女神様からのプレゼント

「まぁ、二人に対する命令は後で聞くとしてーーーー柊と神無月さんや、君達の点数は如何程に?」


 一旦落ち着いた俺達は場所を変え、近くのファミレスに来ていた。


 明日から夏休み。

 ウキウキとした気分で学校を去り、暑い外から逃げ、クーラーがんがんの室内で炭酸を飲む。

 その事に、一種の幸せを感じていた。


「うむん?」


「ふぇ?」


 隣に座っていた神無月と柊は素っ頓狂な可愛らしい声をあげる。

 ……二人とも、飲んでる最中に話しかけたのは謝るけど、そんな可愛らしい声を上げないでくれ。

 俺をキュン死させるおつもりですか?


 あと、欲を言うなら何故俺を挟むように座っているんですか?

 美少女に挟まれるって、嬉しさより緊張が勝ってしまうからやめて欲しいです。


「そういえば聞くの忘れてたわね」


 正面で颯太の肩にもたれ掛かりながら寛いでいる藤堂も、俺の話に乗ってきた。


「そうだね……赤点がないことを信じたいけど」


 颯太も、二人の顔を見ながら口にする。


「むふん!」


「えっへんです!」


 すると、二人は揃って胸を張り、少し誇らしげな態度をとった。

 お二人さん、どうしていちいち行動が可愛いのですか?一種の攻めでしょうか?


「私は赤点ありませんでした!」


「私も、赤点なかったよ!」


 そして、揃って結果が書かれてある紙を机の上に広げた。


 〜柊 ステラ〜

 165/200位 244/700点


 〜神無月 沙耶香〜

 163/200位 250/700点


「おー、順位上がってるじゃないか」


「ほんと……確か、今回の赤点は30点以下だったわよね?」


「そうだったね……パッと見た感じは赤点じゃなさそうだよね」


 それぞれ、20位以上も順位を上げている。

 勉強会の成果も出たのか、これは喜ばしいことだ。


「みんな、教えてくれてありがとうね!」


「私からも、ありがとうございました」


 二人とも、未だに喜びが治まっていないのか、お礼を言う声が少しだけ浮かれていた。


 ……まぁ、当人も喜んでいるが、教えた俺達もかなり嬉しい。

 やっぱり、せっかく教えたのだから結果が出て欲しいものだし、そして当人が喜ぶような結果になれば、こちらも同じくらい嬉しくなる。


「んじゃ、神無月も柊も赤点回避したということでーーーーちょっとしたパーティでもやるか!」


 俺は立ち上がり、意気揚々とグラスを持って高らかに提案する。

 祝賀会……多分という訳では無いが、ちょっとしたお疲れ会はしてもいいだろう。


「じゃ、私フグ鍋がいいわ」


「僕は松坂牛の焼肉かなー」


「お前らは高校生の懐事情を鑑みて発言しているんだよな?」


 なんて高級料理ばかりをチョイスするのだろうか?

 高校生じゃなくても、中々入手しづらいというのに。


「あ、あの……いいのですか?私達の為にパーティだなんて……」


 申し訳なさそうに隣にいる柊が口にする。


「いいに決まってんだろ?お前達が頑張ったんだ、祝わないでどうする?」


「っ!?……あ、ありがとうございましゅ」


 噛んだ。こいつ、噛んだぞ?


「あ、あの……如月くん?わ、私も行っていいのかな……?」


 今度は神無月が俺の袖を引っ張って、もじもじと尋ねた。


「おう、むしろ神無月の為にやるんだから、お前がいなくてどうする?」


「っ!?……あ、ありがと」


 そして、神無月は顔を赤くして俯いてしまう。


 ……うぅん?こいつら嬉しくないのかな?

 さっきから顔を赤くして黙ってしまうし……嫌だったか?


「(ねぇ、あいつって偶にわざとやってるんじゃないかって思うんだけど?)」


「(多分、あれでも意識してやっていないだろうね……)」


「(いつか刺されそうな気しかしないわ)」


「(それはもういたしかたないよね)」


 何やらヒソヒソと小声で話している颯太達も、一体どうしたのだろうか?

 さっきから、この場にいるメンバーの考えていることが分からない。


「まぁ、パーティに関してはみんなの都合のつく日にするか。どうせ、これから夏休みなんだし」


「いいと思うよ」


「私も大丈夫です!」


「私も!」


「私は颯太とデートする日以外ならいいわよ」


 最後の発言、どこか俺の癇に障る発言だな?

 自慢か?カップルですよっていう自慢なのかおい?


「開催場所は俺の部屋でいいから、とりあえずはここで乾杯しとくか!」



 ♦♦♦



 それからしばらくして。

 会話に花が咲いたからなのか、単に涼しい環境から離れたくないからなのか、俺達は未だにファミレスから出ていなかった。


「(……あの、如月くん)」


 そんな会話が盛り上がっている最中、不意に神無月が再びおずおずと小声で話しかけてきた。

 みんなは未だに会話に夢中で、神無月が俺に話しかけてきたことに気づいていない様子。


 何かみんなには聞かれたくないことなのか?

 ……だったら、俺もそれに合わせてやらねば。


「(どうした?そんな小声で話して?)」


「(あ、あのね……これ受け取って欲しくて)」


 そして、神無月はテーブル下から小さな袋を取り出した。

 綺麗なラッピングが施されており、市販のものというよりも手作りという感じがする。


 ……どしたのこれ?


「(……これを?)」


「(うん、この前の休日に作ってみたんだけど……)」


 そういや、この前は用事があるって言ってたっけ?

 もしかして、これ作る為だったの?


 神無月は袋を少しだけ開け、中身を俺に見せる。

 そこには色鮮やかで、美味しそうなマカロンが入っていた。


「(これ、俺にくれるの?)」


「(今回のテストのこともあるけど……この前のことも改めてお礼がしたかったから)」


 この前ーーーーきっと、神無月が襲われていた時のことだろう。

 別にお礼を言われるようなことじゃないし、俺も色々迷惑かけたしなー。


 それに、俺だけじゃなくて颯太達にも協力して貰ったからで、お礼なら二人にもーーーー


「(他のみんなにはちゃんとお礼したから)」


 ーーーーしたんですね、はい。

 でしたら、ありがたくいただきます。


「(ありがとな、マジでチョベリバぴえーん並に嬉しいわ)」


「(……多分、使い方違うと思うよ?)」


 おっとお恥ずかしい。

 俺的に感謝の気持ちを伝えたつもりだったんだが。


「(ありがと、正直超嬉しいわ)」


 俺は先程の言葉を現代語に言い直し、改めてお礼を言う。

 ……女の子から手作りのお菓子貰うって、結構嬉しいんですね。


 声こそ抑えているものの、内心テンション爆上げである。

 見た目だけだが、美味しいのは間違いなさそうだし、今まで女の子から手作りって貰ったことないしなー。


 柊の料理って、手作りのうちに入るのだろうか?

 もし手作りのうちに入るなら、いただいてましたね。


「(そ、それなら良かったよ……)」


 ……それにしても、本当に神無月は料理ができるんだなぁ。

 柊が料理できないから、できる女の子を見ると新鮮さを感じてしまう。


 帰ったらありがたくいただくとしよう。


 俺は神無月から貰ったマカロンを、そっとカバンにしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る