聖女様との帰宅(1)
「如月さん、一緒に帰りませんか?」
「は?」
放課後。
授業が終わり、帰り支度を始めた俺に突如隣から聖女様に声をかけられた。
「どうした急に?」
俺は怪訝な顔で聖女様を見る。
その表情はいつもと変わらない聖女の微笑み。何を考えているか全くわからなかった。
「いえ、ただ如月さんと一緒に帰りたいだけですよ? ……ダメでしょうか?」
ダメでしょうか……って言われてもなぁ。
本音を言えばすっっっごく帰りたくない。
あまり聖女様と関わりたくないというのも理由の一つではあるのだが————
『おい、如月のやつ聖女様と一緒に帰るかもしれないぞ』
『おう、コンクリの準備はバッチリだ』
『こっちも、鈍器持ってきたぞ』
……後ろで鈍器片手に物騒な話をしている男たちがなぁ。
怖いんだよね。もう本当に。
さっきから背筋に悪寒が走って仕方がないんですよ。
だから、ここはやんわり理由をつけて断ろう。
俺はまだ死にたくないし、やり残したこといっぱいあるし。
この世との別離を受け入れてたまるか。
「俺、今日は颯太と藤堂と一緒に帰るし————」
「あら、今日は颯太とデートするから一緒に帰れないわよ」
「今日は放課後に用事があるし————」
「ん? 今日は用事ないって言ってたよね真中?」
「ほら、家が反対かもしれないし————」
「では、途中までお喋りしながら帰りましょう」
「………」
おぉい!? 全然断れないんですけど!?
というか、お前らフォローしようとは思わないのか!?
こんなにも一緒に帰りたくないってオーラ出しているのに!?
「……おいっ! どうして助けようとしないんだ!」
俺は小声で帰ろうとしている藤堂と颯太に文句をぶつける。
「いや、たまには僕たち以外の人と帰るのもいいかなって────友達作ろ?」
「その言い方は俺がボッチで寂しい人みたいじゃないか」
俺だってクラスの友達と帰ることぐらいあるわボケ。
お前たち以外の友達だっているわ────後ろで鈍器を構えているけども。
「文句言わないの────それに、これはいい機会じゃない」
「……というと?」
俺は藤堂の発言に首をかしげる。
「一緒に帰る間に、あの聖女様が何企んでいるのかを探るのよ。そしたら、こちらが有利に立てるわ」
………藤堂は何と戦っているのだろうか?
優位になったところで何をしようとしてるの?
……しかし、何を企んでいるか探るのはいいのかもしれない。
どうして急に俺と関わろうとしているのか────ここは知っておく必要がある。
「……OK、探ってみることにするわ」
「えぇ、そうするべきよ。それと、もし聖女様の企みが分かったら────」
「分かったら?」
すると、藤堂は懐から取り出したスタンガン俺に渡してきた。
「これで始末しなさい」
「お前と聖女様の間に何があったんだ……」
どうしてここで始末するという流れになったのか?
何がお前をそこまで突き動かすのか?
というか、何でスタンガン持ってんだよ?
後ろの男共と同じ思考をしてんじゃねぇよ。
「それで、一緒に帰っていただけますか?」
俺達がひそひそと話していると、それを見ていた聖女様が声をかけてくる。
「あぁ、大丈夫だ。一緒に帰ろうか」
俺は聖女様の方を向き、平静を装いながら了承する。
とりあえず、スタンガンは藤堂に返すことにした。
……こんなもの、使うわけがないだろう?
♦♦♦
「あ、如月さんもこっち方面に家があるんですね!」
「あぁ……ということは、聖女様もこっちなのか?」
「はい!」
楽しそうに、聖女様は頷く。
男子達からの殺意の目を向けられながら教室を出た俺たちは、現在帰路についていた。
周りには、俺達と同じく帰路についている生徒たちがちらほら見える。
そして、俺の隣には夕日に照らされて美しく見える聖女様の姿。
……ほんと、今までだったら考えられないよなぁ。
学校で人気の聖女様と一緒に帰ることになるなんて。
……世の中、何が起こるか分からないものである。
「聖女様は、いつも誰と帰ってるんだ?」
「私はいつも一人ですよ。それと────」
聖女様は俺の前に回り込むと、可愛らしく人差し指を突き立てて俺の顔を覗き込んだ。
「聖女様というのはやめて下さい。私には柊ステラという名前があるんですっ!」
「……別によくないか?」
いいじゃん聖女様で。クラスの男子達はみんなそう呼んでいるんだからさ。
「ダメです! 私はその呼び方好きじゃないんです!」
「そうですか……」
可愛らしく頬を膨らませて不機嫌アピールする聖女様。
思わずその頬を人差し指で突っついてみたい衝動に駆られてしまったが、グッとこらえた。
「じゃあ、なんて呼べば?」
「それは如月さんが考えてください」
……うわぁ、めんどくさ。
自分で否定しておいて、他人に呼び方丸投げしやがったよこの子。
仕方ない。
呼び方を考えることにしよう。
「お前」
「却下です」
「あなた」
「ダメです」
「あなた様」
「もう! どうして名前を呼んでくれないんですか!?」
お前が俺に考えろって言ったんじゃん。文句言わないでほしいなぁ。
「……はぁ。じゃあ、柊でいいか?」
「仕方ありませんね、それでいいです♪」
俺がため息をつきながらそう言うと、柊は嬉しそうに納得してくれた。
……はぁ、この子ってこんなこというキャラだったけ?
いつもは誰に対しても同じような笑顔。
それが、今日は何故か喜怒哀楽が顕著に見える。
俺は先に進んでいる柊の姿を見る。
その足取りは、妙に弾んでいるように感じた。
「なんで、そんなに楽しそうなんだよ……」
柊の後ろをついて行きながら、俺は小さく呟くのであった。
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