実家到着!

「そういえば、如月くんって中学の時は一人暮らしじゃなかったよね?」


 電車に揺られること30分。

 最寄り駅に着いた俺たちは薄い街灯に照らされた夜道を歩いていた。


「そうだな……それがどうしたんだ?」


「ううん、実家が広島にあるのに、なんで都内の学校に通ってたのかなーって」


「あぁ……ただ単に、親がその時3年間仕事の関係で都内に住んでいたからだよ。それで、そこから通っていたんだけど……また実家に戻るって話で、俺は嫌だったから残ったんだ」


 今更実家戻るのもめんどくさいし、せっかくできた友達と離れるのが嫌だったからな。

 まぁ、といっても高校に上がった瞬間ほとんどいなくなったけど。

 それにーーーー


「あん時は、神無月と離れるのが嫌だったからなぁ……」


 俺は昔を思い出して小さく呟く。

 初恋を諦めていたとは言え、もう会えないまでの距離は流石に嫌だったんだよな。

 ……懐かしい。


「〜〜〜ッ!?」


 会話が途切れてしまい、気になって横を見ると、神無月が顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。

 ……どうしたんだ?いきなり顔を赤くして?


「むすぅーーー!」


 そんな不思議な擬音が横から聞こえたかと思うと、今度は柊が頬を思いっきり膨らませてこちらを見ていた。

 ……だから、どったの?


「い、いきなり言ってくるのはずるいと思う……」


「如月さんは……如月さんは……!」


 二人の反応が怖い。

 急にそれぞれ赤くしたり不機嫌になったり、情緒不安定なのだろうか?

 どうする?今から精神科に行こうか?閉まってるかもしれんけど?

 ……って、流石にこれは失礼か。


「二人とも、そんな面白反応してるのはいいけどーーーー」


「「誰の所為だと思っているの(ですか)!?」」


「は、はい……すいません……」


 二人のものすごい剣幕に、思わずたじろいでしまう。

 ほ、本当にどうしたんだってばよ……。

 理由が全くをもって理解が出来なかった。


「と、とにかく……ここが俺の家だから」


 少しだけ気を取り直し、二人に目の前の家を指さす。

 ただのどこにでもあるような一軒家。少し広めだと自負しているが、本当のところはよく分からない。


 ……まぁ、俺の記憶が正しければ、二人は余裕で寝泊まりできると思う。


「ほぇー……ここがお義母様が住んでいる家……」


「いよいよ、お義母様にご挨拶できるのですね……」


 それぞれ、俺の家を見て口々に言葉を漏らす。

 ただ一つ気になったのは、どうして二人とも『お義母様』って呼んでいるのかということ。


「……二人とも、家に入る前に言っておくことがある」


「な、なんでしょうか?」


「ど、どうしたの?」


 俺の真剣な眼差しに、たじろいでしまう二人。

 ……でも、こればかりは仕方ないんだ。ちゃんと言っておかないと、巻き込まれてしまう可能性があるから。


「……俺が「いい」と言うまで、そこの角で待っていてくれ」


 そして俺はその角である場所を指さす。


「いいですが……どうしてですか?」


「それはなーーーーいや、実際に見てもらった方が早いかもしれん」


 俺は説明するのを諦め、二人の背中を押して角へと連れて行く。


「あと……これを」


 そして、俺は懐から1枚の紙を取り出す。


「……これは?」


「俺の遺書だ」


「遺書!?」


「待って!?家に入るだけなのに、遺書がいるの!?」


「もし、俺の身に何かあったら、それを俺の家族に渡して欲しい」


「今からその家族に会うのですよね!?」


「猛獣!?猛獣がいるのその家!?」


 ある意味、猛獣と言ってもいいのかもしれない。

 それほどまでにーーーー危険な存在なんだ。


「……とりあえず、行ってくるな」


「何故か、如月さんの背中から焦燥感が漂って来るのですが……」


「どこか戦地に赴く兵隊さんみたいに見えるよ……」


 俺はゆったりとした足取りで実家の玄関へと向かう。

 心臓の鼓動が速い。怖くて足が震えている。


 それでも、俺は立ち向かわなければいかないんだ……!


「……いざ行かん、戦場ーーーーもとい、我が家へ!」


 そして、俺は震える手を押さえつけ、玄関のインターホンを鳴らす。


『はいは〜い♪』


 インターホン口から明るい女の声が聞こえる。


『……真中だけど』


『……ちょっとそこで待っとけやゴラァ』


 このテンションの変わり様。

 実の息子の声を聞いただけで、どうしてこんなにもイカつくなれるのか?

 実の家族だと言うのに、疑問でしかない。


 ドタドタドタッ!という音が家の中から聞こえてきた。

 ……あぁ、今になって足の震えが激しくなってきやがる。


「玄関が開いたら迷わず横っ飛び……玄関が開いたら迷わず横っ飛び……玄関が開いたら迷わず横っ飛び……」


 俺はこの後の行動を体に言い聞かせ、脳内でシュミレーションする。


 さぁ、いつでもかかってこいやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 ドアが開けば、俺は絶対に回避してみせるっ!


 そして、徐々に音が近づいてきてーーーードゴォン!……ドゴォン?


「やっと帰ってきたなバカ息子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


「ぶべらっ!?」


 破壊音と共に、強烈な飛び膝蹴りが襲ってきて、俺は回避することもままならず、胸に思いっきり食らってしまった。


 俺の体が宙に浮く。

 そして、そのままゴロゴロと転がり、コンクリートで作られた壁に思いっきり激突。


「……げ、玄関を……壊してくるなんて」


 玄関は普通に開けてくるかと思っていたのだが、まさかそのまま壊して突撃してくるとは……。





 ……神様。俺、今日も実の母親攻撃を食らってしまいました。


 朦朧としている意識の中、最後に見えたのはパトラッシュの姿だった。

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