現れた人は

(※神無月視点)


「ちょっと、これはどういうことかな?」


 日もすっかり暮れてしまい、辺りはだいぶ暗くなってきている。

 そんな中、私は今細い路地裏に連れてこられた。

 路地裏はジメジメとしており、街灯もない為他の道よりもかなり暗い。


「そんなの、決まってるだろ?」


「そうそう、男がいて女の子がいてーーーーーやることって決まってるよね」


 私を取り囲むように、男の子達は下卑た笑みを浮かべながら逃がさまいとする。


 ……逃げたい。

 でも、男の子3人に対して逃げ切れるのかな?


「なんか、お前は男を誑かして遊んでいたそうじゃねぇか?男の気持ちも知らないでよォ?」


「……なんのことかな?」


 私は壁際まで1歩下がる。

 この人達からできるだけ距離を取りたかったから。


「惚けても無駄だぜ?ネタはあがってるんだからな」


 ……一体誰が?

 私は男の子はおろか、友達にも言っていない。


 ーーーーーまさか、如月くん?


 ……いや、彼ならそんなことは言わない。


「ここなら誰も来ないし、『やる』ならうってつけだろ?」


「別に俺の部屋でも良かったんだけどね〜」


「ははっ!どこでもいいだろ?さっさとやろうぜ?」


「いやっ!」


 そう言って、男の子達は乱暴に私の腕や足を掴む。


「やめてっ!触らないでっ!」


「今更叫んだって誰も来ねぇよ。……大人しくしてな」


 そして、叫ばれないように私の口を塞ぐ。


 どうして……どうしてこんな目にあうの?

 私は、ただ男の子に遊ばれる感覚を味あわせてやろうって思っただけなのに。


 私が、そうされたように。


 叫ぼうにも、塞がれている所為で上手く言葉が出ない。

 抵抗しようとしても、足も手も押さえつけられている。


 徐々に、男の子の手が私の胸に近づいてくる。

 そして、おもむろに私のシャツを思い切り引き裂いた。


「んんーっ!?」


 シャツのボタンも取れ、破けた箇所からは私の肌と下着が見える。


「お、可愛い下着してるな〜」


「これで男を誘惑してきたってか?」


 徐々に、私の頭の中が恐怖でいっぱいになる。

 肌を見られたことに、これからされるであろうことを考えると、恐怖で涙が溜まってくる。



(……報い、なのかなぁ?)


 ふと、この状況でそんな事を思ってしまう。


 今までの罰。因果応報。

 私が男の子達を弄んできた報いが訪れたのだろうか?


 ……別に、今までの行いを悔いるつもりは無い。

 私はやられたからやり返しただけ。


 けどーーーーーそう考えると、不思議とこの状況にも納得してしまう。

 しょうがないな……って、思えてくる。


 だから私は抵抗するのをやめ、腕や足の力を抜いた。


「抵抗する気もなくなったか?」


「まぁ、そっちの方が楽だしいいじゃねぇか」


 あぁ……もう疲れたなぁ。


 どうして、こんなにも悲しくなってくるんだろ?

 今までやってきた事は、所詮私の八つ当たりだったのかなぁ……?


 他の人なんて関係なくて、やられた人にやり返したら、それで良かったのかもしれない。

 それなのに勝手に周りを巻き込んで、悦に浸って、内心で嘲笑ってーーーーーダメだ、考えれば考えるほど、私がやってきた事が最低に思えてくる。


 ……もう、いいや。


 堕ちるところまで堕ちてしまおう。

 ここで好きにやるだけやってもらえば、少しはこの罪悪感も薄れてくるかもしれない。


「へへっ、じゃあ俺から」


 男の子の手が私の太ももを滑らせて、抵抗しない私のスカートの中へと入ってくる。

 そしてーーーーー


「やっべ、やわらーーーーぶべらっ!?」


 私を触っていた男の子が目の前から消え、思いっきり横に吹っ飛んだ。


「おまっ!?誰だよ!?」


 変わりに私の目の前に現れたのは、さっきまで私が一緒にいた人。

 私の所為で、悲しい顔をさせてしまった人。

 体育倉庫で、私が突き放した人。


 ーーーーーもう、関わらないと思っていた人。



「……き、如月くん…っ!」


「胸糞悪ぃもん見せてんじゃねぇよ、ぶっ殺すぞ?」



 ♦♦♦



(※ステラ視点)


「あぁーっ、もう!信じらんない!」


 私達は今、如月さんの後を追って走っています。

 私は足が遅いので、中々追いつくことは出来ないのですが……。


「いいじゃないか、深雪。真中らしいし」


「だからって、あの女を助けに行く!?今日突き放されたばかりなのに、助けに行く!?」


 そう、如月さんはまた人助けに向かってしまいました。

 私達は一緒に帰っていたのですが、如月さんが途中で「わりぃ、先帰っててくれ」って言って走り出してしまいました。


 そして、その行先には神無月さんが数名の男子達に囲まれている光景。


 今日、如月さんは神無月さんの違う一面を見て、落ち込んでいました。

 突き放された……かもしれません。


 それでも、迷わず走り出してしまいました。


「ふふっ、如月さんらしいですね」


 思わず、笑ってしまいます。


「ステラもそんな余裕な事言ってもいいの!?あいつ、またあの女に関わりに行ったわよ!?」


「別に、そこは問題ありませんよ」


 だって、あの時と同じなんですもん。


 私が如月さんと初めて話した時。

 私が男子達に絡まれて、助けに来てくれた時と同じ状況。


「私は、如月さんのかっこいい姿を見れて満足です」


 私は、如月さんのそういう所も含めて好きになったんです。

 見捨てない、手を差し伸べる。

 それが初めて会った人でも、突き放された人でも、誰構わず。


「あぁーっ!もう、仕方ないわね!」


 そう言って、私の足に合わせてくれていた深雪さんは、スピードを上げて彼の元に向かいました。


 ふふっ、なんだかんだ言いながら助けに行く深雪さんも、かっこいいですよ?


「全く、2人ってどこか似てる性格してるよね」


「そうですね」


 見捨てない。

 そんな性格の如月さん達は、どこか似ているのかもしれません。


「さぁ、僕達も2人に追いつかなきゃ。大勢いた方が、彼女を助けやすいだろうし」


「はいっ!」


 私と桜木さんは、2人の後を追って走りました。

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