第三十九話:賭けろ! 逆転の一撃!

 開幕早々4点のダメージ受けてライフは6。

 しかもこの後、二十二人のターンが残ってるって?

 流石に不味いってレベルじゃないぞ。


「オレはこれでターンエンドだ」

「次はわたくしのターンですわ! スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 二人目のターンが始まる。

 俺は呼吸を整えながら、自分の手札を確認した。

 防御カードは……一応ある。

 問題は今手札にあるカードだけで、ターンを迎えられるかという点だ。

 特にさっきのような魔法効果によるダメージを連打されたら、どうしようもない。

 なんとか耐え抜けるように祈るしかないか。


「わたくしは〈フリントロックソルジャー〉を召喚! その召喚時効果で、相手プレイヤーに1点のダメージを与えますわ!」

「あの、ターゲットは」

「もちろん天川ツルギ、貴方ですわ!」

「ですよねー!」


 兵隊型モンスターが、俺に銃口を向けてくる。

 そして発砲!

 容赦なく飛んできた弾丸が、俺のライフを削った。


 ツルギ:ライフ6→5


「痛いなぁ。二ターン目でライフ半分かよ」

「わたくしはこれでターンエンドですわ」


 よかった、追撃は無かった。

 でも後二十一人いるとか冗談じゃないぞ。


「僕のターン!」


 そして始まる三人目。

 不幸中の幸いと言うべきか。直接ダメージを与えてくるのは、最初の二人だけだったらしい。

 他のファイターは皆、モンスターの召喚等で終わった。

 とは言え、かなりピンチなのには変わりないけど。

 だってみんな盤面強すぎるんだもん!

 ガッチガチやぞ!


「ご丁寧に効果ダメージを1点軽減するカードまで並べられてる……こりゃ研究されたな俺」


 完全にカーバンクルでループする事を想定されてる。

 まぁ勝ち筋がそれだけじゃないのが幸いなんだけど。


 そうこうしている内に二十一人目。

 アイのターンだ。


「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ」


 俺はアイの盤面を注視する。


「私は〈ウインドピクシー〉を召喚」


 アイの場に召喚されたのは、可愛らしい妖精のモンスター。

 やっぱり【妖精】のデッキを使うのか。


 〈ウインドピクシー〉P2000 ヒット1


「続けて私は〈臆病なシルフ〉を召喚」


 次に召喚されたのは、ぷるぷると震えている妖精の女の子。


 〈臆病なシルフ〉P2000 ヒット1

 

 あのカードは確か、セルフバウンスができたはず。


「〈臆病なシルフ〉の召喚時効果を発動。相手の場に、このカードよりパワーの高いモンスターが存在するなら【悪戯いたずら】を行うことができるわ」


【悪戯】

 系統:〈妖精〉が持つ専用能力だ。

 その効果は、自分の場に存在する妖精モンスターを好きなだけ手札に戻す、セルフバウンス効果。

これが【妖精】デッキの始動エンジンでもある。


「私は〈臆病なシルフ〉を手札に戻す。そしてこの瞬間〈ウインドピクシー〉の効果発動! このカード以外の自分の場のモンスターが手札に戻った時、デッキを上から2枚確認するわ」


 デッキからカードを2枚めくって、確認するアイ。

 出たな、妖精デッキの便利カード。


「1枚は手札に加えて、残りは墓地に送るわ。更に私のライフを1点回復する」


 アイ:ライフ10→11 手札4枚→5枚


 うん。〈ウインドピクシー〉さん器用すぎませんかね?

 アドの塊じゃん。まぁあの効果ターン中1回しか使えないんだけど。


「私はこれでターンエンドよ」


 アイがターンを終える。

 まぁ攻撃できないから、そこまで派手には動けないもんな。

 さぁ、次は俺達チーム:ゼラニウムのターンだ。

 まずは速水から。

 

「俺のターン、スタートフェイズ。メインフェイズ。俺は〈ダイヤモンド・パキケファロ〉を召喚!」


 速水の場に、金剛石の頭を持つ恐竜が召喚される。

 上手いな。戦闘破壊耐性を持つモンスターで、まずは防御を固めてきた。


 〈ダイヤモンド・パキケファロ〉P6000 ヒット2


「俺はこれでターンエンドだ」


 次はソラだ。


「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 ソラは手札を入念に確認して、戦術を立てている。


「よし。私は魔法カード〈ホーリーポーション〉を発動します! 手札の系統:〈聖天使〉を持つカード〈ヒーラーエンジェル〉を見せて、ライフを3点回復。カードを1枚ドローします」


 ソラ:ライフ10→13 手札4枚→5枚


 よし。まずは【天罰】の準備を整えた。


「続けて私は〈キュアピッド〉と〈ヒーラーエンジェル〉を召喚します!」


 二体の天使が、ソラの場に召喚される。

 どちらもバトルロイヤルの第一ターンでは良い選択肢だ。


 〈キュアピッド〉P3000→P9000 ヒット1

 〈ヒーラーエンジェル〉P4000 ヒット1


「〈キュアピッド〉は【天罰】の効果でパワーが9000になります。更に〈ヒーラーエンジェル〉の召喚時効果発動です! 私の墓地から〈ホーリーポーション〉を除外して、その効果をコピーします」


 更なる回復とドローをするソラ。

 良いぞ良いぞ、第一ターンの動きとして理想的すぎるぞ。


 ソラ:ライフ13→16 手札3枚→4枚


「私はこれでターンエンドです」


 ターン終了を宣言したソラは、静かにこちらを見てくる。

 心配しているんだろうな。

 だけど任せろ。ここで折れる俺じゃない!


「やっと出番が来たか。俺のターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 手札は十分に確認した。

 時間もあったおかげで、最初の動きも決めてある。


「まずは回復からだ。魔法カード〈デストロイポーション〉を発動! デッキを上から5枚墓地に送る」


 墓地に送られたカードは……

 モンスター:〈コボルト・ウォリアー〉〈ジャバウォック〉〈スナイプ・ガルーダ〉

 魔法:〈逆転の一手!〉〈メテオディザスター!〉


「よし! モンスターが3枚墓地に送られたので、俺はライフを3点回復する!」


 ツルギ:ライフ5→8


 ライフ回復はできたけど、正直まだまだ安心できない。

 これはバトルロイヤルルール。極端な話、自分以外全て敵だ。

 チームメンバーでサポートもできるけど、カード相性の都合であまり期待はできない。

 だったらできる限り、可能性を信じるしか道はない。


「俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」

『スララー!』


 可愛らしいスライムが、俺の場に召喚される。


「〈トリオ・スライム〉の召喚時効果発動! デッキから同名カードを手札に加える。そして二体目の〈トリオ・スライム〉を召喚! 効果で三体目を手札に加えて、それも召喚だ!」

『『『スララー!!!』』』


 〈トリオ・スライム〉(A、B、C)P1000 ヒット1


 とりあえず場は埋めた。ここからがコンボだ。


「俺は魔法カード〈ザ・トリオ・ドロー!〉を発動! このカードは、自分の場に同名モンスターが3体存在する時にのみ発動ができる。その効果で俺はデッキからカードを3枚ドロー!」


 見たか、これが〈トリオ・スライム〉最強のお供カードだ!


 ツルギ:手札3枚→6枚


「更に魔法カード〈ギャンビットドロー!〉を発動! 〈トリオ・スライム〉(C)を破壊して2枚ドロー!」


 ツルギ:手札5枚→7枚


 うんうん。いい感じに手札を補充できた。

 とは言っても、無限ループコンボのパーツは揃ってない。

 しかも相手の場には対策カードまで立っている始末。

 ここは素直に防御を固めておくか。


「今日は普通にいくか。奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚!」

『キュップイ!』


 俺の場に相棒が召喚される。安心してくれ、今日はマジで普通に使うから。


 〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


 カーバンクルのパワーが表示された瞬間、観客がざわめいた。

 うん、もう慣れたよ。「弱っ!」「なにあれ!?」「可愛いー!」って声。

 だけど対戦相手の皆様は、顔が真っ青になってるな。

 そんなにトラウマか? この可愛いモンスターが?


「ひとまずこれで凌ぐか。ターンエンド!」


 さぁて、ここからどうするかだよな。

 とりあえず一周したから、次からドローフェイズとアタックフェイズが解禁される。

 俺としてはさっさとこの予選を終わらせてやりたいんだけど……それは難しそうだな。

 何故なら相手は俺を想定した対策を練ってきている。

 更にバトルロイヤルというルールの都合上、倒すべき相手が多すぎる。


 各個撃破。たしかに理に適った戦術だ。

 厄介な敵から集中攻撃を仕掛けるのは、多人数戦の基本。

 まぁ俺がその的になるのは想定外だったけどな。


 それはともかく。

 問題はどうやってこの予選を勝ち抜くかだ。


「(時間をかければ俺が不利になる。だったら一撃で全員倒せたらいいんだけど……できるか? この人数を)」


 俺は必死に今日のデッキ内容を思い返す。

 だが有効策が思いつかない。

 どうしたものか。


「オレのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 考え事してたら相手のターンが始まった。

 さぁ、集中砲火が始まるぞ。


「メインフェイズ! オレは〈灼熱超人〉を召喚!」


 モブ男の場に燃え盛る炎で構成された魔人が召喚される。

 不味いな、あのカードも効果ダメージ関連だぞ。


「そしてオレは魔法カード〈ファイアボルト〉を発動!」


 おっ2枚目じゃん。


「天川ツルギに2点のダメージを与える! 更に〈灼熱超人〉の効果によって、系統:〈火力〉が与えるダメージは2点増える! 合計4点ダメージ、喰らえッ!」


 強化された火の玉が俺に襲い掛かる。

 このまま喰らえばライフを半分持っていかれてしまうが、そうはいかない。


「こんなところで大ダメージ受けるわけにはいかねーんだ! 魔法カード〈ルビー・バリア!〉を発動!」


 魔法を発動した瞬間、カーバンクルが俺の前に紅いバリアを展開してくれた。

 バリアが火の玉から俺を守り切ってくれる。


「〈ルビー・バリア!〉の効果で、俺が次に受けるダメージは0になる」

「防がれたか。だけどこの数を相手にどこまで耐えきれるかな?」

「それはどうかな? カーバンクルが場に存在する場合、〈ルビー・バリア!〉の効果は変化する」

「なにッ!?」

「カーバンクルが存在する場合の効果! 次の俺のターン開始時まで、俺が受けるダメージは全て0になる!」


 少なくともこれで、次のターンは確実に回って来るというわけだ。

 まぁ攻めの一手が見つかってないけど。


「チッ! ターンエンドだ!」


 ターンが終わり、次のファイターへ。

 とりあえず俺は生き残るけど、そうなれば相手さん達も作戦を変えてくる。

 俺の次に集中砲火を受けるのは、ソラと速水だ。


「アタックフェイズ! モンスターで攻撃しますわ!」

「〈キュアピッド〉でブロックします!」

「僕はこっちだ! モンスターで攻撃!」

「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉でブロック!」


 激しい猛攻を、なんとか防いでいくソラと速水。

 だけど全てを防げるわけではない。


「ライフで受けます。きゃっ!」


 ソラ:ライフ16→11


「その攻撃は……ライフだ」


 速水:ライフ10→9


 圧倒的な数の暴力。

 ソラと速水は着実にライフを削られていった。

 そして攻撃を仕掛けてくるのはアイ達も同じ。


「〈ウインドピクシー〉で赤翼ソラさんに攻撃です!」

「魔法カード〈ヒーリングウォール〉を発動します! 攻撃を無効化して〈キュアピッド〉を回復!」


 なんとか防ぎきるも、消耗が激しい。

 このままではジリ貧で負けてしまう。

 そして迎える俺のターン。


「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 何か引き当てないと、かなり不味い。

 俺はドローしたカードを確認する。


「首の皮は繋がったか。魔法カード〈ギャンビットドロー!〉を発動! 〈トリオ・スライム〉(B)を破壊して2枚ドロー!」


 とにかくカードを手札に持ってこないと、策が練れない。

 俺は急いで2枚のカードをドローする。


 ツルギ:手札5枚→7枚


 ドローしたカードは……


「(〈トリックプレゼント!〉に〈フューチャースティール〉!? なんでこんな時に来るんだよ!)」


 〈トリックプレゼント!〉は癖の強い回収カード。

 〈フューチャースティール〉に至っては効果こそ強力だけど、デメリットが強烈すぎる。


「(〈フューチャースティール〉は相手モンスターを全て破壊するか、2枚のドローかを選べるカード……その変わり相手に追加ターンを与えてしまう)」


 ただでさえ防御カードが足りてないのに追加ターンなんて与えてしまえば、高確率で負けてしまう。

 一応バトルロイヤルルールを応用すれば、ソラか速水に追加ターンを与えることもできるけど……


「(二人とも、追加ターンでケリをつけられる手札なのかがわからない)」


 しかも先ほどの猛攻で、二人とも手札の残りが少ない。

 潤沢な手札がないと追加ターンは活かしきれない。


 不味いな、気持ちに焦りが出てきている。

 呼吸を整えろ。落ち着くんだ。

 俺は頭を冷やしながら、全員の盤面を見る。


 何か手はないか。この予選を攻略する、なにか一手は。


 ソラと速水は、防御が手薄になってきている。次のターンを迎えられるかが心配だ。

 アイ達は妖精モンスターを固めている。特にアイは〈ウインドピクシー〉と〈臆病なシルフ〉で防御を固めている。

 他の相手は様々だ。だけど基本的には攻撃態勢に入っている。

 何が何でも俺を始末する気らしい。


 何かヒントはないのか? この盤面の中にヒントは。


「……ん? 待てよ……妖精?」


 俺は記憶を辿って、妖精カードの種類を思い出す。

 確か【妖精】デッキのフィニッシャーによく使われていたカードは……


 俺は急いで自分の墓地を確認する。


「あった! 〈デストロイポーション〉で落ちてた!」


 俺の頭の中に、一つの策が思い浮かぶ。

 ただし成功する確率はかなり低い。何故ならこれは相手依存のコンボだからだ。

 だけど……もしこれが決まれば。


「全員まとめて倒せるかもしれないな」


 むしろそうしないと勝ち目がないかもしれない。

 既にかなり不利な状況だ。

 こうなったら僅かな可能性に賭けた動きをするしかない!


「メインフェイズ! 一か八かの賭けだ。ライフを3点払って、魔法カード〈フューチャースティール〉を発動!」


 ツルギ:ライフ8→5


「その効果で、デッキからカードを2枚ドローする! ただし、デメリット効果によって相手プレイヤー1人に追加ターンを与えてしまうけどな」


 相手チームから失笑が聞こえる。余裕も見えた。

 完全に勝ちを確信している顔だ。

 だけど俺は突き進む。


「俺が追加ターンを与えるのは……宮田愛梨!」

「えっ!?」

「ツルギくん!?」


 追加ターンを渡されたアイが驚愕の表情を見せる。

 それはソラや速水も同じだ。

 効果を普通に考えれば、この状況だとチームメンバーに追加ターンを与えるのが正解だろう。

 だけど今は違う。俺の逆転コンボを決めるには、アイにターンを渡す必要があるんだ。

 

「……いいのかしら? 私にターンを与えても」

「いいんだよ。それでいいんだ」


 俺は小さく笑うと、アイは何かを感じ取ったらしい。

 頼むぜアイ。この次で、俺のメッセージに気づいてくれ。


「俺は魔法カード〈トリックプレゼント!〉を発動!」


 アイの目の前に大きなプレゼントボックスが出現する。


「このカードは、相手プレイヤーに俺の手札を1枚渡すことで発動できる魔法カード。俺は宮田愛梨に手札を1枚渡す」


 プレゼントボックスが開き、アイの手札に俺のカードが1枚加わる。

 俺が送ったカードは〈ゼロバリア!〉。効果ダメージを一度だけ0にする魔法カードだ。


「〈トリックプレゼント!〉のメイン効果で、俺は墓地の魔法カードを1枚手札に戻す。俺が戻すカードは……〈メテオディザスター!〉だ!」


 ルールによって、手札に加えたカードを全てのプレイヤーに確認させる。

 〈ゼロバリア!〉〈メテオディザスター!〉、そして追加ターン。

 必要なパーツは揃った。あとはアイが気づいてくれるかどうかにかかっている。


「俺は……これでターンエンドだッ!」


 モンスターの召喚も攻撃もせずにターン終了。

 流石に俺のこの行動には、会場に居る全員が驚きの声を上げた。

 諦めたのかという声も聞こえるが、それは違う。

 諦めてないから、ターンを終了したんだ。


 俺は無言でアイの方を見る。


『バトルロイヤルルールによって、宮田愛梨の追加ターンが開始されます』


 召喚器からガイダンスが聞こえる。

 次はアイのターンだ。

 頼むぜアイ……俺の思惑に乗ってくれよ。


「……ふぅ。本当に無茶苦茶な事を考えるのね」


 アイが小さく、そう呟く。


「良いわ、遊んであげる。私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 アイ:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。私はライフを3点払って〈ヒートフェアリー〉を召喚するわ」


 アイの場に、松明を持った妖精が召喚される。


 アイ:ライフ11→8

 〈ヒートフェアリー〉P3000 ヒット1


 あれが〈ヒートフェアリー〉。【妖精】デッキの優秀なフィニッシャーだ。


「まずは邪魔な子を黙らせないとね。私は魔法カード〈トリック・トリック〉を発動! 私の場から系統:〈妖精〉を持つモンスター〈臆病なシルフ〉を手札に戻すことで、相手の場に存在するモンスターの効果を全て無効にするわ」


 無数の妖精が現れ、モンスター達にいたずらをしていく。

 魔法効果で相手の対策モンスター達が無力化した。これは嬉しい誤算だな。


「妖精が手札に戻ったので〈ウインドピクシー〉の効果を発動。1枚手札、1枚墓地、1点回復」


 アイ:ライフ8→9 手札6枚→7枚


「更にこの瞬間〈ヒートフェアリー〉の効果発動。系統:〈妖精〉を持つモンスターが手札に戻るたびに〈ヒートフェアリー〉はヒット数を1上げるわ」


 そう。これこそ〈ヒートフェアリー〉がフィニッシャーと呼ばれる所以。

 とにかくヒット数を上げて、ライフを一気に削ってくるのだ。しかもあいつ【貫通】もってたりするし。


 〈ヒートフェアリー〉ヒット1→2


「続けて私は魔法カード〈いたずらオバケ!〉を発動するわ。このカードは、私の場から系統:〈妖精〉を持つモンスターを手札に戻すことで、妖精モンスター1体のヒットを2上げるわ」


 〈ウインドピクシー〉が手札に戻る。

 強化されるのは当然〈ヒートフェアリー〉だ。


 〈ヒートフェアリー〉ヒット2→5


「〈ウインドピクシー〉を再召喚。そして〈臆病なシルフ〉を召喚」


 再び2体の妖精がアイの場に召喚される。


「〈臆病なシルフ〉の召喚時効果【悪戯】を発動。〈ウインドピクシー〉と〈臆病なシルフ〉を手札に戻すわ」


 妖精が手札に戻ったので、またもや〈ヒートフェアリー〉が強化される。


 〈ヒートフェアリー〉ヒット5→7


「〈ウインドピクシー〉をもう一度召喚。そして2枚目の〈いたずらオバケ!〉を発動するわ。〈ウインドピクシー〉を手札に戻して、〈ヒートフェアリー〉を強化!」


 二つの効果が合わさって、更に強化される〈ヒートフェアリー〉。


 〈ヒートフェアリー〉ヒット7→10


 やべぇな。もうほとんど致死圏内も同然だぞ。


「これだけ上げれば満足かしら?」

「どうだろうな?」


 アイが俺に向かって話しかけてくる。

 恐らく俺の思惑にも気づいている筈だ。


「終わらせてあげる。アタックフェイズ! 〈ヒートフェアリー〉でツルギに攻撃!」


 巨大な松明を持った〈ヒートフェアリー〉が俺に襲い掛かってくる。


「ツルギくん!」

「天川ァ!」


 ソラと速水も声を張り上げるが……問題はない!


「安心しろ二人とも。ただでやられるつもりは毛頭ない!」


 そうだ、俺はこの瞬間を待っていたんだ。


「自分のライフが5以下の状態でダメージを受ける時に、このカードは発動できる! 魔法カード〈メテオディザスター!〉発動だァ!!!」


 俺は魔法カードを仮想モニターに投げ込む。

 これが逆転の一手だ!


 会場の空に空間の裂け目が現れて、大量の隕石が姿を見せる。


「〈メテオディザスター!〉は、俺が受けるダメージを倍にして、全てのプレイヤーに与える魔法カード!」

「「「……えっ、全て!?」」」


 素っ頓狂な声の数々が、会場に響き渡る。

 だがもう止まらない!


「俺が〈ヒートフェアリー〉から受けるダメージは10点! 〈メテオディザスター!〉の効果によって倍の20点のダメージを全員に与える」

「「「20点とかふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

「おい天川! 俺達まで巻き込んでるぞ!」

「大丈夫だろ。これ軽減できるダメージだもん」

「そういう問題じゃないですー!」


 速水とソラからクレームが来るが、もう俺にも止められませーん。


「さぁみんな。防御カードの準備はいいか?」


 満開笑顔で俺がそう言うと、ファイターは皆絶望の表情を浮かべた。


 そして無慈悲に降り注ぐ隕石の雨。

 みんなで乗り越えよー!


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 モブ①~⑤:ライフ10→0


「「「無茶苦茶だぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 モブ⑥~⑩:ライフ10→0


「「「あべしッ!!!」」」


 モブ⑪~⑰:ライフ10→0


「きゃぁぁぁぁぁぁ! 魔法カード〈ロイヤルウォール〉! ダメージを0に!」

「うわぁぁぁぁぁぁ! 魔法カード〈お前が壁になれ!〉! ダメージを天川ツルギに移し替える!」


 おっ、2人防御に成功してる奴がいるな。

 いいねぇ、強そうだねぇ。

 あと俺にダメージを移し替えても無駄だぞ。

 

 そういえばチーム:Fairysの皆様は?


「うぎゃぁぁぁ!? 魔法カード〈ピクシーガード〉! 〈ウインドピクシー〉を手札に戻してダメージを0に! ユメユメは!?」

「ごめんなさいミオちゃん。私これは、無理ぃ!」

「ユメユメー!」


 佐倉夢子:ライフ12→0


 あっ一人直撃したな。ご愁傷様です。


「アイっち!」

「わかってるわ。魔法カード〈ゼロバリア!〉発動! カード効果によるダメージを0にするわ」


 アイの周りに半透明なバリアが展開される。

 これでアイはダメージを受けない。


 さて、チーム:ゼラニウムはというと。


「魔法カード〈シーエレメント〉を2枚発動! ダメージを12点軽減する! ぐわッ!」


 速水:9→1


「魔法カード〈スーパーポーション〉と〈フェイカーポーション〉を発動! 〈ヒーラーエンジェル〉を破壊して、ライフを合計10点回復します! きゃぁぁぁ!」


 ソラ:ライフ11→21→1


 まさに大惨事。ひどい絵面だ。

 まぁ俺が主犯なんだけど。

 

 おっと、俺の方にも隕石が降り注いできた。


「天川!」

「ツルギくん!」


 速水とソラが声を上げる中、俺は隕石の雨に飲み込まれた。

 凄まじい砂煙が視界を潰してくる。

 まぁ立体映像だから、匂いとか何も無いけどね。

 数秒待っていたら、砂煙も晴れてきた。


 ツルギ:ライフ5→5


「えっ、ライフ変動、なし?」


 ソラが気の抜けた声でそう言ってくる。

 じゃあ種明かしをしよう。


「実は2枚目を持ってたんだ〈ルビー・バリア!〉」


 要するにこれでダメージを0にしたってわけだ。

 俺がドヤ顔をしていると、速水とソラがもの凄い抗議の目線を送ってきた。

 ごめんって。


『4チームの脱落が確認されました。これにてファイトは終了。予選Aグループの通過チームが確定しました』


 ファイト終了ブザーと共に、アナウンスが聞こえる。

 どうやら綺麗に4チーム倒せたらしい。

 立体映像も消えていく。


「無事予選通過か」


 俺は無意識にアイの方を見る。だけどアイは俺に視線を合わせようとはしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る