どんな理由であれ、傷つけていい訳がない

 胸糞悪いものを見せやがる。

 いつだって、クズは所詮クズなことしかしない。


 俺は神無月の姿を見てそう思う。

 制服は所々乱暴にされたのか、はだけたり破れたりしている。

 そして、当の本人は涙目になりながら俺が来たことに驚いているようだった。


「ほら、とりあえずこれ羽織っとけ」


 俺はブレザーを脱ぐと、神無月に渡す。

 流石に、女の子をそんな姿のままいさせるわけにはいかない。


「あ、ありがとう……」


 神無月は戸惑いながらもブレザーを受け取った。


「おい、ヒーロー気取りもいい加減にしてくれよ。佐藤が吹っ飛んじまっただろうが」


 さっき殴り飛ばしたのは佐藤って言うのか……まぁ、関係ないが。


「知るか。それよりお前らこそ誰だよ?うちの高校の生徒じゃねぇだろ?」


 俺は睨みつける男に対して、臆せず睨み返す。

 どいつも見慣れない顔だ。知らないだけかもしれないが、この学校の生徒ではないように見える。


「まぁ、そうだな……確かにお前らの高校じゃねぇけど—————それは、今関係ないだろ?」


「そうだな……お前らをぶっ飛ばすのに、高校なんて関係ないよな」


 誰であろうが関係ない。

 女の子に乱暴する奴は誰であろうが、どこの出身だろうがぶっ飛ばす必要がある。


 俺はゆっくりと拳を構え態勢をとる。

 しかし、目の前の男はふざけた様に構えはとらず、その顔は下卑た笑みを浮かべていた。


「おいおい、そいつを知ってるんなら、俺らを止めるのはおかしいだろ?」


「そうだそうだ!こいつって男の敵なんだぜ?男を散々弄び、悦に浸るようなやつだ!男だったら、分かるだろ?この許せない気持ち!」


 ……あぁ、そういうことか。


「如月くん……もう、いいよ?今日はもう帰って。私は、大丈夫だから……」


 後ろから、力ない声が俺の拳を止めてくる。


「これは、仕方ない事だから……今までやってきたことの報いだから……だから、如月くんは関係ないよ、むしろ————」


 被害者。

 それとも、俺も神無月を恨む側————とでも言いたいのだろうか?


 話は大まか理解できた。

 こいつらは、どうやって知ったか分からないが、神無月の一部分を知った。

 それで、報復か依頼されてこうして神無月に暴行を働こうとしたのだろう。

 そして、それを神無月は報いだと受け入れた。


「……如月くんも、私を恨んでいるんでしょ?あなたの心を弄んでいたから、怒っているんでしょ……?いいよ、何しても……私は、抵抗しないから……」


「ははっ!お前もこの女の被害者だったのか!————だったら、お前も混ざらないか?あいつを殴ったことは許してやるからさぁ!」


 あぁ……こいつらは、勘違いしている。


 俺が知らないから、神無月を助けていたのだと。

 俺が神無月を恨んでいるのだと———そう思っている。


 ふざけんな。


「俺は、別に神無月を恨んでいるわけでもないし、被害者ですらねぇよ。……勘違いすんな、クズが」


 俺は男達の発言を一蹴する。


「あ?」


「確かに、神無月のこの性格を知ったよ。それで、どん底に叩き落されたのも確かだ————それでも恨んでもないし、お前らみたいなクズみたいなことなんてしねぇよ」


 落ち込んださ。しばらく浮遊感を味わったさ。

 でも、俺は神無月を恨んじゃいない。むしろ感謝している。


 この感情を教えてくれて、好きにさせてくれて、お礼を言いたいくらいだ。

 もう、あの頃の気持ちは残っていないけど————それでも、あの気持ちを知れたことにはありがたさしかない。


 それに—————


「どんな理由であれ、女の子を傷つける奴は許せないんだよ。だから、覚悟しやがれ。俺がぶっ飛ばしてやる」


「はんっ!ヒーロー気取りはうざさ極まっているな。……もういいわ、ならやってみせろや」


 そう言って、男達から笑みが消える。

 神無月を押さえていたやつも、俺の背後で拳を構えている。


「き、如月くん……どうして…?」


 後ろから神無月が、心配と戸惑いを混ぜた言葉を俺に投げかける。


「いいから、黙って助けられとけ———すぐ終わらせるから」


 2対1。

 人数的には不利だが————それでも、負ける気はしない。


「ちょっと、何一人で始めてるよの」


 すると、横から声が聞こえる。

 俺が声の元に顔を向けると、そこには仁王立ちでふんぞり返っている少女がいた。


「……お前が来るとは思わなかったよ」


「うるさいわね。あの女を助けるのは業腹だけど、あんたが突っ込んだら来ざるおえないでしょ」


「……そうかい」


 俺は彼女が来たことに嬉しく思い、笑みが零れる。

 やっぱり、こいつはなんだかんだ頼もしいやつだ———そう思ってしまう。


「おいおい、女も混ざっていいのかよ!どんだけ馬鹿なんだよお前は!」


 男は愉快そうに大笑いする。

 負ける気がしない———そう思っているのだろう。


「大丈夫ですか、神無月さん!?」


 そして、またもや横から新しい声が聞こえてくる。

 それに続いて、一人の少年も神無月に駆け寄る。


「真中、こっちは僕達が見ておくから、気兼ねなくやるといいよ」


「……ありがとな」


 そして、颯太と柊は神無月を連れてその場を離れる。


 これで、後ろを気にする必要もない。

 周りには誰もいない。誰が止めることもない。


 だから———


「これ、貸し一つだからね」


「あぁ、助かるよ」


 藤堂がいて、負けるわけがない。

 先ほども負ける気が湧かなかったが、藤堂が加わると余計にもそう思ってしまう。


「さぁ、覚悟はいいか……このクズ野郎ども」


 俺と藤堂は拳を構え、男達に相対する。





「女の子を傷つける奴が最後にどんな目に合うか————教えてやる」

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