めちゃくちゃ気まずいです……

 静寂に包まれてから30分。

 柊からは小さな嗚咽が聞こえなくなり、泣き止んでくれたと分かったのは、しばらく経ってのことだった。

 そして、今では抱き合うことも無く、できるだけ離れた位置で、俺達は床に座っている。


「「……」」


 柊は既に泣き止んでおり、本来であれば「あ、そういえばさー」とか「昼ごはん食べてなかったけど、どうする?」などの会話が生まれてもおかしくないはず!

 しかし!一体なんだこの気まずい空気は!?


 ……あぁ、分かっているさ。

 この気まずい空気が何故生まれているのかくらい。


(やべっ!?すっげぇ、恥ずかしいっ!)


 そう、単なる羞恥心から生まれただけである。


 だってそうでしょ!?

 今、思い返してみればあんなクサイ台詞をよく言えたもんだなって思うよ!?

「俺が守ってやるからさ……」って恥ずかし気もなく堂々と言えたなーって褒めてやりたいよ!


 あの時はなんというか……勢いで言ってしまった節があるからさ……こうやって落ち着いてしまうと、一気に恥ずかしさが生まれるんだよね……。


 柊も柊で、何が恥ずかしかったのか、布団に覆いかぶさって丸まっているし……そして、何故か顔だけ出して震えている。

 ……やばい、小動物みたいで可愛い。


 しかし、いつまで経ってもこの気まずい空気ではよろしくない。

 これだと、これからの関係に影響を及ぼしてしまうかもしれん……。


 ここは男として、率先してこの気まずい空気をどうにかしなければ!


「なぁ……柊」


「ッ!?」


 声をかけただけで、柊の体がビクッと震える。




「風呂に入ろうか」






「………」


 柊は顔までも布団の中に潜り込ませてしまった。


 ……いかん、何故か分からんが台詞を間違えてしまったようだ。

 これではただ単に空気が読めない変態さんだったな。


 俺はただ、この気まずい空気を打破したかったのと、先程抱きしめていた時に、汗をかいていたかもしれないという懸念の元、あのような台詞を言っただけに過ぎない。

 ……これは早急に訂正しなければ。


「勘違いしないでくれ柊」


 すると、ひょこっとだけ、柊は布団から顔を出した。

 若干疑わしそうな目をしているが、ここはきっちり勘違いされないように伝えないと……。




「俺は柊に服を脱いで欲しいだけなんだ」





「………」


 柊は、さらに俺から距離をとるように離れてしまった。


 ……どこで台詞を間違えた?

 今回はちゃんと汗をかいた服を着てると風邪をひくから、その服を脱いでくれと言いたかっただけなのに……。


 ……しくしく。

 いいもん、例え柊に変態だと思われてしまわれようが、支えていくって決めたんだから。



 ……とりあえず、先程の気まずい空気より、状況が悪くなってしまっているように感じるから、何とかしないと。



 仕方ない。

 ここはアンパン〇ンを呼ぶしかないようだ。


 俺はポケットから携帯を取り出した。




 助けて、アーンパーン〇ーン!



 ♦♦♦



「「何、この空気……」」


「………助けて」


 そして、数十分後。

 気まずい空気は未だに続いており、何とか打破できそうなヒーロー、藤堂と颯太を召喚することにした。

 何故か、2人は声を揃えて驚いていたが、そんなことよりも早くこの空気を何とかして欲しい。


「真中、一体何があったの?」


「……助けて」


「助けてって言われても……」


 頼むよぉ……親友じゃないか……。

 親友のピンチを助けてくれよぉ……。


 この空気、もう耐えられないんだ……。

 後、どうにかして柊の誤解を解いて欲しい……。


「ねぇ、ステラ?布団の中で丸まって、どうしたのよ?」


 一方で、藤堂はベッドの端で丸まっている柊に話しかけに行った。


「じ、実は————」



 ♦♦♦



「如月、歯を食いしばりなさい」


「待て待て待て」


 現在、俺は金属バットを持った藤堂に追い詰められていた。

 おかしい、俺達を助けてくれるヒーローを呼んだはずなのに、どうして俺が倒されようとしているんだ?


「誤解だ、藤堂」


「何が誤解なのよ?……言ってみなさい?特別に一言だけ弁明を許すわ」


「……一言だけなの?」


 今時の裁判でももうちょい弁明させてくれると思うが……。

 まぁ、一言あれば十分だろう。


「あぁ、実は———」


「弁明終了ね、歯を食いしばりなさい」


「まだ「実は」しか言ってないだろう!?」


 横暴すぎないこの子!?

 何の弁明も出来ずに処罰されるなんて、魔女裁判じゃないの!?


「だって、女子に風呂に入るかと誘った挙句、服を脱げだなんて、完璧にセクハラじゃない」


「確かに、それはセクハラで訴えられても仕方ないよね……」


「それは誤解だ。俺はただ、色々あって汗をかいただろうから、自分の部屋に行って風呂に入って来いって言ったつもりだし、服を脱げって言ったのも、風邪をひくかもしれないと心配してだな……」


「言葉足らずにも程があるでしょうが!」


「いだぁい!?」


 どうして殴るのさ!?

 俺はただ柊を心配してのことだと言うのに!?


「……はぁ。だそうよステラ」


 藤堂は大きなため息をつき柊に向かってそう言うと、聖女様はおずおずと布団から顔を出した。


「そ、そうだったんですか……」


「今回は如月が全面的に悪いけど、ステラもしっかりしないとダメよ?」


「は、はい……すみません」




 ……誤解は解けた……のか?

 何故か俺だけが悪いみたいな言い方をされているが、誤解が解けたのなら良しとしよう。


 ……あぁ、頬が痛い。

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