体育倉庫で2人っきりです

「……神無月?」


「はろはろー」


 ……どうしてここにいるんだ?


 そんな疑問がすぐに頭に浮かぶ。

 今、みんなは着替えを済まして昼休憩に入っているはず。

 それなのに、どうして彼女は体育倉庫の中にいるのだろうか?


「どうしてここにいるんだ?」


「私体育委員だもん、倉庫の鍵は私が閉めなくちゃいけないからね〜」


 ……どうやら、俺が運び終わるまで待っていてくれていたようだ。


「鍵なんか俺に預けておけばいいのに……」


「ダメだよ〜、与えられた仕事は最後まで責任持ちたいから」


 そう言って、神無月は軽くジャンプしてマットから降りる。

 その時にたわわな胸がぷるんっ♪と大きく揺れーーーーーいかん、鼻血が。


「そ、そうか……それは悪かったな」


 俺は視線を逸らしながら鼻を抑える。

 ダメだ、どうしても視線が胸に引き寄せられてしまう。神無月には変態なんて思われたくない。

 ここは理性を総動員させて目を逸らさなければ……っ!


「如月くんのえっち……。さっきから胸ばかり見て……」


 どうやら逸らしきれていなかったようだ。

 おかしいな?一体俺の理性は何をやっているんだ。


「す、すまんっ!別にいやらしい目で見ていた訳じゃないんだ!」


「じゃあ、どんな目で見てたの?」


 神無月は胸を隠しながらジト目で俺を見る。


 ……どうしよ?正直いやらしい目でしか見ていなかったんだが、咄嗟に誤魔化してしまった。

 これは俺の好感度を下げないためにも、更に誤魔化さなくては……。


 そうだ!

 確か女の子はこの時期から異様に成長が早いという話を聞いた気がする!(※違います)

 ここは「成長しきった体に異変がないか心配している」というアピールをすれば誤魔化せるはず……っ!

 だって『成長痛』って言葉もあるくらいだし、きっと分かってくれるに違いない!


「俺はただ神無月から母乳が出てないか心配してだな……」


「うわぁ……」


 おかしい。

 今、彼女の口からかなりのドン引き声が聞こえた気がする。


「……すみません、本当はエロい目で見てました」


 潔く土下座。

 これ以上誤魔化そうとすると、ガチで墓穴を掘りそうな気がする。


 多分、今彼女の横に好感度メーターがあれば急降下しているだろう。

 それぐらい、彼女は引いていた。


「……はぁ、ダメだよ?女の子にそんなこと言っちゃ。そういうの、あまりいい気分しないんだから」


「……仰る通りです」


 ……何も言えない。


 俺はひたすら謝るべく、頭を下げ続ける。

 許してくれるといいなぁ。


 初恋相手に変態&最低男なんて印象持たれたら、俺明日死ぬかもしれんからさ。

 いや、マジで?本当にメンタルやられるんだよ……。


 今回は全面的に俺が悪いから、何も言えないんだけどさ……。


「いいよ、許してあげる!今思えば、如月くんが私の胸を見てたのは中学の時からだしね」


 なんでだろう?

 許して貰ったけど、ものすごく悲しい。


「……ありがとうございます」


 俺はゆっくりと顔を上げる。

 そこには楽しそうな笑みを浮かべている神無月がすぐ側にいた。


 ……近くないですか?

 俺をドキ死させるおつもりですか?


「ねぇ、如月くん?」


「……何でしょうか?」


 俺は正座の状態で神無月を見る。

 神無月はゆっくりと俺の横まで来て、体育座りで俺の顔を覗き込んだ。


 ……思わずドキッとしてしまったのは、仕方ない。


「今日は大変だったね〜」


「……大変?」


 はて、何か大変なことでもあったのだろうか?

 たわいのない会話のはずなのに、会話の内容が分からない。


「ほら、今日柊さんを保健室まで連れて行ったじゃん!」


「あぁ……」


 あれは別に大変ってものじゃない。

 人命救助に大変もクソもないからな。


 それに、一生懸命走ってるヤツを助けてあげるなんて、当たり前でーーーーー


「ほんと、倒れるくらいなら最初から走らないで欲しいよね!」


 ーーーーーは?


 今、こいつ何て言った?


「みんなの邪魔になるし、迷惑だよね〜!これだから運動できない子はーーーーー」


「ーーーーーおい」


「ッッッ!?」


 これ以上ないくらい低い声が、俺の口から漏れる。

 その声に驚いたのか、神無月はビクッと肩を震わせて驚いた。


「お前……戯れた事言うのはやめろよ」


 自然と怒りの感情が込み上げてくる。

 本当は、神無月に対してこんな感情を抱きたくなかった。


 ……でも、今のは見過ごせない。


「邪魔?迷惑?大変?ーーーーーいつ俺がそんな事言った?あいつは倒れるくらいまで一生懸命走ったのに、邪魔だって?……巫山戯んなよ」


「で、でも……」


「倒れるくらいまで一生懸命走ったんだぞ?心配や注意ならまだ分かるが、邪魔だけは有り得ない。俺はあいつが一生懸命走ったことに心配こそすれど、邪魔なんて1mmも思わなかった……頑張ったな、って褒めてやるのが普通だろ?それを迷惑ってーーーーー違うだろ」


 頑張っているヤツを貶すことは許さない。


 確かに、柊の所為で授業を中断してしまったかもしれない。

 けど、そいつに掛ける言葉は「心配」か「褒めてやる」か「注意」のはずだろ?

 その頑張りを踏みつけにして、迷惑や邪魔なんて思うのは………戯れてる。


「別に、神無月が何て思おうが勝手だが、それは口に出すな。ーーーーー柊に失礼だ」


「……」


 俺が言い終わると、倉庫内に静寂が訪れる。

 神無月は、肩を震わせながら俯いて黙ってしまった。


 ……ヤバい。

 イラッとして思わず、強く言ってしまった。


 確かに、柊を貶したことは許せないが、ここまで言うことはなかったんじゃないか?


 俺は冷静になると、途端に不安が押し寄せくる。


「す、すまん!ちょっと強く言いすぎーーーーー」


「……によ」


「ん?」




「なによっ!!!」



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