勉強できるんですよ?俺

「そういえば、そろそろ定期テストだよね」


 食べながらの雑談の最中、不意に颯太がそんなことを言い出した。


「……いつだっけ?」


 嫌なことはすぐに忘れてしまう。

 いかんな〜。おじさん、テストなんて聞いたことないぞ〜?いつだったっけなー?そもそもテストなんてあったっけなー?


 よし、思い出せないのなら、きっとテストなんてないのだろう。

 ここはテストなんて単語を再び記憶の彼方へとしまってーーーーー


「来週の終わりですよ、如月さん」


 ……どうやら、記憶の彼方へとしまわせてくれなかったようだ。

 いやーん、そんなこと言ったら、勉強しなきゃいけなくなったじゃんかー。

 ひぃちゃんのばかーん!


「確か、夏休み前日だったよね〜!」


「ほんと、夏休み前にテストをさせる教師の気が知れないわ」


 全くである。

 生徒の「夏休みだひゃっほい!」って言う気持ちを踏み潰すのがお好きなのかね、この学校の教師は?

 せっかく、この学校は7月上旬から夏休みが始まるという素晴らしい学校なのに。


「……はぁ」


 俺は気が重くなり、深いため息をつく。


「ダメですよ、如月さん。勉強はしっかりしないといけません」


「……うぃ」


 柊は可愛らしく人差し指を突き立てて、軽く説教をする。

 分かってるよ……勉強、大事だもんね。


「じゃあ、今回も如月の家でいいわよね?」


「そうだね、僕と深雪の部屋じゃ狭いから」


「おいおい、俺ん家も狭いだろうが」


 何せ1Kのお部屋だぞ?一人暮らし用のお部屋だぞ?

 ……まぁ、ギリギリ5人くらいなら入れると思うが。


「何するの?」


 そんな俺達の会話に疑問に思った神無月が尋ねてくる。

 その首を傾げる仕草、可愛いんだけど?


「あぁ、いつも俺達はテスト前に勉強会をするんだよ。誰かの家に集まってな」


「といっても、如月の家の方が多いけど」


「ほぇ〜」


 中学時代からずっと。俺達はテストがある度に勉強会を開いていた。

 時には支え合い、時には競い合い、それはそれは熾烈な争いをーーーーーしてません。普通に教え合っているだけです。


「でも、勉強会っていっても、僕達はほとんど監視し合っているだけだよね」


「監視……ですか?」


「私達って、基本教え合うことなんてないのよ。大抵、自分で問題解けるから」


 藤堂はそんな事を言いながら黙々とご飯を食べる。

 ……あなた、食べるの早くない?


「それは、如月さんもですか?」


「如月くんも教えて貰わないの?」


「颯太、颯太。なんか二人が俺だけ心配するんですけど?馬鹿にされている気しかしないんだけど?」


「あはは……」


 見て、この2人の目。からかう様子も一切なくて、純粋に疑問に思ってますよって目をしてるんだけど?

 つまり、俺って馬鹿って思われてるってことだよね?

 泣いちゃうよ?昼間からさめざめと泣いちゃうよ?


「2人とも勘違いしてるかもだけど、如月は頭いいわよ」


「そうだよね。確か入試の試験は1番じゃなかったかな?」


「えッ!?」


「そうなんですか!?」


 そう言って、2人は目をこれでもかと言わんばかりに見開く。

 心外である。とても心外である。かなり心外である。


「で、でも新入生代表って桜木くんだったよね!?」


「うん。だけど、実際は真中が1番だよ。それで、深雪が2位。それで、新入生代表の挨拶が嫌だからって言って、回ってきたのが僕なんだ」


「新入生代表の挨拶くらいやりなさいよ」


「お前が言うな」


 自分の事を棚に上げることが好きなお嬢さんだ事。


 それは別として、めんどくさくない?新入生代表の挨拶って?

 みんなの前に出て挨拶するんだよ?しかも、挨拶の内容も考えるんだよ?

 しかも恥ずかしいじゃん。人見知りなんだよ、僕。緊張しちゃってカミカミになっちゃうからさ。


「す、すごいですね……」


「みんな、結構頭良かったんだね……」


 神無月と柊がそれぞれ少し引き気味で驚いている。

 その頬の端は、若干ヒクついていた。


「でも……やっぱり、如月くんが成績良かったのが1番驚きだよ……。どうしてそんなに頭いいの?」


「ん?……そりゃ、神無月に好かれる為に頑張ったからな。その名残りみたいなもんだ」


 あの時は本当に死にものぐるいで頑張ったなぁ…。

 元々成績が良かった颯太や藤堂にお願いしようと思ったのだが、それではかっこ悪いって思って、必死に参考書と睨めっこしたっけ?


 そして、それでも分からなかったものは教師に聞きに行ったんだけど「……悪いことは言わん。今すぐ精神科に行ってこい」って言われたんだよなー。

 普通、ちょっと頑張ろうと思った生徒に対してそんなこと言う?しかも、保健室じゃなくて精神科だよ?俺が勉強したらそんなに可笑しいですか?って思ったわ。


「そ、そうなんだ……」


 すると、神無月は急に顔を朱色に染め上げ、指をモジモジさせていた。

 ……ん?どうしたんだ?


 ははーん?

 さてはおトイレに行きたいんだな?

 いいよ!気にしないで!話の途中でも行ってきていいから!お兄さん気にしないから!


「むすぅーーー!」


 そんな声が聞こえたかと思うと、隣では何故か柊が思いっきりほっぺを膨らませて、不機嫌そうに俺の方を見ていた。


「ど、どうしたんだ柊?」


「むすぅーーー!」


 ……一体、どうしたんだと言うのか?

 俺、何かしたっけ?


 ……しかしまぁ、こんなに可愛らしく頬を膨らませちゃって。

 つついて欲しいのか?つついて欲しいんだな?うぅん?


 というわけで、早速ほっぺをーーーーー


「今日はダメです!つんつん許しません!」


「えぇー……」


 俺が指でつつこうとすると、柊に思いっ切り拒否られる。

 本当にどうしたというのか?突っついて欲しかったんじゃないの?


 ……神無月もそうだが、女心は分からないなぁ。



 ♦♦♦



「……ねぇ、私達って何見せられてるの?」


「……さぁ?でも、仲良さげで良かったじゃないか」


「……でも、この光景は流石におかしいと思うんだけど?」



 神無月が顔を赤くして俯き、ステラがほっぺを膨らませて不機嫌アピール。そして如月が訳分からないって顔で困ってる。

 ……この光景って、かなり以上だと思うんだけど?


 見なさいよ、あの周りの顔。

 驚き通り越して、白目になってるわ。


 ーーーーーまったく、如月はダメな野郎ね。

 女心も満足に分かってない。

 ……ステラが心配になってきたわ。


「ねぇ、深雪?今回の勉強会は2人も呼んでみようか?」


「……そうね」


 今回は2人を呼んでみるのも悪くない。

 大勢の方が、盛り上がりそうだし、勉強も捗るかもしれないからね。


 ……まぁ、絶対にこの3人が変なことになりそうだけど。



 私はこの先のことを考え、少し気が重くなりながらも、再び弁当を食べ始めた。


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