体育祭の休憩

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 なんだかんだ競技が進み、昼休憩となった。

 普段の授業に比べ、体育祭というのは刺激があって楽しいものだ。

 なので、「もう昼休憩?」みたいな感覚に陥ってしまうのは仕方ないだろう。


 というわけで、生徒は今のうちにご飯を食べることに。

 高校になって少し変わったのは、この段階で保護者と一緒に食べないことだろう。


 だから、俺達はいつも通りに自分達の教室に集まって、これまでの感想を語らいながら昼食を取っていた────


「おいコラてめぇ!? ラフプレーにも程があるだろうがァァァァァァァァッ!!!」


 俺の叫びが木霊する。

 にもかかわらず、叫びを向けている本人は平然と食事を取っていた。


「何よ? ちゃんと言ったじゃない?」


「事前に告知すれば許されると思うな!?」


 蘇る、四の地固めの痛み……関節が、何故か今でも痛い。


「まぁ、まぁ落ち着いてよ真中……」


「お前も止めんかい! 愛しの彼女が懐から撒菱を取り出したんだからさぁ!?」


 宥めようとしてくる颯太が異様に腹立つ。

 彼女の手網ぐらいちゃんと真面目にしっかりと握ってほしい。


「……まぁ、仕方ない。とりあえず赤組が勝っているから許してやろう」


 現時点で、赤組の点数は白組を上回っており、このまま上手くことが進めば赤組の勝利だ。

 俺の活躍……俺の! 活躍! のおかげもあるだろうが、諸々他の赤組が奮闘してくれたおかげだろう。

 神無月も、騎馬戦では大活躍していたしな。


 ……卑劣な手を使ってまで負ける姿を想像すれば、今は大人しくしておいてやらんこともないと思った。

 最後は藤堂の目の前で滑稽だと笑ってやろう。きっと物凄い悦楽に違いない。


「大丈夫よ……まだ颯太が参加してないから」


「ほほぅ? 颯太が参加すれば勝てる、と?」


「もちろんよ」


 藤堂が颯太を見て胸を張る。

 相変わらず、彼氏に対しての信頼が重いぐらいに強い奴だ。


「あれ? 桜木くんって運動得意なの?」


 一緒に食べていた神無月が颯太に尋ねる。


「いや、それほど得意ってわけじゃないんだよね」


 深雪がそう言っているだけだよ、と。颯太は苦笑いを浮かべた。


「……ハッ! お仲間の匂いがしました!」


「大丈夫だ、柊……お前の苦手と颯太の苦手はレベルが違うから」


 極端に凄いわけではなく、颯太はそこそこできる部類だからな。

 普通に謙遜というやつだろう。


 俺がそう言うと、柊は「うぅ……お仲間さんだと思ったんですけど」と、落ち込んでいた。

 そこまで同類がほしいのかね、このハーフさんは?


(別に気にすることでもないっ言ってるんだがなぁ……)


 まぁ、こう言っているがそこまで深くは落ち込んでいないだろう。

 何となく声音で分かる。


「そういえば、確か次は応援合戦じゃなかったっけ?」


「あー……確かそうよね。中央に向かって何かするやつ」


「今時、応援合戦っていうのも変だよねぇ」


 神無月の言う通り、この歳にもなって応援合戦というのも変な話である。

 どうやら、三学年が仕切ってそれぞれのモチベーションを上げるために円陣とか組んだりするのだが、そういうのは中学生で終わりのイメージがある。


 いい歳になって何やってんだ? というのが俺の見解ではあるのだが────


「何を言っているんですか!? 応援合戦、凄くいいと思います!」


 柊が机を叩き、皆に向かって意見する。

 そのせいで弁当の中身が零れそうだったので、寸前でキャッチしておいた。


「あら、ステラは好きなの?」


「はいっ! 学ランを着て応援する姿が、何故か好きなんです!」


 とりあえず、特に根拠もないような理由であった。


「なので如月さん……」


「待て、柊。その発言のあとにこちらを向くな」


 俺に着ろってか? 学ラン着て応援しろってか? 恥ずかしくてやりたくねぇわ。


「如月くんの学ラン姿……」


「神無月もこっちを見るんじゃありません」


 どうしてそんなに着させたがるの?

 嫌だよ、普通に恥ずかしいよ。俺ってば、学ラン着て鉢巻を巻いて元気よく応援するタイプじゃないのよ。


 それに────


「応援する人間ってもう決まってるだろ? だから俺はしねぇよ」


 応援団は、すでにクラスから二名ほど選出して決まっている。

 ここにいる面子は全て応援合戦には参加しないのは、初めから分かっていることだ。


「うぅ……如月さんの学ラン姿が」


「如月くんの学ラン……」


「なぁ、颯太? どうしてこいつらは急に学ランに目覚めたんだろうな?」


「さ、さぁ……人には、それぞれ趣味があるから」


「……颯太。私も、颯太の学ラン見てみたいわ」


「深雪まで何言ってるの!?」


 どうやら被害は颯太まで及んでしまったとは。

 こんな状況を味わって、初めて女の子は学ランが好きなのだと理解した。


 しかし、それも意味のない話。


「まぁ、今更言っても仕方ないだろ? 学ランを着る奴は決まってるんだし、俺達が着ることなんてない」


 ♦♦♦


 それから昼休憩が終わり────


「何故だ……ッ!」


 体に伝わる感触は、どこかごわごわしたもの。

 半袖短パンの姿から、袖口まで熱が籠るような不快感。


 視線を下に下げれば……黒い服が視界に入ってしまった。


「だからどうして俺が学ランを着ているんだ……ッ!!!」


 どうしてか、俺は学ランを着ていた。

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