喧嘩は意外にもーーーー
翌日。
柊が調整してくれたおかげで、我が家には昼過ぎの明るい時間に、各々集まる事が出来た。
「……」
「……」
未だ言葉を発しようとはしない両者。
颯太と藤堂は、それぞれテーブルを挟んで対面に座っている。
「颯太……言う事があるんだろ?」
「如月くん、ダメだよ!こういうのはお互いのペースって言うものがあるんだから!」
「そ、そうか……」
その沈黙に耐えかねた俺が促そうとすると、ベッドに座る神無月が小声で制してきた。
……すみません。
「まぁ、ここまで来たんですから、後はゆっくりでもいいのではないですか?桜木さんも、しっかりと口にできる人ですから」
優しく諭すような声音で、同じくベッドに腰掛ける柊が口にする。
……まぁ、お前らがそう言うなら黙っとくけど。
「……深雪」
「ッ!?」
それから少しの間が経ち。
颯太が空気を破るように藤堂の名前を呼んだ。
それに対し、藤堂は肩を震わせる。
(頑張れ……)
それはどちらに対して思ったのか自分でも分からない。
自然と、そう思ってしまったのだ。
そしてーーーー
「ごめん」
深々と、頭を下げた。
取り繕った言葉もなく、ただただ謝罪の言葉を残して。
(おぉ……すげぇな、こいつ)
その姿を見て、少し失礼かもしれないが、俺は感嘆してしまった。
謝る時、どこか自分の逃げ道を作る為に別の言葉を残しやすい。
「〜だったけど」とか「本当は〜」など。
謝罪の言葉を濁すものを紡ぎがちになる。
それを颯太は臆面なしに言いのけた。
謝罪だけの言葉を紡いだ。
それに対して、藤堂はーーーー
「うん……」
重たい首肯のみ。
気恥しいのか、それともまだ蟠りがあるのか。
「……事情は分かってる。でも、颯太の口から聞きたい」
「……分かったよ」
そして、一つ深呼吸をした後、颯太は口を開いた。
「僕の4個上に従姉妹がいるんだ。夏休みにたまたま家に遊びに来たんだけど……その、お酒を飲んじゃってて……」
「……うん」
「それで、僕の部屋が見たいって事で中に入れたんだけど……酒の勢いもあってーーーー」
『颯太、あの子とキスしたことあんの?こんな風にーーーー』
「悪ふざけだったと思う。それを見られたからって、全て従姉妹の所為で逃げようとは思わない……何か、埋め合わせもする……だからーーーー」
しっかり理由を話し、そして再び頭を下げた。
「……ごめん。深雪に辛い思いをさせて、イラってしてキツい言葉を浴びせちゃって……本当にごめん」
「「「……」」」
その言葉に、俺達は黙って見ていることしか出来なかった。
余計な口は挟まず、ただ当人達の問題を見守るだけ。
「うん……許してあげる」
藤堂は、颯太を見て笑顔で答えた。
仕方ないと、それでも自分の口から言ってくれたことに嬉しそうでーーーー
「私の方こそごめんなさい……勝手に勘違いして、殴っちゃって、罵声浴びせちゃって……ごめんなさい」
そして、藤堂も同じく頭を下げた。
「うん、ありがとう深雪……」
「颯太……」
そして二人は見つめ合う。
テーブル越しにお互いの手を握って、徐々に顔をーーーー
「柊、塩くれ塩を」
「ふふっ、ダメですよ邪魔しては」
いや、普通に笑ってるけどさ?
さっきまで喧嘩してたのよこの二人?
なのにどうしてこうも甘いの?すぐ甘くしちゃう病気なの?
不思議で胸焼けパーリナイだよ?
でもーーーー
「俺達、結局何もしてないな」
「そうだね〜、冷静になってしまえばこんなもんだよ!」
「そう言うもんかね……?」
仲直りできたんなら俺的にも問題ないんだが……格好つけた手前、こうもあっさり解決してしまうと釈然としないというか複雑な気分だ。
しかし、前回はこんなにもスムーズにいかなかったし、今回は神無月と柊のおかげもあったのだろう。
うん、そうしよう。
「三人とも、ありがとう」
そして、二人の空間から戻ってきた颯太が俺達にお礼を言う。
「私からも、ありがと。……迷惑かけちゃったわね」
藤堂も、少しだけ恥ずかしそうにしながら、俺達にお礼を言った。
「気にしないでください。友達ですから」
「私も全然だよ!二人にはこの前助けて貰ったからね!」
二人も、気にしないでと被りを振る。
その姿を見て、颯太達は再び頭を下げた。
(でも、こうやって何も無しに助けてあげるって、簡単にはできないことなんだよなぁ……)
友達の喧嘩ーーーーだからと言って、ここまでできる奴は限りない。
神無月は夜遅くでも駆けつけてくれたし、柊に関しては休み返上して颯太の元に説得しに行ってくれた。
そこは間違いなく彼女達の美点。
人として、本当に魅力的な部分だ。
(それ以外にも、いっぱいあるけど……)
彼女達には本当に沢山の魅力がある。
だからこそーーーー
(そろそろ……かなぁ……)
意外とあっさり解決してしまった颯太と藤堂の喧嘩も終わり、俺は完結先を考える。
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