聖女様と登校
聖女様と晩御飯を食べた次の日。
いつもと変わらない時間に起き、今日も今日とて学校へと向かうべく玄関を開ける。
外にはランニングをする若いお兄さんや、夫婦仲良く散歩をするおじいちゃんおばあちゃん、友達と一緒に登校している小学生達の姿。
涼しい風が一日の始まりを教えてくれているようで、俺はいつもと変わらない日常がこうして────
「おはようございます、如月さん」
始まりませんでした。
「……どうしてお前がここにいる?」
玄関を開けると目の前に現れるは金髪をなびかせる我がクラスの聖女様。
早速ではあるが、いつもと変わらないというのは訂正した方がよさそうだ。
「こちらをお返しに来ました」
そう言って、柊はカバンから昨日渡したタッパを取り出す。
「別に、放課後でもよかったのに」
「いえ、こういうのは忘れないうちに渡しておこうと思いまして」
「さいですか」
何とも真面目な聖女様か。
俺だったら確実に夜まで放置しておくというのに。
俺はタッパを受け取ると、靴を脱いでキッチンの戸棚に置く。
「それで、如月さん」
「おう、なんだね?」
「一緒に学校に行き「断る」———えぇっ!?」
話を遮られたことが不満なのか、それとも断られたことが不満なのか、柊は可愛らしく頬を膨らませる。
……一回でいいから、そのほっぺつついてみたい。
「何故即答で断るのですか!?」
「何でって言われてもなぁ……」
聖女様の言葉に、俺は頭をかく。
「もし、俺たちが一緒に登校してみた時を想像してみるんだ」
「想像ですか?」
「あぁ。一緒に他愛のない会話をしながら一緒に登校するとする。すると周りからは付き合っているカップルに思われてしまうだろう」
「つ、付き合ってッ!?」
想像して恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にした。
その表情は大変可愛らしいのだが、俺は無視して言葉を続ける。
「そして、一緒に登校した俺達が何気なく登校し教室に入ると、そこにはみんなの驚いた顔。「え?」「何で聖女様と一緒にいるの?」という疑問の声が聞こえる中、嫉妬に狂った連中が鈍器を構え始め、俺の命もおさらばに」
あぁ……目に見えるように想像できるなぁ。
嫉妬に狂った連中が俺に向かって鈍器を振り下ろす瞬間が。
俺はその光景を想像して、背筋に寒気が走るのを感じる。
「———というわけだ、だからお前とは一緒に登校できな「い、一緒に登校しましょう!」話聞いてた!?」
俺の話を聞いて、何故か聖女様は小さく拳を作った。
「ねぇ、俺の命が危なくなるって言ったよね?ちゃんと話を聞いてた?」
「はい! それでもです!」
この子は俺に何か恨みでもあるのかね?
俺殺されるかもしれないってちゃんと言ったよね? 何そこ容認しちゃってるの?
「……柊って、俺のこと嫌い?」
「い、いえっ! 嫌いじゃありませんよ!?ど、どちからというと……」
「ん?」
「な、何でもありません! さぁ、早く行きましょう!」
顔を赤くした柊は何やら慌てていたが、俺の手を引っ張って学校へと向かう。
……えぇ、本当に学校に行くの?
周りの視線が痛そうだし、この後のことを考えたら————
「うぅ……胃が痛い…」
♦♦♦
「なぁ、柊さんや?」
「何ですか、如月さん?」
「あなたは、いつもこの視線を浴びていらっしゃるので?」
「何故敬語なのかは分かりませんが……そうですね、いつもこのような感じですよ」
「マジですか……」
俺はキリキリ鳴っている胃を押さえながらげんなりする。
俺達はしばらく歩き、やがて人通りも多くなっている道へとやって来た。
もちろん、学校に近づけば近づくだけ人も多くなってくるのだが————
『ねぇ、あれって聖女様じゃない?』
『ほんとだ、聖女様だ』
『でも、あの隣にいる男って誰?』
『ま、まさか、彼氏!?』
『『『そんなあんまりだァァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』
「……すごいですね、聖女様は」
「だから、聖女様はやめて下さいってば!」
隣で可愛らしく不満げにする聖女様。
……いや、ごめんね? 今そんな君にかまってあげれるほど余裕ないんだよね。
周りの視線やら話声やらが気になって、俺の精神がどんどん削られていく————ほんと、いつもこんな視線を浴びている聖女様ってすごいね。
どうせ視線を集めるのならビキニのねぇちゃんの熱い視線が良かったよ。
「で、でも……こういう注目も悪くないと言いますか……」
「何だって?」
「な、何でもありませんよ!」
聖女様は両手を振り、顔を赤くして先を行く。
……何言ってたんだろうか? 喋るなら大きな声で話してほしい。でないと、会話ができません事よ?
「さぁ、早く行きましょう! でないと、遅刻してしまいますよ?」
そう言って、聖女様は可愛らしい笑みを向けると、俺の先を歩いていく。
……なんだかんだ遅れそうな原因って柊の所為だと思うんですよね。
「……はぁ、学校に着いた瞬間、柊と離れよ」
俺は小さな溜め息をつきながら、先のことを考える。
……せめて、クラスの連中だけにはバレませんように。
そう祈りながら、俺は柊の背中を追って学校を向かうのであった。
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