柊さんの布告

 さて、レジャープールで遊び尽くした俺達は日が暮れた時刻に家に帰って来た。

 ご満悦だった彼女達は今ではすっかり疲れており、帰りの電車では爆睡状態。帰って来た彼女達の瞼は少し重たそうだった。


 一方で俺の目は覚醒状態。

 電車の中で、俺を挟むように彼女達は座っていたのだが、途中電車の揺れの所為で夢を見ている彼女達の頭が俺の肩に乗っかった。

 つまるところ枕状態だ。


 そんな状態で寝れると思うか?

 寝れるわけないだろう、目がぱちくり目からビームである。


 美少女からのサンドイッチに男の俺は煩悩が襲いかかってきたさ。

 どうして、今日はこんなにも彼女達にドキドキさせられるんだろうね?


「とりあえず、お前ら風呂に入ってこいよ。色々汗かいただろ?」


 玄関を上がり、朧気な足取りで歩く彼女達に風呂を促す。

 まだ寝る時間でもないし、ここいらで目を覚ましてきてもらいたい。


「分かったぁ……」


「了解でしゅ……」


 すると、瞼を擦りながら彼女達はお風呂場へと向かった。


 なんて可愛らしい声を上げるのだろうか?

 是非ともお持ち帰りしたいほどである。


 俺はそんな彼女達の背中を見送ると、リビングへと向かう。

 カバンを置き、音楽代わりのTVをつけると、キッチン横にかかっているエプロンを身につける。


「さて……今から何作ろうかね〜」


 何と今日は母さんが父さんと一緒に夜勤らしい。

 姉も急遽サークルの活動で1泊2日のお泊まりで、「ごめんねぇ〜!真中くんが帰ってきてるのに、おねぇちゃん傍にいられなくて!帰ったら、一緒にお風呂入ろうねぇ〜!」と涙ながら言ってきた時には是非とも行ってくれと思った。


「まぁ、どうせだったら広島の名物でも食べさせてやろう」


 牡蠣フライと牡蠣鍋でもいいな……どちらも手間はかかるが美味しいから。

 それに、女の子の入浴は長いと相場が決まっているし、手のこった料理でも問題ないだろう。

 ……喜んでくれるといいんだがなぁ。


 せっかく広島に来たんだ。

 是非とも来て良かったって思ってもらいたい。


 そんな事を考えながら今日の夕飯を決め、俺は冷蔵庫から食材を取り出したーーーー



 ♦♦♦



(※沙耶香視点)


 如月くんに促され、私は現在湯船に浸かっていた。

 時間が勿体ないということで、今日は柊さんも一緒。

 代わりばんこで洗うという話になって、私が先に洗い今は柊さんが体を洗っている。


「ふぁぁ……っ」


 思わず口からそんな声が漏れてしまう。

 今日ははしゃいじゃったからかなぁ……?いつもより気持ちよく感じるよ……。


「神無月さん」


 体を洗っていた柊さんが私に声をかける。

 スラッとしたクビレに透き通るほどの白い肌。サラリとした金髪はどこも傷ついておらず、正しく聖女と呼べるほどの美貌……羨ましいなぁ。


 如月くんも、こんな子が好きなのかな?

 で、でも……前は私の事好きって言ってくれたし、そんなに彼の好みから外れていないとは思うんだ!


「神無月さん……?」


「あっ、ん!?ど、どうしたの?」


 少し考え事に耽っていたので、柊さんに声をかけられ慌ててしまった。


「洗い終えたので……そ、その……少し寄って頂いてもいいですか?」


 タオルで体を隠しながら、少しだけ恥ずかしがりながらお願いする。

 その様は女の私でもドキッとしてしまうほど、可愛らしかった。


「う、うん……」


 私は少しだけ声が上ずりながらも、浴槽の端へと体を寄せた。

 如月くん家の浴槽は二人入れるけど、少し詰めないと入りきらない。


 おずおずと言った感じで柊さんが浴槽に浸かる。


「ふぁぁ……っ」


 そして、柊さんからも気持ちよさそうな声が漏れた。

 やっぱり、気持ちいいよねぇ……。


「……」


「……」


 すると、しばらく沈黙が続く。

 お互いが顔を合わせず、少しばかり気まずい空気が流れた。


 そ、そう言えば……柊さんと2人っきりって初めてだよね……。

 今までは3人か4人以上だったから、いざこうして2人っきりになると、何を話していいのか分からなくなってしまう。


 うぅ……何か話さないと……っ!


 で、でもそんなすぐに話題なんて思いつかないし……っ!


「神無月さんは……」


 私が頭を悩ましていると、柊さんが私の顔を見据えて尋ねてくる。


「神無月さんは……やっぱり、如月さんのことが好きなのですか?」


「ふぇ!?」


 柊さんの発言に驚いて肩を震わす。


 な、何でいきなりその話題を出したの!?

 いくら会話がないからってそこから始まるのはちょっと私も困ると言いますか……っ!


「ど、どうしたのいきなり……?」


 私はこの話題の目的を探る為ーーーーとまではいかないが、せめて理由を聞きたくて柊さんに尋ね返す。


「気になってしまったと言いますか、どうなんだろうと疑問に思ってーーーーいえ、違いますね。ここははっきり伝えておきたいと思ったからです」


 柊さんは少しだけ私から視線を逸らすと、何かを決意したのか私に再び向き直る。

 そしてーーーー





「私は、如月さんのことが好きなんです」

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