聖女様、襲来!

「なぁ、あんちゃんや」


「どうしたの真中? そんな真剣な顔をして?」


 昨日はなんだかんだで掃除&反省文がきちんと終わり、現在翌日朝のホームルーム前。

 俺は正面に座っている我が親友の颯太に向かって真剣な表情で見つめる。


 教室ではクラスの女子の可愛らしい声や男子達のむさ苦しい声が変わらず響いていた。


「いやね……いつになったらお前が俺の気持ちを汲み取ってくれるのかと思ってな」


「……気持ちを汲み取る?」


「あぁ、そうだ」


「といっても、僕は何のことか分からないんだけども?」


 俺が真剣に話しているにも関わらず、颯太は首を傾げる。


 ……けっ! なんで分からなんだ。

 何年俺の親友をしていると思ってんだこの男は?


「……お前が惚けているのなら、この際はっきり言っておこう」


「惚けてないけど?」


 じゃーかしい!

 いちいち口を挟むんじゃないよ!


「いいか、俺がお前に言いたいことは————」


 俺は大きく息を吸う。


「目障りだから消えて「あ、颯太♪ 髪にゴミがついてるよ♪」邪魔すんなやボケェ!?」


「何よ、朝からうるさいわね」


 折角の俺の言葉を遮った藤堂は、俺の事をゴミを見るような目で見つめてくる。


「いや、俺が喋っているのに、お前が途中で邪魔するからだろうが」


「はっ! あんたが喋っていようが、私が喋っちゃいけない理由はないでしょ?」


「────うっ!」


 俺は藤堂の我強しという姿勢に思わず声に詰まる。


 ……それはそうなのだが、もうちょっとタイミングを見計らってくれるとかさぁ?

 俺が颯太と話しているんだから空気を読んで邪魔して欲しくなかったんだけど……。


「……なんかごめん」


 俺は藤堂の目に怯えてしまい、自然と謝罪の言葉が漏れる。

 ……ほんと、こいつ怖いよ? 人って、あんな目ができるんだね。

 俺、そろそろこいつらと一緒にいるの辞めようかな?


「それで、真中はなんて言おうと思ったの?」


「ん? ……あぁ、目障りだから消えてくれって言おうとしただけだ。気にすんな」


「気にするよ!?」


 うるさいこのリア充。

 目の前で相変わらず藤堂を膝の上に乗せてイチャついているお前が目障りじゃないと思ってんのか?

 今更だから気にすることでもないだろうに。


「おはようございます、皆さん」


 俺が驚く颯太に肩を竦めていると、ドアが開き教室に耳に残るような声が響いた。


「おはようステラちゃん!」


「おはようございます聖女様!」


「あぁ……今日もかわいいよぉ……」


 それに続いてクラスメイトの挨拶と、気持ち悪い男の声が聞こえてくる。


 はぁ……やっぱり、聖女様が登場するだけでクラスの雰囲気が変わるよなぁ。


 先程まで仲良くお喋りしていた連中は、聖女様が現れるとすぐに会話を止め、聖女様に挨拶をしている。

 ……これは一種の宗教じゃないのだろうか?


「ふふっ、おはようございます」


 聖女様はみんなに挨拶を返すと、自分の席に座るべく、俺達のいる方に————ん? 何でこっちに来る? お前の席は向こうだろ?


「おはようございます、如月さん」


「……は?」


 そして、何故か俺の席の横までやって来て、平然と挨拶をしてきた。

 その事に、俺は思わず驚きの声が漏れる。


「お、おい! 聖女様があんなクズに挨拶したぞ!?」


「どういうことなのかしら? あんなゴミに挨拶するなんて」


「あいつ……もしかして聖女様の弱みを握ってるんじゃないか?」


 ただ挨拶されただけで酷い言われようである。

 ほんとに、君達は同じクラスの仲間なのかね?


「珍しいわね、こんなカエル以下の存在に挨拶するなんて」


「お前も大概だなこの野郎」


 フォローをしようとは思わないのか?

 俺がこんなに傷つけられているというのに。


「えぇ、昨日たまたま話す機会があって、仲良くなりましたから」


「ふーん、そう……」


 聖女様は睨みつける藤堂に臆することなく、いつもの聖女らしい笑みを向ける。

 それを見た藤堂は、面白くなさそうに鼻を鳴らして顔を逸らしてしまった。


「……で、何の用だよ?」


 俺は小さくため息をつくと、顔を合わせることなく聖女様に要件を聞く。


 ……昨日、俺が言ったことを覚えていないわけがない。

 それなのに、わざわざ俺に関わって来るなんて————なにが目的なんだ?


「いえ、ただクラスメイトと仲良くしようと思って挨拶しただけですよ」


「……そうか」


 仲良くしよう……ねぇ。

 昨日あれだけ冷たく言い放ったのに、こんな事を言い出すとは……。

 流石は聖女様……ということなのだろうか?


「それに————」


 聖女様は可愛らしい顔を俺に近づけると、耳元でそっと囁く。


「私は如月さんが気になってしまいました。昨日のお礼もまだですし————覚悟しておいて下さいね」


 そして、最後にもう一度俺に向かって微笑むと、聖女様は自分の席に帰っていった。


 え……? 何で今耳元で言ったの? というか、覚悟って何?


 俺は顔が少しだけ赤くなるのを感じ、立ち去る聖女様の後ろ姿を呆然と眺める。


「……あんた、いつの間にあの子と仲良くなったのよ?」


「本当にね。昨日話したばかりだと言うのに」


 二人が俺に向かってそう言ってくるが、俺は言葉を返すことが出来なかった。



 ……昨日あんな事を言ったのに、聖女様に耳元で囁かれたこと。

 俺は色んな感情が混ざってしまい、ただ呆けることしか出来なかったのだ。



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