなんでしょう?」
「カードのくじ引きよ。よくあるやつだけど、特別なものも混ざっているそうよ」
あんず飴を食べているソラに、アイが指差して答える。
俺も差された方を見てみると、一つの看板があった。
どうやらくじ引きに入っているカードの中に「当たり券」というものが入っているらしい。
とは言っても、SRカードへの引換券などではない。
「当たりを引いたら奉納ファイトへ参加できる?」
「本殿にあるファイトステージで戦うのよ。神へ奉納する演武ってところかしら」
「神聖なファイトなんですね〜」
すごく真面目に解説をしてくれるアイ。
ソラは普通にそういう文化だと受け入れているようだけど……うん、突っ込みたい。
奉納ファイトってなんだよ!
神に捧げるサモンファイトって何!?
遂にカードゲームは神事として扱われる時代になったのか!?
カードゲーム至上主義もとうとうこの域にまで到達したのか。
「奉納相撲とか槍術の演武とかは聞いたことあるけど、サモンも奉納できるんだな」
「あたりまえでしょ」
即答してくるアイが怖い。
これが価値観の差なんだろうな。
とはいえ、カードのくじ引き自体は面白そうだ。
「せっかくだし、俺は運試ししてくる」
「なら私もしてみようかしら」
「あっ、私もやってみたいです!」
こういうノリに乗ってしまうあたり、やっぱりみんなカードゲーマーなんだなって思う。
列に並んで待つこと数分。百円玉を三枚渡して、くじの入った箱に手を入れた。
「こ〜……れ」
直感を信じて一枚抜き取る。
真っ白なスリーブに入った一枚のカード、これがくじらしい。
完全に見た目がカードショップの自販機オリパだな。
「お待たせツルギ」
「私達も引いてきました」
少し離れた場所で三人集まる。
せっかくだから一緒に結果を確認しようとなったんだ。
というわけで早速開封タイム。やっぱり中身を確かめる瞬間こそが、カードゲーマーにとって一番の運試しだな。
「あっ! 〈キュアピット〉のイラスト違いです」
「〈トリックゲート〉こっちは普通のコモンカードね」
どうやら二人は当たり券ではなかったらしい。
でもソラが当てたイラスト違いは、普通に当たりな気もする。
系統も《
「じゃあ俺も」
白いスリーブから、中のカードを取り出す。
さてさて、俺の運試し結果は……
「……当たり券?」
白紙の紙に、手書きで「当たり券」と書かれている。
よくみたら裏面のデザインもない。手作り感が強い一枚。
「当たり券ですね」
「ツルギに来ちゃったのね」
「奉納ファイト……俺がやるのか」
流石に神事とあっては仕方がない。
ここは全力全開のファイトを神に捧げようじゃないか。
俺がそう考えていると、後ろからアイにガシッと肩を掴まれてしまった。
「待ちなさいツルギ。貴方が今持っているデッキは?」
「バカンス中に試運転しようと思っていた強化版【幻想獣】だけど?」
「ソラ、ツルギから当たり券を没収しなさい」
「はい」
えっ、なんでさ!?
「あのねツルギ、貴方は神事で殺戮兵器を晒したいのかしら?」
「神に捧げる純粋な全力全開をやるつもりだったんだけど」
「それがダメって話よ。学園のファイターならともかく、一般人相手に貴方の強さはトラウマものよ」
えぇ〜、そんなにダメかな?
ちょっとカーバンクルの本気を見せようと思っただけなのに。
(……あっ、よく考えたら今カーバンクルいないんだった)
島の調査に行ってもらってるんだった。
じゃあどの道、今の俺が出ても不完全燃焼は回避できないな。
「じゃあ誰が代わりに出る?」
「今ソラが持ってるんだから、ソラでいいんじゃないかしら?」
「……えっ、私ですか!?」
当たり券を手にしながら、驚くソラ。
まぁ確かに流れ考えるならソラかアイだよな。
「そこはアイちゃんがファイトしても」
「逆に聞くけどソラ、貴女一人でツルギを止められる自信あるかしら?」
「私が出ます」
酷くない? 完全にあっちこっち行って迷子になる男児の扱いじゃん。
俺はこれからハーネスでも着けられるのか?
「なぁ、本当に俺が出たら」
「「ダメ」」
「はい」
仕方ないので、今日は観戦者に徹しますか。
ソラは本殿前の人に当たり券を見せて、ファイトステージへと案内される。
そして俺とアイはステージ前の客席に向かうのだった。
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