帰宅————そして、新たな厄介事

 揺れる車内。

 外の景色は一瞬にして場所を変え、新しい場所を映し出してくれる。

 通りには、弁当を運んでくれる人の声が何度も行き来していた。


 何だかんだあった二泊三日の里帰り。

 それを終え、俺達は現在新幹線で地元の町まで帰っている。


「……すぅ」


「……」


 三人掛けの席の隣では、俺をはさむように寝息を立てる少女達。

 二人共、意外とこの小旅行が疲れたのだろう。今では完全に夢の世界へと入ってしまっている。


(本当に……いろいろあった……)


 柊と神無月の寝顔を見て、俺は感慨深くなる。


 一緒に実家に泊まった。

 宮島にも行った。

 プールも行ったし、夏祭りも見て回った。


 そして————


(よく、俺がこんな可愛い子に告白されたよなぁ……)


 告白された。


 少し前なら考えつかなかったことだ。

 初恋相手が忘れられず、恋と言うものに踏み切れず、しがらみのあった日々。


 それがいつの間にか変わっていき、俺の知らぬ間に彼女達の想いを変えて————


『如月くん。大好き。本当に、大好きだよ』


『……大好きです、如月さん。こんな涙が流れてしまうほど、貴方が好きなんです』


 ————今でも思い出せる。

 彼女達に言われた言葉。想いの丈を込めた真っすぐな気持ち。

 好きだと、二人とも伝えてくれた。


 そんな彼女達に、俺はまだ応えきれていない。


『ありがとう……二人の気持ちはすっごい嬉しい。これだけは本当で、飾りっ気のない俺の本心だ』


『でも、もうちょっとだけ待って欲しい……。待たせてしまうけど、自分の気持ちを整理させて欲しい』


 情けないさ。

 あの花火が打ち上がる高台で、彼女達に告げた応えが保留なんだから。


 俺は、まだ彼女達をどう思っているのか分かっていない。

 知り合いでも他人でもなく————大切な人。


 けど、それは果たして『好き』なのだろうか?


 それが、自分の中で分かっていないんだ。


 応えは、必ず出す。

 彼女達が勇気を振り絞って告げてくれたんだ————俺がそれに向き合わないでどうする?


 だからこそ、俺なりに納得して、後悔のない応えを出したい。


『うん、私は大丈夫だよ……ちゃんと、待ってるから』


『如月さんが満足いく応えを出した時で構いません————その時に、お返事をください』


 そんな情けない俺に、二人は笑ってそう言ってくれた。

 焦らなくていいと、考えて応えを教えて欲しい。


 その言葉は……嬉しかった。

 でもダメだ……嬉しいと感じてしまう俺が、みっともない。


「好きって……何なんだろうな?」


 初めて抱いたあの気持ち。

 神無月に抱いた時の初恋は、こんな味をしていただろうか?


 今の俺の気持ちは……その時の味をしていない。

 それ以上に、もっと心地よいもの。俺の心には、二つの色が俺の心を満たしているんだ。


 ゆっくり……ゆっくりと考えよう。

 それでいて、彼女達を待たせすぎないような応えを————しっかりと。


 人は、選択を迫られた時に必ずしも迷ってしまう生き物なのだとか。


 分かっていて、自信満々に思っていても、選択肢を迫られれば違う可能性を考えてしまう。

 それが、後悔へとつながるのだ。


 理屈、理論、考察————それによって導きされた応えには己の意思など含まれていない。

 だからこそ後悔する。


 己の意思は、正しい答えでも間違った道に行きたがるのだから。


 選択に、正解はない。

 そんな言葉を、誰か言っていたような気がする。


 理論的に正解な道を選んでも、意思は間違った道を正解とするのだから。


 だからこそ考えろ。

 間違ってもいいから、己が悔いの残らないような選択肢を。


「颯太に相談してみるか……」


 応えを求めるわけじゃない。

 ただ、参考としてどうやって藤堂と付き合ったのか聞いてみるのもいいかもしれないと思ったから。


 それに、藤堂にも相談に乗ってもらおう。

 女の子の気持ちは、実際に女の子に聞いていみるのが一番参考になるのだから。


 己が満足いく応えを、見つけるために。


 そうと決まればと思い、俺はスマホを取り出す。


 颯太と藤堂には、俺達が実家に帰っていることは伝えてある。

 帰宅の報告を含め、少し相談してみよう。


「……ん?」


 スマホの画面を開くと、二通の通知が目に入る。

 差出人は藤堂と颯太。


「……何かあったのか?」


 ほぼ同じ時刻に送られてきた通知。

 こんな示し合わせたようなメッセージに、少し違和感を感じてしまう。


 普段、あいつらとはよく連絡をとっているのだが、この里帰りの間は連絡していなかったし、連絡が来なかった。


 それが、今日久しぶりに来たのだ。

 ほぼ同時刻で。


 しかし、向こうから連絡してきたのは好都合なのかもしれない。

 少し遊びに行くついでに、相談に乗ってもらおう。


 そう思い、二通の通知画面を開く。


 そして————


『颯太:真中。僕、深雪と喧嘩しちゃった……』


『藤堂:どうしよ、如月……。私、颯太と喧嘩しちゃった……』



 物事とは、必ずしも想定道理にいくとは限らない。


 こんな物語は、一つのイベントが終われば再びイベントが現れるのだから。



 如月真中の物語は、奇しくも新しいイベントを呼び起こす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る