藤堂と聖女様

「おはよー」


「あ、おはよう真中」


「おはよう」


 俺はいつもの顔なじみの親友達に挨拶する。なんだかんだ登校時間までには間に合ったようだ。


 結局、学校に着いた俺は柊に無理やり言い聞かせ、俺達は時間をずらして教室に入った。

 始めは、何故か不満そうだった彼女も俺の命がどれだけ危険にさらされるかを力説すると、しぶしぶ納得してくれた。


 ほんと、えさを取り上げたリスでもあるまいし、あんなにほっぺを膨らませなくてもいいだろうに……。

 最近彼女の中ではほっぺを膨らませるのが流行りなのかね?


 俺は教室の端を見る。

 すると、先に教室に入った柊は俺の視線に気づいたのか、小さく手を振ってくれた。


「あんた……聖女様と仲良くなったのかしら?」


 俺達の様子を見た藤堂が、何やら気になる視線を向ける。


「ん? ……仲良く…かな?」


「そうじゃない? 今、あんたの方を向いて手を振ってなかった?」


「多分な」


「流石、真中だよね。たった一日で聖女様と仲良くなるなんて」


 まぁ、いろいろきっかけというか、なんというか……。

 彼女が妙に積極的だった、ということも仲良く見える原因なのかもなぁ。


「……あんた、昨日まで気に食わないとか言ってなかった?」


「そうなんだけどさ……あいつと関わってみて意外とイメージが違ってたんだよ。ビキニのねえちゃんの方が一番色っぽいと思っていても、実際にスク水を着たねぇちゃん見たらそっちの方が色っぽかった……みたいな」


「例えが気持ち悪い」


 藤堂が体を抱えながら本気で引いてしまう。


 ……おかしいな? 例え分かりづらかったのかな?

 女子には、この気持ちが分からないようだ。


「まぁ、その例えは置いておいても、真中がほかの人と仲良くなってくれて僕は嬉しいよ」


「だからボッチじゃないっちゅうに」


 こいつはさりげなく俺を馬鹿にしていないだろうか?

 そろそろ俺の堪忍袋がゲシュタルト崩壊しちゃうよ?


「みなさん、おはようございます」


 俺達が話していると、先ほどまでクラスメイトに囲まれていた聖女様がこっちにやってきた。


「おはよう、聖女様」


「おはようさん」


 颯太が聖女様に挨拶を返す。

 俺も、さっきまで一緒にいたが、感づかれないように挨拶を返す。


「ねぇ……聖女様」


「何ですか、藤堂さん?」


「ちょっと、私と二人で話さない?」


 やって来た聖女様に、藤堂は鋭い目つきで睨む。

 ……どうして、そんなに攻撃的なんですか藤堂さん? 普通に挨拶されただけだというのに。


「なぁ、おい藤堂?」


 俺は藤堂が作った怪しい空気におかしいと思い、声をかける。


「まぁ、ここは深雪のやりたいようにやらせてあげようよ」


「どうして?」


「深雪も、真中のことが心配なんだよ」


「……?」


 颯太は一体何を言っているのだろうか?

 藤堂が俺の事が心配? 心配することも意外なのだが、俺の何を心配しているのだろうか?


「私は別に構いませんよ」


 柊は藤堂の鋭い視線に臆することなく、平然と答える。


「じゃあ、行きましょうか」


「えぇ」


 そう言って、藤堂と柊はゆっくりと教室の外へ出て行ってしまった。


「……一体何なんだ?」


「いいから、いいから」


「はぁ?」


 俺は現状が理解できず、首をかしげた。



 ♦♦♦



(※深雪視点)


「ここなら、誰も来ないわね」


 私達は教室から出ると、階段を上がり人気のない廊下までやってきた。


「えぇ、ホームルームも始まることでしょうし、手短に終わらせましょう」


 聖女様は平然とほほ笑む。……やっぱり、むかつくわね。


 この子も、と同じということなのかしら?


「そうね、じゃあ単刀直入に聞くけど────何が目的であいつに近づくの?」


「あいつ————というのは、如月さんのことでしょうか?」


「えぇ、そうよ」


「そうですね……何と言いますか……」


 そう呟いて、聖女様は少し考える。


「……助けてくれた、からでしょうか?」


「助けてくれた?」


「えぇ、一昨日の放課後、私が上級生に絡まれているところを、如月さんに助けてもらったんです」


 あいつは、また人助けをしたのね……。

 困った人を見捨てられない性格の如月を考えて、私は少しだけ頭を抱える。


 しかも、どうせ「自分が気に入らなかっただけ」と言って、何も聞かずに立ち去ったんでしょうけど……それが相手にどんな気持ちを抱かされるとも知らずに。


「それで、恩を返したいからっていう話?」


 これまでに、如月に助けられた人が何人もいる。そのほとんどの人がお礼がしたいと言って近づいてくるのだ。


 ……別に、そのことは問題ない。

 恩を返したいなら勝手に返せばって思う。


 ————けど、


(あの女みたいなやつが近づいてたまるもんですか)


 如月の初恋を奪っていったあの女。表面上はニコニコして人当たりがよい人気者を演じていて、如月に近づいてきた。

 始めは、あいつからだったみたいだけど……途中からは違った。


 それで、如月がどれだけ傷ついたか。本人は気が付いていないけど……。


(恩人のあの姿を、私はもう見たくないのよ)


 だから、私がしっかりしないといけない。あいつに近づいてくる奴は、私がきっちり見極めないと。


「……そうですね、始めは私も恩を返したいと思っていました————ですが……」


「ですが?」


 そして、聖女様は少し恥ずかしそうに、口を開く。


「そ、それ以上に如月さんのことが気になってしまったと言いますか……仲良くなりたいと言いますか……」


 そして、聖女様は頬に両手を当てて、顔を赤らめながら体をもじもじさせる。

 ……え? 何その反応?


 私が思っていた反応と違うんですけど?

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