初恋相手との遭遇

 そして授業も終わり放課後。

 今日一日は散々なものだった。


 まさか、聖女様の影響がここまですごいなんて思わなかった。


 授業中、小休憩問わず、ありとあらゆる視線が俺に集中していた。

 そして、女子達からは「え?如月くんって聖女様と付き合ってるの?」と聞かれるし、男子達からは「オマエ、アトデコロス……」という殺人予告をいただいたりもした。


 ……ほんと、注目を浴びるって精神的にも辛い。

 柊って、よく今までこんな注目浴びても平気だったよなと感心してしまう。


 けど、それもこの放課後で終わり。


 はやく犯人を見つけて、噂を撤回してもらわないといけない。

 だから、俺達は新聞部へと————


「Damn it!」


『『『待てやゴラァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』


 向かうことができませんでした……。


『何で逃げるんだよ如月ぃ!』


 捕まったら殺されるからです。


『聖女様とどんな関係なんだよ!』


 何もありません。至って普通の関係です。


『聖女様とキスしたりハグしたりぺろぺろしやがって……許さんッ!』


 そんなことしていません。

 妄想はかどっていませんかあなた?


「とりあえず……あいつらが何とかするまで逃げなくては…ッ!」


 俺は必死に校舎を駆けまわる。

 自慢の脚力を最大限に発揮し、己が命を守るために前に進む。


 ……本来は、みんなと一緒に新聞部に殴り込む予定だったんです。


 けど、こいつらが行かせてくれなかったのですよ。

 聞く?放課後のチャイムが鳴った瞬間、こいつらって鈍器を構えて俺の席を囲み始めたんだよ?


 これじゃあ悠長に新聞部になんて行けない。

 助けてもらおうと颯太や藤堂にHELPの無垢な瞳を向けたのだが————


『あんたでなんとかしなさいよ』


『僕たちで新聞部に行ってくるから』


 そんな声が聞こえてくるような瞳を俺に向けてきた。


 何と使えない親友たちなのか。

 友達のピンチに何もしてくれないだなんて……。

 柊は俺と男達をみてオロオロしていたし————結局、俺は逃げるしかなかったんだ。


 タイムリミットは放課後が終わるまで。

 藤堂がいるので、新聞部のほうはなんとかしてくれると思うのだが……その間に俺の命があるかどうか……。


 俺は廊下の曲がり角を駆使して必死に連中たちから逃げる。

 今のところは、連中たちの頭がチンパンジー並ということと、鈍器を持っているので、全力で走れないということもあり、何とかここまで逃げ切れている。

 けど、いつまで俺の体力が持つかどうか……。


『『『逃げるなァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』


 勿論逃げるに決まってますよ!

 捕まったら殺さるじゃん!俺まだやり残したこといっぱいあるんだけど!?


 俺は角を曲がると、近くの教室の中に入った。

 そして、物陰で連中が通り過ぎるまで息をひそめる。


『『『待てやゴラァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』


 ……俺が隠れてから、すぐに連中たちの足音が聞こえた。

 しかし、俺の存在に気付くことなく、そのまま教室の前を通り過ぎる。


「……ふぅ、何とか撒けたか」


 俺は一時の安全に安心すると、物陰からゆっくり出る。


 しばらくはここにいてもいいかもしれない。

 チンパンジー並の頭しかないあいつらだったら、見つかることもないだろう。


 それに、どうやらここは一年生の教室。

 一年生の教室は全て2階にあるため、最悪バレても窓から飛び降りれば何とかなるだろう。


 俺はそう考えると、壁に寄りかかるように座る。


 ———ほんと、あいつらには早く解決してほしい。

 でないと、本当に疲れるんだよなぁ……。


 一応、解決したら呼びに来てくれるみたいだけど……今のところ、その様子はない。


「ほんと、この学校って変な奴ばっかだよなぁ……」


 思わず愚痴が零れる。


 もしかしたら、俺もそのうちの一人に入ってるかもしれないが、今は確実にあいつらの方が格段に上だと思えるな。


「それ、如月くんが言っちゃうかな~?」


 すると、教室の隅からそんな声が聞こえた。

 懐かしい声。

 中学時代に、その声を追いかけていった気がする。


 俺は恐る恐る教室の隅を見やる。

 すると、そこにいたのは————


「やっほー!久しぶりだね如月くん!」


 明るく、可愛らしく手を振る、我が初恋相手の姿だった。



 ♦♦♦



「ど、どうしてここに……?」


「おかしなこと聞くね~。ここ、私の教室だよ?」


「そ、そうなのか……」


 俺は現状に驚き、言葉がうまく出なかった。


 彼女が同じ学校に通っていたことや、ここが彼女のクラスであること、何故か放課後に一人でここにいることに。

 俺は頭が一瞬だけ真っ白になる。


「てっきり、違う学校に通っているものだと……」


「ふふっ、そうだよね~。如月くんとは入学して今日、初めて会ったもんね」


 口に手を当て、可愛らしくほほ笑む初恋相手———神無月沙耶香。

 透き通った肌に黒い髪と瞳。そして、可愛らしいその仕草。


 それを見る度に、俺の胸が最高潮に高まっていくのを感じる。


 彼女が同じ学校に通っていることに。

 こうして話せていることに。

 俺は嬉しくて、顔が熱くなっている。


 ……あぁ、やっぱり。



 俺は未だに彼女のことが好きなんだ。



 こんな状況で、俺はそのことを再認識するのであった。

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