聖女様と女神様との帰宅

 皆さん、こんにちは。

 リア充道を歩んでいる如月真中です。


 現在、俺は大変困っております。

 全身の至る所からの激痛を感じながら、日が沈みかけている帰り道を歩いているのですが、どうにも私は頭を悩ませています。


 え?体が痛むこと?

 いえいえ、違いますよ。クラスメイトから受けた痛みに困っていることではありません。


 で、結局何に悩んでいるのかと言いますと—————


「むぅ~~~~~~っ!」


「ふんふふ~ん♪」


「………」


 この状況です。


「あの……二人とも、私の腕を離してはいただけないでしょうか?」


「え~いいじゃん別に!こんな美少女さんに抱き着かれているんだよ!役得だね!」


 はい、大変すばらしいのですが……


「嫌です!神無月さんが離すまで離しません!」


 ……何を争っているのですかね、柊さんは?


 俺の腕には柔らかい感触が二つ。

 右には我が初恋相手の神無月が、左には柊がそれぞれ抱き着いている。

 そして、神無月は終始楽しそうに笑っているし、柊は終始頬を膨らませて不満気に威嚇体制をとっていた。


 ……ほんと、どうしてこうなったんだろうね?


 別に、嫌じゃないのよ?

 こんな美少女さんに抱き着かれている—————ましては片方は初恋相手ときた。先ほどから俺の心臓はドキドキしっぱなしだし、ほのかに二つのいい香りがするし……嬉しくないわけがない。


 でもさ……。


「柊さん、如月くんが困っているよ?離してあげないの?」


「嫌です!そういう神無月さんが離したらどうですか!?」


 なんでこの二人ってこんなに険悪なの?

 神無月はそんな感じさせないが、柊はあからさまに神無月を警戒している。

 君たち、今日初めて会ったばかりだよね?


「ねぇ、如月くん?私に抱き着かれて嬉しいよね?」


「い、いや……別にそんなことはないが…」


 嘘です。

 正直かなり嬉しいです。


「如月さん!私の方が嬉しいですよね!?」


「柊は一体何を争っているんだ……?」


 君たち恥ずかしくないの?

 見てよ、さっきから周りの視線集めちゃってさ……。

 俺、注目集めるならライブ会場だけがいいんだよね~。

 だから、断じてこんな公共の場ではない。


「如月くんと一緒に帰るのは久しぶりだよね~!中学以来だっけ?」


 この周りの注目ももろともせず、神無月は話を切り出す。

 ……流石です、女神様。俺にはこんな注目を浴びている中、平然となんて振舞えません。


「そ、そうだな……それより、離してくれない?」


「懐かしいよね!確か2年の冬くらいだったかな~?」


 無視ですか?


「わ、私だって最近は毎日一緒に帰っています!」


 だから何を張り合っているの?


「でも、私の方が歴は長いと思うんだよね~」


 俺の体をはさみながら、神無月は柊を挑発する。

 そして、それを聞いた柊はしばらく何かを言おうと口をパクパクさせたが、思いつかなかったのか、俺の腕に顔を埋め悔しそうに唸った。


「う、うぅ~~~~っ!」


「待て、柊。今悔しがる要素あったか?」


 と言いつつも、未だに二人が何で争っているのかいまいち理解できない。

 この二人は何を争っているの?


「私の勝ちだね~!」


 だから何を争っているの?


「そういえば、如月くん」


「ん?」


「如月くんって、誰かお付き合いしている人いるの?」


「……は?」


 え?待って?

 この質問は前もされたぞ?


 一体どういう意図でこんな質問をしたのか……?

 俺はなけなしの理性で考える。


 もしかして、俺に彼女がいないか心配したのか?

 でも、一体何故?別に、彼女が心配する要素なんてどこにもないはずなのに……。


 ……ダメだ。考えても分からん。


 ここはもう一度素直に答えておこう。


「い、いないぞ……」


「そうなんだ♪」


 俺がそう言うと、何故か神無月は嬉しそうに笑った。


 ……どうして、そこで嬉しそうな反応をするんだ?

 分からない……お前に嬉しい要素なんてどこにもないはずだろ?


 俺はそんな疑問の中、不意にあることを口にしてしまった。


「……神無月は、今でも他校の人と付き合っているのか?」


 あぁ、ダメだ。

 こんな嬉しそうな反応をされたら、変に勘ぐってしまう。


 俺の事を好きなんじゃないか?俺の事が好きで、彼女がいないことに安心したのではないか?


 けど、彼女には彼氏がいる。

 だからこそ、俺はこんなことを口にしてしまったんだと思う。


 不安で、僅かな希望にすがりたいと思って、可能性が残されていると信じたくて。


 そんな俺の言葉を聞いて、神無月は口元を緩めながら答えを口にした。



「……え?」


「だから、いないよ。私は今、誰とも付き合ってないからね」


 頭が真っ白になる。

 付き合ってない?彼女は、そう言ったのだろうか?


「で、でも……この前付き合っているって話を聞いたぞ?」


「あぁ、それは嘘だよ。こう言っておけば?」


 確かに、そう言っておけば誰も彼女に告白をしようとはしないだろう。

 俺も、それで諦めたうちの一人なのだから。


 しかし、彼女は一体何を考えてそんな嘘をついたのだろうか?


 告白を受け続けるのに疲れたからか?

 彼女は中学ではめちゃくちゃ告白を受けていた。それ故、彼女も負担があったのだろう。

 だからこそ、きっと彼女は告白をされないためにそんな嘘をついたんだ。


 俺は、自分の中で勝手にそんな結論を下した。


「だからね、如月くん—————」


「如月さん!そろそろ買い物に行かないとダメです!早く行きましょう!」


 神無月が何か言いかけた瞬間、柊は俺の腕を思いっきり引っ張り、スーパーがある方向へと強引に向かう。

 その反動で、反対に伝わる神無月の感触は消え、彼女はそのまま立ち尽くしてしまった。


「お、おい柊、引っ張るなっ!————悪い神無月!また今度な!」


 俺は強引に腕を引っ張られながら、神無月に別れを告げる。

 神無月は驚いていたが、すぐに笑って手を振ってくれた。


「どうしたんだよ柊?急に引っ張るなんて」


「……何か、これ以上はよくない気がしまして」


「は?」


「な、何でもありません!さぁ、早くお買い物を済ませないと、日が沈んでしまいますよ!」


 そう言って、柊は俺の手を握りながら、先へと急ごうとする。

 俺は釈然としなかったものの、大人しくついて行くことにした。






























 ……そうか、彼女は誰とも付き合っていないのか。


 これは、初恋は諦めないでもいいのだろうか?

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