お前らには心配かけた……でもさ?

「あぁ……この扱いの差に涙が出てくる……」


「ふふっ、私ちょっと悪い子になった気分です♪」


 放課後。

 俺は肩をがっくり落とし、柊は何故かウキウキしながら教室に戻った。


 というのも、5時限目をサボった俺達は屋上から教室に直行。

 そのまましれっと授業に戻ったのだが、案の定先生に生徒指導室に連れていかれた。

 別にそれ自体は予想していたので、問題は無いのだが……。


 ……ここからですよ。


 柊は何故か心配され、俺は生徒指導の先生にこっ酷く怒られた。

「扱いが違いすぎやしませんかね?」と、言ってやったのだが「日頃の行いの差に決まってるだろ?馬鹿なのか?あ、馬鹿だからサボるんだよな」って言われ、しまいには「柊さん、こいつに無理矢理サボらされたんじゃないのか?」と言われる始末。


 おかしいよね?サボろうって言い出したのは柊なのに、俺が悪者扱いですよ?

 本当に、生徒の話ぐらい聞いて欲しいものだ。

 だから、日本の教育は問題視されるんだよ!と、言ってやりたい。


 そして、本日は家でお勉強をしなくてはいけなくなった。

 科目は『道徳』。

 つまり、反省文を書いてこいということだ。


「あ、おかえり2人とも」


 教室に入ると、藤堂と席で話していた颯太に声をかけられる。


「おう、ただいま」


「ただいま戻りました」


 既にクラスメイトは全員帰っており、教室には颯太と藤堂しかいなかった。


「あんた、もう大丈夫なの?」


 そして、藤堂は心配そうにこちらを見る。


「あぁ…もう大丈夫だ。心配かけたな」


 本当に、彼女には心配をかけた。

 今にして思えば、彼女なりに俺が傷つかないように配慮してくれていたのだろう。

 その事に、俺は感謝している。


「な、ならいいのよ……」


「今まで、お前には気を使ってもらった。そして、そんな気遣いを無視して勝手に傷ついた。……でも、もうお前や颯太が心配するような事はないよ」


 藤堂は感謝されて恥ずかしいのか、顔を赤くしてそっぽを向く。


「だから……だからさーーーーー」


 俺は、顔を逸らしている藤堂をしっかり見据える。

 この気持ちを、彼女に伝えるために。




「その、手に持っている鈍器とスタンガンをしまってくれないか?」


 この気持ち、本当に伝わって欲しい。

 そのスタンガンと鈍器は、一体何に使うつもりなのか?何故、俺の方に矛先が向いているのか?

 怖いから、本当にしまってほしい。


「……本当に大丈夫なの?」


「大丈夫だ。柊のおかげで、完璧に整理できた訳じゃないが、落ち着いたよ」


「そう……」


 俺がそう言うと、藤堂はしっかりと俺の顔を見据えた。


「私はね、あんたには感謝してるの。それこそ、恩人と言ってもいいくらいに」


「ありがとな……そんな風に思っていてくれて」


 きっと、あの時の事を言っているのだろう。

 昔、2人が付き合い始めの時に1度大きな喧嘩があったのだ。

 その時、俺が間に入って解決したのだが、藤堂は何故か俺に恩を感じているらしい。


 ……でも、感謝されるようなことは無いのだ。

 2人の友達なら、当然のことだから。


「だから……私はあんたが傷つく姿を見たくないの」


「……そうか」


「それこそ、記憶を失くしてまで忘れさせようとするぐらい……っ!」


「それは迷惑だ」


 この子は本当にどうして暴力的行為に出ようとするのか?

 心配してくれるのはありがたいが、それは俺に被害が及ばない範囲でして欲しい。


「大丈夫よ、ちゃんと気絶させてから殴るから」


「すまん、その行為に何の意味があるのかさっぱり分からん」


 記憶を失くすなら、1発で強い衝撃を与えるものではないだろうか?

 気絶させた後に殴っても、ただ人体に影響が出るだけだと思う。


「まぁ、真中が落ち着いたならいいじゃないか。これで、真中も今までみたいに引きずることもなくなったんだし」


「うん……分かったわ。殴るのは明日にする」


 ……殴る前提が変わらないのは、どうしてだろう?


「とにかく、お前らには迷惑かけたな」


「気にしないで。僕は何もしてないから」


「私も別にいいわよーーーーーそれにしても、ステラ?」


「は、はい?」


 藤堂は柊に近づくと、そのまま教室の端まで連れていく。


「……ありがとうね、あいつを支えてくれて」


「……いえ、私がしたかったことですから」


「……それにしても、ステラも案外グイグイいくタイプなのね?これで、あいつの好感度は握ったも同然よ」


「……そ、そうでしょうか?で、でも……まだ少し神無月さんの事が気になっているみたいですし……」


「……そんなの、もう薄っぺらいものよ!後は、ステラがガンガン攻めればあいつは落とせるわ!」


「……が、頑張ります」


 何を話しているか分からないが、彼女達はヒソヒソと話していた。

 もしかして、また悪口だろうか?

 まぁ、今回は俺が情けない姿見せたから別に文句は言えないんだけどさ。


「悪口を言うなら堂々と言って欲しいよな」


「……よくこの状況でそんな事が言えるよね」


 どうしてそんなため息つくの?

 俺、呆れられるようなことしたか?


「ねぇ、今日は久しぶり一緒に帰らない?」


「ん?……颯太から言い出すなんて珍しいじゃないか。いつもは藤堂優先なのに」


「今日ぐらいはね……真中が初恋と向き合えたんだからさ」


 そんな大層なことじゃないんだけどなぁ……。


 でも、そう考えているのは俺だけかもしれないな。


 こいつらは、俺が初恋に心が折れた3年の時から心配してくれていたんだ。


「そうだな……一緒に帰るか」


「うん」


 本当に、こいつらと一緒に入れてよかった。


 俺は、隅でヒソヒソと話している彼女達を見て、しみじみと思った。

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