これからと突撃

「……で、私は何をすればいいの?」


 涙を戻した藤堂が尋ねる。

 一度は出かけたファミレスだったが、再び着席ーーーー新たにドリンクバーにジュースをついできて、話を進めることにした。


「あぁ……とりあえずは誤解を先に解いておきたい」


「誤解……ねぇ?」


 訝しむ目でコーヒーを啜る藤堂。

 その表情は、先程までとは違いいつもの藤堂の顔のように見える。


 いつもの調子が戻ってきたみたいで良かった。


「誤解なのは分かってるわよ。冷静になれば颯太がそんな事するわけないもの。大方、従姉妹か誰かが来て、悪ふざけであぁなっちゃったんでしょ?」


「……そこまで分かるんなら喧嘩なんてすんなよ」


 この子の観察眼は些か鋭すぎる。

 どうしてそこまで分かってるのに喧嘩なんてするのだろうか?


 謎級の謎である。


「仕方ないじゃない……見た時は、浮気された! って思っちゃったんだから」


「気持ちは分かるがな……」


 分かる……分かるんだが……。


「考え無しというか、馬鹿というか、胸が無いというか、短気というか……お前って本当にーーーー」


「殺すわよ?」


「うわぁ……このやり取り久しぶりにで嬉しいって思ってしまう俺がいるわー」


 首筋にスタンガンを当てられた俺。

 命の危険にも関わらず、この状況に不思議と安心感を覚えてしまってる。


「深雪さん……?何してるんですか?」


 俺が懐かしさを感じていると、後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。


「ステラも来たのね」


「えぇ……如月さんが深雪さんを前向きにさせてから来るようにーーーーという話でしたので」


 そう、予め俺に与えられたミッションは『藤堂を元気にさせる事』。

 神無月曰く、「喧嘩した時はみんな元気なくて、相手の事悪く思っちゃうから、まずは前向きにさせて、冷静にさせるんだよ!じゃないと、実際に話し合っても口論になるだけだからね!」との事。

 見事に予想は的中。流石、今時の女子高生である。


「私、如月さんが深雪さんにスタンガンを向けられている姿を久しぶりに見ました」


「俺もそう思ってたよ……」


 命の危機に和みを感じてしまうのは、藤堂がいつもの調子に戻ってくれたからなのか。


「まぁ、落ち着いて下さい深雪さん。きっと如月さんも悪気があった訳ではーーーー」


「いや、悪気100%だったぞ?」


「殺すわ」


「もうっ!なんでそんな事言うんですか如月さん!」


 いや、だってこのやり取り懐かしかったんだもん。

 久しぶりにコメディパート入れれたんだからやりたくなっちゃったの。


 だって最近甘々してたからさ……いや、別に嬉しくないわけでもないけどさ?


「話を早く戻しなさい……でないとーーーー」


「でないとーーーーの先が気になるが……そうだな、話を戻そうか」


 首筋に当てられたスタンガンに両手を上げると、藤堂は懐にスタンガンをしまってくれた。


 ……スタンガンって、乙女の必須アイテムか何かなの?


「とりあえず、藤堂には差し当って颯太との話し合いの場に参加してもらう」


「……颯太と話し合えって事?」


「まぁ、それもあるが……どちらかと言うと、謝罪の場に出て欲しいってところだ」


「謝罪?」


 その通り。

 今回の喧嘩、藤堂も強く当たってしまったのも要因の一つではあるが、元を正せば颯太と従姉妹が変なことをしていたのに原因がある。


 それなら、仲直りをする前に蟠りを取り除いた方がいいーーーーと、神無月が言っていた。


「柊、颯太には伝えて来たか?」


「バッチリです、如月さん!」


 そう言って、胸をポンっと叩く柊。

 決して大きいとはいかないが、その強調された胸がなんとも……おほん!


「ちゃんと、明日如月さんの家で話し合いの場を設けることに成功しました!」


「ちょっと待て柊」


 俺はやりきった感を出した柊に待ったをかける。


「どして我が家なの? 家主の許可とってないでしょ? って言うか、俺そんな話してない」


「いえ、話し合いの場であれば如月さんのお部屋の方がいいと思いまして……」


 話し合いの場を作って欲しいとはお願いした……でも、俺ん家だとは言ってない!

 ファミレスとかでいいじゃん……、うち狭いんだよ?


「颯太に怒鳴った手前……どうにも行きにくいわね……」


 そんなやり取りの間、藤堂が弱気な発言を見せる。


「何を今更怖気づいてんだよ……」


「そうですよ深雪さん。ちゃんと謝って貰って、笑って謝れば許して貰えるはずです」


「ステラ……」


 仲直りには勇気がいる。

 そんなことは分かってるが、勇気を踏み出さないと始まらない事ーーーーだから、


「さっさと仲直りしてイチャつけ。でないと、おちおち眠れやしねぇ」


「如月……」


 藤堂は俯き、しばらく黙り込む。

 そしてーーーー


「行くわよ……私だって、仲直りしたいもの」


 顔を上げ、弱気な表情なんて見せず強気に答えた。


「んじゃ、俺の家なのは甚だ不服だが、明日にでも話し合いの場を作るか」


「そうですね」


 こうして、1人を元気づける事に成功した俺達。


 後は、当日に謝れば万事解決ってもんだ。



 ♦♦♦



「じゃ、ここの支払いよろしくね如月」


「あ、俺が払うんスね……」





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※作者からのコメント


仕事が落ち着いてきたので時間元に戻しました!

度々ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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