俺、卒業しました

 朝の日差しと、小鳥の鳴き声が俺の目覚まし変わりーーーーなんてことは言わないけど、俺は窓から差し込む光によって目を覚ました。


「ふぁ〜っ」


 背伸びと欠伸を一つ。

 慣れ親しんだ実家だからなのか、いつも以上にぐっすり眠れた気がする。

 そして、何故か体がスッキリしているのだ。これも、実家パフなのか?


「……すぅ」


 俺の横から可愛らしい寝息が聞こえる。

 サラリとした金髪が扇状広がっており、少し俺の寝ていた場所に侵食していたので、踏んでしまっていないかと心配になった。


「……お分かりいただけたでしょうか?」


 夏のホラー番組に出てきてそうなフレーズを口にしてしまった私。

 別に特段ホラーなんてないのだがーーーーー


 しかし、いや……本当に待って欲しい。

 呑気にナレーションしていたが、これは少しおかしいのではないだろうか?


「きしゃらぎさん……」


 むにゃむにゃと幸せそうに寝ている彼女ーーーーもとい柊。

 俺が隣で起きているにも関わらず、未だ起きる気配がない。


(ど、どういうことだ……っ!?)


 俺は内心驚愕の色に染まる。


 なぜ、柊が俺の横で寝ているのか!?

 しかも、しっかり布団まで被って!俺の方に顔を向けて!俺の名前を呼びながら!


 いや……待て、落ち着け如月真中16歳童貞。

 昨日のことを思い返すんだ。


 昨晩は柊と神無月と一緒に実家に帰った。

 そして、飛び膝蹴りやらなんやらあって、無事ここでしばらく泊まる許可を貰った。

 その後、今日はもう遅いからと言って、それぞれが風呂に入り、神無月と柊は一部屋空いた寝室で、俺は「あ、お前の部屋はもう物置にしたから」ということらしく1階の和室で、それぞれ眠りについた。


(そこまでは覚えている……っ!)


 それからのことが一向に思い出せん!

 どうして、柊がここで寝ているのか、どうやってこの部屋まで彼女一人で来たのか!?


 いや、そんなことよりもーーーー


(俺は……一線を超えたのだろうか……!?)


 大人の階段の〜ぼる〜♪君はまだ、シンデレラさ〜♪


 そんなBGM脳内に響く。

 記憶にない、疲れた様子もない。しかし、妙にスッキリしていたんだが……そういうことなのだろうか?


 こんな美少女と、脱童貞!の儀式を終えたのであれば、俺は男として立派になったんだと思う。

 しかし、初めてが記憶にないのはちょっと悲しい……。

 みんな、卒業式は記憶に残らないものなのだろうか?答えてくれ、卒業式を終えたリア充よ!


 おっと、思わず全国の卒業生に語りかけてしまった。


「……すぅ……すぅ」


(……しかし、まったく幸せそうに寝やがって)


 どうして彼女はこんなにも幸せそうに寝るのか?

 ちょっと前にそんなことを思っていたのだが、今こうして彼女の寝顔を見ていると、再びそう思ってしまう。


 俺は柊の顔にかかってしまった金髪をかきあげる。

 彼女の幸せそうにしている寝顔がはっきりと見えた。


 桜色の唇に綺麗に揃ったまつ毛、あどけない表情と雪のような白い肌。

 やっぱり、こうして見てみると改めて柊が美少女なんだと再認識させられる。


(……あれ?なんか無性に罪悪感が湧いてきたぞ?)


 俺の童貞は柊の合意を得た上で卒業できたものだろうか?

 こんな自他共に認める美少女が、俺相手をパートナーに選んでくれていたのだろうか?


 さ、最近の彼女の行動を見ていたら、もしかしてという思いはあるんだが……。

 それでも、流石にそこまでは踏み込んだ関係ではないのではなかろうか?

 もし、俺が記憶のない間、卒業式を迎えたい一心で無理矢理襲っていたのであればーーーー


「……自首しよう」


 柊に申し訳なさすぎる。

 それどころか、人としてお終いだと思う。

 こんなにも優しくて、可愛くて、俺に心を開いてくれる(※だったら嬉しい)少女の想いを踏みにじり、己の快楽を満たしていたなんてことがあれば、本来なら腹を切って詫びなければならない。


 だからこそ、これ以上汚名を残さない為にも、大人しく自首しよう。


 ……父さん、母さん、姉ちゃんそれに、颯太や藤堂、神無月ーーーーそして、柊。

 ごめんな、こんなにもクズ野郎で。冷たい牢屋で、一生懺悔してくるから。


 俺は柊を起こさないように立ち上がり、音を立てず私服に着替える。


 まだ誰も起きていないのか、家の中は静かだ。

 俺は部屋を出て、靴を履き替えた。

 玄関の扉を開けると、爽やかな日差しが俺を照らしてくれる。

 今の俺の心境とは裏腹な陽気だ。


 こんな清々しい朝に、俺はなんてことをしたんだろう。

 一生、この罪からは逃れることなんてできない、逃れようとしてはいけない。

 だからーーーー



「すみません、自首しに来たのですが」


「詳しい話を聞かせてくれるかな?」


 警察署に自首しに行きました。


















 その後事情聴取を受けた俺は、家に帰された。

 そして、顔を真っ赤にして謝ってきた柊と、般若の姿をした母親が玄関に現れた時は驚いたものだ。


 数十発という殴打を食らった俺は、柊が寝ぼけて俺の布団に入ってきたという衝撃の事実を知った。



 その話を聞いた時は、安堵と悲しさと痛みというありとあらゆる感情が入り交じってしまい、自暴自棄になったものだ。



 結論、俺は柊に手を出していなかった。






 そんなこんなで、本日から実家での夏休みが始まるーーーー

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