我がクラスの聖女様
「みなさん、おはようございます」
俺達がそんなことを話していると、不意に教室のドアが開かれ一人の少女が入ってきた。
「ステラちゃんおはよう!」
「えぇ、おはようございます」
その少女は微笑みながらクラスの女子に挨拶を返すと、綺麗な金髪をなびかせながら己の席に座る。
すると、あっという間に彼女に席には複数の人だかりができてしまった。
「おはよう柊さん!」
「ステラちゃん、シャンプー変えた?」
「流石は聖女様……今日もかわいいよぉ……」
その人だかりは男女問わず。
我先に話かけんとする人たちで溢れかえっている。
………最後に喋ったやつ、気持ち悪いが嫌われないか?
「ははっ、相変わらずすごい人気だね『聖女様』は」
「ほんとにねぇ~。あの子が朝登校してくると、いつもあんな感じになっちゃうわよね」
二人はその人だかりの光景を見て言葉が漏れる。
……確かに、あの光景はいつ見てもすごいよなぁ。
「ふふっ、みなさんありがとうございます」
人だかりの中心で、小さくほほ笑む金髪の美少女。
彼女の名前は
お母さんが
腰まであるサラリとした金髪にブルーの瞳。
イギリス人の血を濃く継いだと思わせる容姿、小柄な体系と、その愛くるしい顔は幼さを感じさせ、そのお淑やかさと誰にでも優しい性格でたちまちクラスだけでなく学校中の人気を集めてしまった。
そして、ついたあだ名が『聖女様』。
聖女様に話しかけられた人は男女問わず、その包容力と暖かさにたちまち虜になってしまうという。
入学して彼女に告白した連中は男女合わせて五十人は超えたらしい。
……おい、女まで告白してるじゃねぇか。
脳内でツッコミさせるんじゃないよ。
「確かに、何度見てもあいつはすごいよな」
俺もその光景を見て、言葉が漏れてしまう。
「あら? 初恋が忘れられないとか言っておいて、あんたもあの子のこと狙っているの?」
「まさか、話したことすらねぇよ」
俺は藤堂の言葉に肩をすくめる。
狙う? 馬鹿を言え。
入学して同じクラスになってから一度も話したことがない。
人だかりに入っていけないというのもあるのだが、彼女は高嶺の花過ぎて思わず委縮してしまうのだ。
それに—————
「あいつはどこか気に食わないんだよなぁ」
「あら? 奇遇ね。私もそう思っているわ」
「お? お前もそう思うか?」
「えぇ」
まさか、藤堂も同じ気持ちだったとは。
俺だけが感じた違和感だと思っていたのに、共感できるやつがいるとは思わなかったな。
「あの子、私よりも可愛くて気に食わないのよ」
「嫉妬じゃねぇか」
何が俺と同じだ。
全然違うじゃねぇか。
「大丈夫だよ。深雪は一番かわいい。僕はそう思っているよ」
「……颯太」
こらこら、そこイチャつくんじゃありません。
見つめ合って手を握りあっている光景を間近で見せられる俺の気持ちも考えてくれないか?
糖分過多で死んじゃうよ?
「ねぇ、今日帰りにカラオケ行かない?」
「いいね! ステラちゃんも行こうよ!」
「申し訳ございません、今日は放課後予定がありまして……」
俺が砂糖大量投下されている間にも、聖女様の周りは会話で盛り上がっていた。
……二人と居るより、あっちに混ざったほうが良かったのかもしれねぇな。
♦♦♦
放課後。
授業も終わり、みんなが帰った後、俺は床に散らばった塩を撤去していた。
というのも、朝大量に撒いた塩を先生が見て────
『おい、如月。お前教室に塩撒くとはいい度胸じゃないか。放課後にこの塩の掃除と反省文を書いておくように』
と言われてしまったからだ。
俺だけじゃないよね? みんな一斉に撒いていましたよ?
という俺の抗議も華麗にスルーされてしまい、こうして一人箒を片手に塩を片付けていた。
撒かせた原因である颯太と藤堂は────
『ごめん、手伝ってあげたいんだけど、今日はデートする約束なんだ』
と言って帰ってしまった。
ほんと、リア充なんて滅びればいいのに。
そんなことを思いながら、俺は手を進めていく。
ちりとりに塩を集めると、俺はゴミ箱に捨てに行った。
「お、もういっぱいじゃねぇか」
捨てようと思ったのだが、ふたを開けると、ゴミ袋の中はいっぱい。
別に塩ぐらい普通に入るのだが————
「……捨てに行くか」
このまま知らんぷりするのも少し気が引ける。
だから俺はゴミ箱から袋を取り出して閉じ口を縛ると、袋を持って教室を出る。
ゴミ捨て場は確か校舎裏にあったはずだ。
さっさと捨てに行って帰るために、俺は校舎裏に向かった。
♦♦♦
「ねぇねぇ、これから俺らと遊ばね?」
「いいじゃん、きっと楽しいからさ~」
「は、離してくださいっ!」
夕日が沈みかけている中、重たいゴミ袋を持って校舎裏に着いた俺の耳に、なにやら人の声が聞こえてきた。
「……まだ、誰か残ってんのか?」
校舎には誰も残っておらず、いるのは部活をしている人達だけのはず。
まだ、誰かが残っているとは思わなかったな。
俺は少しだけその声が気になって、声の元へと向かうことにした。
ゴミ置き場とは反対側の物陰から、その声は聞こえてくる。
俺は声が聞こえる元に着くと、ゆっくり物陰越しにその声を覗いてみることにした。
「どうしてダメなの~? こんなに誘ってるのに?」
「もしかして、俺らと話すのが嫌だから? だったら傷ついちゃうね~」
すると、そこには二人の男子生徒と一人の少女がいた。
少女は酷く怯えていて、男子生徒に腕をつかまれて逃げれないでいる様子だった。
「……なんて胸糞悪いもん見せるんだろうな」
俺は胸の中が気持ち悪くなるのを感じる。
おそらく、あの男子生徒は先輩で、強引に少女を遊びに誘おうとしているのだろう。
今時、こんな事をするチンピラがいることに驚きもしたが、それより怯えている少女が見覚えがあることに気になってしまった。
さらりとした金髪に聞いたことのある声、小柄な体を震えさせている少女————
「……柊じゃねぇか」
今、チンピラ達にからまれている少女が、なんと我がクラスの聖女様だったのだ。
どうして、ここにいるのか? なんでチンピラにからまれているのか?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
けど、そんなことよりも彼女の目に涙が浮かんでいるのを見ると、俺は動かないといけないと思ってしまった。
今まで話したこともないし、関わったこともない。
ここで見て見ぬふりして立ち去ったほうが面倒くさくないのかもしれない。
けど————
「これはこれは我が聖女様。どうやらお困りのようで」
俺は物陰から出てきて、チンピラ達に自分を主張するように声をかけた。
やっぱり、困っているのなら見過ごせないよな。
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