大好きです
(※ステラ視点)
如月さんが戻ってくる前のこと。
静けさの残る教室で、私は一人提出用のノートを広げて黙々と委員会の議事録を纏めていました。
不思議と教室の窓から廊下を覗いても生徒の姿は見当たりません。
……三年生のいる階だからでしょうかね。
もしかしたら、受験に向けて皆さん早々に帰宅して勉学に勤しんでいるのかもしれません。
……私、受験大丈夫でしょうか?
ちょっと不安になってきました。
「遅いですね……」
時計を見ます。
如月さんが出て行ってしまってから……あれ? まだ十分しか経っていないのですか?
お、おかしいですね……とても長く感じます。
「そ、そうですよねっ! 如月さんもお仕事をしているんですから、私も頑張らないとです!」
私は少しの違和感を覚えながらも、その違和感を振り切って一生懸命に議事録のページを埋めていきました。
中学生時代、生徒会に所属していたおかげか、こういう仕事には慣れています。
書き方は見よう見真似ではありますが……三枝先輩も、それぐらいでよさそうなことを言っていましたし、問題はないでしょう。
如月さんも今頃は頑張っているはずですし、私も少しでもお役に立てるように与えられた仕事をこなしましょう!
「…………」
———チラッ。
「…………」
———チラッ。
「…………」
———チラッ。
「…………」
……いけません。
どうしても、視線が教室の入り口に向いてしまいます。
脅かそうとしてそーっと教室にいるのではないか?
目を向けた瞬間に帰って来るのではないか?
そんなことばかり……自然と考えてしまいます。
集中しなければいけないはずなのに、どうしても無意識に如月さんの姿を追い求めてしまいます。
「うぅ……私、本当に如月さんのことが好きなんですね……」
何回も、何回も自覚してきたことです。
如月さんが好き———それは、あの時から一向に変わることはありません。
で、ですが……少し離れただけで寂しいって思ってしまうほどだとは思いませんでした……っ!
私にとって、如月さんはそれほどの存在になってしまっているということでしょう。
「……はぁ」
できることでしたら、今の瞬間ぐらいは集中したいものです。
如月さんも早く終わらせて帰って来ると言ってくれたのですし、私は私がするべき仕事を終わらせておきたいです。
託されましたもんね! 三枝先輩と如月さんに!
「……それにしても、私が体育祭の実行委員になるとは思いませんでしたね」
一年前の私であれば、生徒会の仕事や学級委員の仕事であれば引き受けたかもしれませんが、体育祭の実行委員など引き受けはしなかったでしょう。
運動音痴という負い目がどうしても脳裏を過ってしまって、自然と忌避してしまうはずです。
それでも、現在はこうして体育祭の実行委員になってしまいました。
というのも———やはり、如月さんがいたからでしょう。
如月さんが実行委員になってしまったことによって、これからの放課後は一緒にいられなくなってしまいます。
もしかしなくても、一人で帰ることが増えてしまって、いつものように一緒に夕食を食べることもなくなってしまう可能性もあります。
少し前であれば、いつもどこでも一人だったというのに……今では如月さんがいないことに抵抗を覚えてしまいます。
だから私も名乗りを挙げました。
先生にお願いをしに行って、私も実行委員になれるように動きました。
自分で口にするのもあれですが……本当に、私は如月さんのことが大好きなんですね。
如月さんのいない日常が、もはや苦痛に感じます。
「私って、こんな女の子だったんですね……」
茜色に染まった空を眺めます。
帰宅を促すカラスの鳴き声が聞こえてきそうで、静寂が待ち時間を急かしているように思えました。
好きな人が初めてできて、こんなに想ってしまって。
依存という形に少し近くなってしまっているような……大きい想いを抱いてしまう。
それでも不思議と不快というわけではありません。
胸を張って、この気持ちは素晴らしいものなんですって言えるようなもの。
一人になればなるほど……隣に如月さんがいなければいないほど、どうしても気持ちが肥大化してしまいます。
(あぁ……どうしても、私は如月さんのお隣にいたいですね)
神無月さん……ごめんなさい。
あ、いえ……これは言っていけませんでしたね。
私と神無月さんの間に申し訳なさなど必要ありません。
正々堂々、恨みっこなし。その上で、どんな結果であろうとも祝福するのがお友達であり……私達です。
ですから———
「負けませんよ、神無月さん……私が、如月さんのお隣を手にするんですから」
誰かに聞いていただかなくてはいけない宣戦布告が宙に浮遊する。
誰にも拾ってもらうこともなく、漂う布告はただの私の決意のようなものでしょう。
「さぁ! やりますよっ! 頑張らないとです!」
私は気合を入れ直し、再びノートに向かって筆を走らせます。
今度は余計なことは考えずに、しっかりと集中しないとですね!
———それから、数十分という時間。私は議事録を頑張って作成しました。
それから、如月さん達は戻ってきたのですが……お、驚かすことはないと思うんですっ!
悪気はないかもしれませんが……こ、今度お詫びしてほしいです!
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