母親と姉

 ※作者からのコメント


 本編開始です!

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「大丈夫ですか如月さん!?」


「頭から血が出てるんだけど!?」


 聞こえてくるのは可愛らしい声。

 胸と頭に痛みを感じつつも、俺はどこかほんわかとした気分だった。


 あれか……?死に際に看取ってくれる家族がいたら、こんな気分になるのだろうか?

 俺はコンクリートの壁にもたれ掛かりながら、ふとそんなことを思ってしまった。


「はぁ……お前はいつまで経っても、成長しない」


 それは俺が回避できなかったからなのか、それとも人として成長していないからなのか、黒髪のババァーーーーもとい、俺に膝蹴りをしてきた実の母親が、ため息をつきながら近づいてきた。


「……それで、一度も連絡をよこさなかった馬鹿息子は、今度は一体何の用で帰ってきたんだい?」


 両手を組み、ふんぞり返りながら母親が俺を見下ろす。


「……母さんが俺に帰ってこいって手紙寄こして来たんだろ」


「そういう手紙を、私は前に何通も送った気がするんだけどねぇ?」


 いや、今回は脅迫文じゃないか。

 現に、今俺は実の母親に新手の飛び膝蹴りで殺されそうになったわけだし。


「それにーーーー」


 そして、母さんは俺の隣を一瞥する。


「こんな可愛い子まで連れてきちゃってまぁ……母さん、変人に思われてしまうじゃないか」


 元から変人です。

 なんて、殺されそうなのでおくびにも出さない。


「あ、あの……如月さんのお義母様ですか?」


「どうしてお義母様なんて呼び方なのか、問い詰めたいところではあるがーーーーとりあえず、自己紹介しようじゃないか」


 そう言って母さんは一歩下がり、少しばかり身だしなみを整える。


「私はこいつの母親で渚って言うんだ。多分、こいつが連れてきたってことはここに泊まってくんだろ?……まぁ、よろしく頼むよ」


「は、はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」


「不束者ですが、何卒よろしくお願いします!」


 神無月の最後のセリフは嫁入り前のセリフだと思うが、きっと緊張しているだけだろう。

 二人は、母さんに向かって勢いよく頭を下げる。


「……とりあえず、中に入らせてくれ。このまま二人を外にいさせる訳にもいかないから」


 そして、出来れば包帯を貸してほしい。

 さっきから、頭の血が止まらないんだよ。



 ♦♦♦



「真中く〜ん!お姉ちゃん会いたかったよ〜!」


「ぐべっ!?」


 一難去ってまた一難とは正にこのこと。

 家の中に入り、リビングでくつろごうとした矢先、俺の横っ腹に大きなタックルが入る。


「あぁ〜!真中くん成分だぁ〜!」


 そしてそのまま顔をスライドし、茶髪の少女が俺の顔に思いっきり頬ずりしてくる。

 あぁ……無理、今の体力じゃ、姉ちゃんのこのスキンシップに抵抗する気が起きない。


「あ、あのっ!?羨ましいので、離れてあげてくれませんか!?」


「そうです!如月くんは今疲れているんです!羨ましいので後にしてあげてください!」


 なんでだろう?この姉止めてくれるのはすごいありがたいけど、どこか願望が入り混じっていた気がする。


「ごめんね〜!おねぇちゃん、ちょっと興奮しちゃった!」


 そう言って、舌を出してドジっ子アピール。

 年齢が噛み合っておらず、中々に無理があるように見える。


「紹介が遅れたね!私は真中くんの姉で、咲って言います!いつも、弟がお世話になってます〜!」


 二個上の姉ーーーー如月咲が頭を下げる。


「柊ステラと申します!」


「か、神無月沙耶香です!」


 それに続き、柊と神無月も頭を下げた。

 うんうん、自己紹介もちゃんとできたねー、偉いねー。

 それでねー、いつになったら頬ずりやめてくれるのかなー?


「姉ちゃん、母さんは暴走大丈夫か?」


「多分、真中くん飛び膝蹴りしたから大丈夫じゃないかな?」


 息子に飛び膝蹴りして気分が良くなる親は、この世界中探してもうちの母親ぐらいだろう。

 もう少し、世間の母親を見習って欲しい。


「……真中、ドアの応急処置はしておいたから、明日業者に頼んどいて」


 ドアの応急処置をした母さんがリビングに顔を出す。

 どうして、母さんが壊したのに、俺が発注しないといけないのか?

 世の中、圧倒的強者には逆らえないものだ。生存本能ってやつかもしれない。


 なので、俺は大人しく頷いておく。


「それで、久しぶりに帰ってきた息子が、二股を堂々と親に見せびらかして来るなんて、成長したじゃないか」


 何故か、感心する要素のないセリフに、母親は感心した様子で頷く。


「ふ、二股……っ!?」


「い、いやでも……二股路線も、嫌だけど、如月くんが認めてくれるなら……!?」


 二人は、母さんの言葉を聞いて顔を真っ赤にする。

 ツッコミたいけど、ツッコんだら負けな気がするのでやめておこう。


「……二股じゃねぇよ。こっちの観光がてらに、二人を招待しただけで、こいつらとはただの友達だよ」


「……あぁ、真中くんはそういう反応なんだね」


「……息子の愚鈍さに、お母さんショックで張り倒したいわ」


 何故に答えただけで、あからさまにため息を疲れなければいかんのか?

 別に友達なんだから仕方ないだろ?まぁ、二人が俺の事をどう思っているか知らんが。


「……すまんね、うちの息子がこんなんで。あんたらも苦労するだろう?」


「……ははは」


「ノ、ノーコメントでお願いします」



 どうして二人は苦笑いなのだろうか?


 俺、なにかしましたっけ?

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