恥ずかしい……暴露が恥ずかしいよぉ

「—―—―で、なんで帰ってこいって言ったんだよ?」


 一通り落ち着いた俺はリビングで優雅に茶を啜る。

 隣では、ソワソワと辺りを見渡す神無月――――おい、そんなに見ても何もないぞ?

 そして、反対側には柊がソワソワと辺りを————だから何もないって。


「いや、普通は息子が一人暮らしを始めて一度も連絡をよこさなかったら、帰ってこいって言うに決まってるだろ?そんなのも分からないのか、私の息子は」


「……さーせん、俺もいろいろ忙しかったんです」


 入学してから、本当にいろいろあって忙しかったんです。

 柊と出会って、神無月とひと悶着あって————きっと、母親の手紙なんて見る余裕なかったんです、はい。決して、怖くて中が見れなかったとかではないです。


「まぁいい……とりあえず、無事に生きていることが分かって安心したよ」


 先ほど、昇天しそうになったが、それは母親的には無事という枠組みに入れてもいいのだろうか?


「……私、真中くんがいなくて寂しかったよ」


「ねぇちゃん……」


 そう言って、後ろから抱きしめる力を強くする我が姉。

 ————そっか、ねぇちゃんにも心配かけてたんだな。


 母さんだけはどうでもいいが、ねぇちゃんは話が別だ。

 ブラコンが激しいけど、ずっと俺に対して優しく、頼りになって、添い寝を要求してきて、キスをせがんできて、お風呂を一緒に入ろうと————あれ?さっきのしんみりした気持ちが一気に消えていったよ?


「……真中くん」


 そして、ねぇちゃんは後ろから俺の顎を持ち上げて、そのまま己の唇へと————


「身の危険しかないわ!?」


「きゃっ」


 俺はとっさにねぇちゃんから離れる。


 危ない、久しぶりにねぇちゃんに会っていなかったから、こんな危険な行動に出ることを忘れていた。

 今にして思えば、寂しい気持ちをさせて申し訳ない————というよりも、身の危険しか感じられない。


 ……そういや、俺が家を離れたのも、ねぇちゃんから逃げる理由もあったわ。


「わ、ぁ……こ、こんな風にキスをしようとするのですね……!」


「い、いつか私もあんな風に……!」


 そして、横では両手が顔を覆い顔を染める二人。

 しかし、手の隙間からチラチラとこちらを見ているので、一切視界を隠しきれていない。


「それで、あんたはいつまでここにいるんだい?夏休みの間ずっといるつもり?」


「いや……一週間ぐらいかな」


 俺はねぇちゃんから離れた場所で腰を下ろす。


「颯太達とも夏休み遊ぶだろうし————」


 そして、俺は横目で柊と神無月をちらりと見る。


「————こいつらの夏休みの課題を終わらせないといけないしな」


「う……っ!」


「そ、そだね……」


 俺がそう言うと、二人はそれぞれ顔を引きつらせる。

 ……貴様ら、もしや忘れていたわけじゃなかろうな?


「そうかい……なら、しっかりと面倒見てやるんだね。ここでも、向こうでも」


「分かってるよ。しっかり面倒みるし、後で後悔しないように支えるから」


 俺が見てないと、こいつら課題やりそうにないしな……。

 というより、意欲はあっても分からずに進まないと思うから。


 だから、課題が終わらずに「あの時教えてもらえばよかった……」って後悔しないように見てやらないとな。


「あのセリフはちょっとずるいと思います……!」


「わ、私達をキュン死させちゃうつもりなのかな!?課題の話のはずなのに、いちいちかっこいいんだけど!?」


 外野が何やら騒がしい。

 見慣れない場所だからはしゃぐ気持ちは分かるのだが……もうちょっと大人しくしてほしい。


「ん?そういえば、そこのお嬢ちゃん――――」


 そして、母さんがなにか思い出したのか、神無月の顔をまじまじと見つめる。


「な、なんですか……?」


 そして、母さんの顔に蹴落とされた神無月が後ろに退いた。


「お前さん————もしかして、息子が好きだった女の子じゃないかい?」


「ふぇっ!?」


「おいおい、何で知ってんだよマイマザー?」


 いきなり神無月の顔をまじまじと見だしたと思ったらなんてこと言うんだ?

 あれか?俺に恥をかかせたいのか?


「いや、だってこの子だろ?真中が一生懸命ジムやら料理やら勉強やら頑張っていた理由って」


「だからなんで知ってんだよ?」


「いや、息子が卒業アルバムを見てニヤニヤしている姿を見てね————その視線の先が、この子の写真だったからに決まってるじゃないかい」


 決まってねぇよ馬鹿野郎。

 なんでそれだけで分かんだよ?っていうより、見てたのかこの野郎。普通に恥ずかしいわ。


「ねぇちゃん……弟は恥ずかしくなってしまったので、少しだけよろしいでしょうか?」


「うんうん、おいで~。真中くんは恥ずかしくないよ~」


 俺は恥ずかしくなって神無月から顔を隠し、見られないようにねぇちゃんの胸に飛び込む。

 ……ぐすん、お母さんが俺の恥ずかしい過去を暴露するよ~。恥ずかしくてまともに顔を合わせれないよ~。


「いいなぁ……神無月さん」


 柊がなにか呟いていたが、生憎聞き取れなかった。

 ……あぁ、なんか安心する。

 気持ちが落ち着いてくるなぁ……。


「しかしおかしいね?嬢ちゃんは息子のこと————あぁ、なるほど。……あんたも、もったいないことしたもんだ」


「……それに関しては、私もそう思っています」


 どうやら、母さんは神無月の何かを察したようだ。

 神無月の後悔しているような声が耳に入ってくる。


 しかし、生憎俺は母さんが何を察したのか分からない。

 ……とりあえずは、ねぇちゃんの安らぎに身を任せよう。



 さすれば、この恥ずかしい気持ちも落ち着きを取り戻すかもしれないから。

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