彼女の行動が分からない

「それで、どうして如月くんはここにいるのかな?」


 夕日が差し込んでいる教室。

 少しだけ明るくなってきた場所で、俺と神無月は顔を合わせている。


「あ、あぁ……ちょっとした鬼ごっこしてたから…かな……?」


 ただし,前半に『命がけ』という枕詞がついてくるけど。


「ふぅん、相変わらず如月くんは面白いね~、高校生にもなって鬼ごっこだなんて~」


「ははは……」


 俺は乾いた笑いしかできなかった。


 ほんと、子供がやるような可愛らしい鬼ごっこだったらどれだけよかったことか。

 大人の鬼ごっこはこんなにも辛いのだぞ?

 なにせ、鬼と逃げる割合が逆だし、捕まったら三途の川に挨拶しに行かなくてはならないからな。


「そ、それで、神無月はどうして一人で教室に残っていたんだ?」


 俺は現実逃避するかのように話題を逸らす。


「うん!今日私が日直だから、日誌をつけてるの!」


「そっか……」


 それにしては神無月の周りに日誌が見当たらないのだが……気の所為か。

 もしかしたら、先生に提出した後かもしれないしな。


「そういえば、如月くんって今有名人だね~」


「有名人?」


 はてさて、何の事だろうか?

 入学して2ヶ月目で、俺はどうして有名になっているのかね?


「掲示板見たよ~。あの聖女様とお付き合いしてるんだね!」


「Damm it!」


 くそぅ!すでに学校中にその噂が広まっていたとは!?

 しかも、神無月にまで知られてしまっていたなんて……!


 俺は思わず床を叩きつけてしまう。


「ち、違うんだ神無月!俺は柊と付き合ってなんかいない!」


「そうなの?」


「あぁ、俺が好きなのは今でもお———」


 必死に否定していしようとして、口にしてしまいそうだった言葉を、俺は寸前のところで止める。

 ……危ない。必死のあまり、変なことを口走ろうとしていた。


 『今でもお前が好き』なんて、言っちゃダメなのに……。


「お?」


「な、何でもない、気にするな……」


「ふぅ~ん……」


 彼女は俺の言葉を聞いて何を思ったのか?

 神無月は俺の方を見て、何か考えるような仕草をした。


「そっか……今でも私の事好きなんだぁ……ふふっ、やっぱり男の子から好意を寄せられるなんて……気持ちいいなぁ♪」


「ん?何か言ったか?」


「ううん、何でもないよ!」


「そうか……」


 何か小声で言っていたような気がしたのだが……気の所為なのだろうか?


「ねぇ、如月くん……」


 そして、何故か神無月は自分の席から立ち上がり、俺の方へと近づいてくる。


「な、なんだ?」


「如月くんって、今彼女いるの?」


「いないが……」


 どうしてそんなことを聞いてくるのだろうか?


 単純に、興味から来たのか?それとも、俺のことを少しだけ狙っていて、聞いているのか?

 いや……これは自惚れだな。


 もし仮に、後者だとしても神無月には関係ない……。


 ———だって、彼女には彼氏がいるのだから。


「そっか~♪」


 そして、少し嬉しそうに口にして俺の横に座る。


 待て待て待て!何で俺の横に座ったんだ!?

 近い近い近い!もう、何で肩が触れそうなほど近くに寄って来るの!?

 そんなことされたら、顔やら匂いやら意識してしまうでしょうが!?


 俺の心臓は、彼女が近づいてきたと同時に、バクバクと音を奏でる。

 そして、俺はあまりの現状にパニックになっていた。


「ちょ、ちょっと離れてくれない!?」


「え、いいじゃ~ん!」


「よくない!」


 ぶーっと、頬を膨らませた神無月は俺から少し離れてくれた。


 ……危ない。

 このまま近くに座られたら、俺の心臓が持ちそうにない。


 他の女の子ならこんなことにならないのに、神無月だとこうなってしまう。

 やっぱり、恋の影響力ってすごいな……。

 そして、そんな恋を捨てれない俺は————惨めだ。


 彼女を見て胸が高鳴ってしまう度に、そう思えてくる。


「ん?」


 すると、突然何かに気付いたのか、神無月は教室の入り口を振り向いた。


「誰かいたのか?」


「ううん、誰もいなかったよ!」


 そっか……てっきり、追いかけてきた男子だと思ったのだが————杞憂でよかった。


「えいっ!」


 俺は、誰もいないことにに安心していると不意に、神無月が俺の腕に抱き着いてきた。


「お、おまっ!?何を……!?」


「いいじゃん♪久しぶりのスキンシップだよ!」


「ひ、久しぶりって……」


 俺は、彼女の行動に頭をパニックにさせていた。


 え?なんで?何してるの?

 俺の、腕に、神無月が、抱き着いてきた?


 柔らかい感触と、彼女のいい匂いが、俺の頭の中を支配する。

 時折、神無月は教室の入り口をチラチラとみていたが、俺には気にする余裕もなかった。



 ♦♦♦



(※ステラ視点)


(え……?こ、これってどういう状況ですか!?)


 私は、教室の入り口のドアの物陰に隠れながら驚いていた。


 私と藤堂さん達は新聞部に向かい、写真の削除と否定の新聞を出させるようにお願いしてきました。

 そこで、藤堂さんの手腕?(スタンガンを使って脅したこと)により、無事お願いを叶えてくれるよう約束をもらい、私は終わりましたと如月さんに報告するべく彼を探していました。


 そして、如月さんの声が聞こえてきたと思ってこの教室にやって来たのですが————


(この状況は一体何なのでしょうか!?)


 如月さんが楽しそうに、一人の女子生徒と話しています。


 声こそ、戸惑っているように聞こえましたが、どこか嬉しさが乗っているように感じました。


(あの人は……どなたなのでしょうか?)


 私が見たこともない人。

 しかも、とても美しい人です。


 私が、恐る恐るその光景を覗いていると、不意に女の人がこちらを振り向きました。


 思わず、私は身を隠してしまいます。


(気づかれてしまったのでしょうか……?)


 そして、こちらから如月さんの方に視線を戻すと————


(……え?)


 如月さんの腕に抱き着いたのです。


 そのことに、私は驚きが隠し切れませんでした。


 如月さんも同じ気持ちなのか、目を白黒させています。

 どうして、女の人はそのような行動をしたのか、私には分かりません。


 ————けど、


「胸が……苦しいです…」


 2人を見ていると、何故か私の胸は苦しくなってきました。

 自然と、涙が零れそうになるほど。




 どうして……こんなにも胸が苦しくなるのでしょうか?

 私は……ただ、二人の様子を見ていただけだというのに。


「苦しいです…本当に……苦しいです……」



 私は覗くのを止め、一人教室の前で膝を抱えました。

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