組を決めよう


この度、今作―――『初恋を忘れられない俺に、助けた我がクラスの可愛い聖女様が近づいてくる』の書籍化が決定いたしました!

完結後再開…そんな中でも、ここまで読んでくださった皆様のおかげだと思っております!

レーベルはファンタジア文庫様…のちの情報は、追ってお話しさせていただきます💦


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 一週間後までに決めておかない。

 期限という言葉は嫌いだ。縛られているような気がして本当に嫌い。

 だから期限があるものは早急に倒しておくに限る。


 そういうわけで翌日。

 とりあえず、ほっぽり投げやすい我が担任にホームルームの使用許可を求め、体育祭の決め事をやることになった。


『あ、私紅組だ!』


『私は白!』


『じゃあ、私達敵同士だね!』


 なんていう女子の会話が教室に響き渡る。

 むさくるしい男共とは違って熱量こそないものの、やはりこういった行事は楽しい側面もあるようで、女性陣は楽しそうな様子を見ていた。


 教壇の上に置かれてあるのは、二つの大きな箱。

 とりあえず、種目決めの前に紅組白組だけは決めておこうと考え、こうして皆で決めていくようにした。


 男女別に均等になるようにくじを箱の中に入れ、それぞれが勝手に引いていく。

 箱の横には紅組と白組に分けた紙を置き、引いた者はそこに自分の名前を記入する。


 下準備さえ済ませておけば、こうした選び事もスムーズに労力を使うことなく済ませられる。

 故に、皆が決めていく中……俺は机に座って遠巻きにその様子を眺めていた。


「楽だわぁ……」


「本当ですね。これならあっという間に決まっちゃいます」


 横で柊が小さく笑う。

 ちょっと笑っただけで可愛い。もう、どうしてくれようかしら?


「勝手に盛り上がってくれるおかげで進行の必要はなし。皆も受動的に紙に書いてくれるから纏める必要もない。あらかじめくじの入れ替え行為を禁止にしておけば不正もない—――くっくっく……我ながら完璧な手腕」


「こういった面倒事を避ける知恵だけは働くよね、真中って」


「仕方ないわ、クズだもの」


 一緒に傍観していた二人が褒めてくれなかった。

 藤堂に関してはただの罵倒じゃんよ。


「けど、意外と女子の方は盛り上がってるよね……」


「こういうイベントは男女問わず楽しくなるものよ」


「じゃあ、深雪も?」


「もちろん、だってどんなラフプレーも笑って許される機会だもの」


「ラ、ラフプレーはやっちゃダメですよ……?」


「安心しなさい、ステラ……私がするのは男子限定なの」


 横で聞いていると、切に藤堂と同じ組になりたいと思った。


「それにしても、先程からくじを引いているのは女子ばかりですね」


 光景を眺めていた柊が不思議そうに首を傾げる。

 確かに、現在進行形でくじを引いているのは女性陣のみ。

 男子勢は揃いも揃って大人しくその光景を見守っていた。


「まぁ、当然だろ」


「ふぇっ? どうしてですか?」


「いいか、柊……男共の目をよく見てみろ」


 あの、血肉に飢えた猛獣のごとく虎視眈々と獲物を狙っているような目。

 あれは間違いない……狙っている。


「あれよ、ステラと同じ組になりたいがための行動なの」


「あぁ……そっか。柊さんがくじを引かないと、どの組を願うかが変わるもんね」


「どうして私と一緒の組になりたいのでしょうか? 私、運動が得意ではないですよ?」


「君はそろそろ己の人気に気がついた方がいい」


 あの男子達の瞳がいい証拠だろう。

 本当に……変な目を向けんな。ぶっ殺すぞ?


「私は如月さんとお二人と同じ組がいいですっ!」


「よし……先陣を切れ、颯太」


「どうして僕が……はぁ、まぁいいけどね」


 柊の願いを叶えるためにも、お前が基準を作るんだ。

 そして、頑張って俺達もその組になれるように頑張ってくじを引くから───いや、くじに頑張るもクソもなかったな。


(まぁ、全員が同じになれる前に、とりあえず柊と同じ組になることだよな)


 サポートするって決めたしな。

 同じ組になる方がサポートもしやすいし、楽しい体育祭になるはずだ。


「ねぇ、如月……そろそろ教えなさいよ」


「何を?」


「当然あるんでしょ……くじの結果を操作する方法が」


「ねぇよ」


 不正なしって皆に言ったばかりだろうが。

 何を言ってんだ、こいつ。


 そんなことを話していると、男子組の先陣を切った颯太がくじを引いた。


「あ、白組だ」


「いくわ……白をもぎ取りに」


 颯太が口にした瞬間、どうしてか横から物凄い圧を感じた。

 目が据わっており、見えない闘志が溢れている鬼神がごとく。


 その姿は……藤堂深雪という少女の姿と被って見えた。


「す、凄い気迫です……っ!」


「よっぽど、颯太と同じ組になりたいんだろうなぁ」


 気迫があろうとなかろうと、くじに影響は与えないんだが……。

 まぁ、やる気があるのはいいことだ。例え、周りの女性陣が怯えたような目で見ていたとしても。


 そして───


「……ふっ」


 くじを引いた藤堂のドヤ顔が見れた。

 恐らく、綺麗な白を引けたのだろう……よかったな、颯太が若干引き気味になっているけどよかったな。


「じゃあ、俺達も引きに行くか」


「そうですね」


 俺達は一斉に立ち上がり、教壇にあるくじの下へと向かう。

 その時、不意にポケットに入っていたスマホが振動した。


 とりあえず、スマホの画面を開いてみると───


『私、紅組!Y(><。)Y』


「おぉう……早速柊の願いが叶わぬことに」


 皆という言葉の中には、神無月も入っているはず。

 しかし、こうして早々に神無月がこのようなメッセージを飛ばしてきたということは、同じにはなれなかったという証拠。


 ……ままならないものである。

 


「ん……っしょ……」


 くじが少なくなってきたのか、柊が少しだけ身を乗り出して箱の中に手を突っ込む。

 そして、しばらく箱の中で逡巡したのち、勢いよくくじを引っ張り出した。


「あぅ……紅組です」


 柊が、引いたくじを見てしょんぼりとする。

 そのくじは藤堂と颯太とは違う色。

 神無月と同じ組だということは知らないため、そのように落ち込んでしまったのだろう。


「まぁ、仕方ないよね……」


「やるからには本気で行くわよ、ステラ」


「うぅ……お手柔らかにお願いします」


 教壇でくじを引き終わった三人。

 柊だけが、その顔に覇気がない。

 まぁ、二人は同じ組になれたんだし、一人の状況であれば落ち込んでしまうのも仕方ないだろう。


「さて……クズ達が動く前にくじを引きますかね」


 聖女様が引いたことによって動き始めるであろう男共。

 紅組のくじがなくなってしまう前に動かなくては。


 そんなことを思い、早足でくじの下に向かって箱の中に手を伸ばす。

 そして───


「よっし、紅組じゃ」


 くじの結果は紅。

 そのことに、思わずガッツポーズをしてしまった。


「わぁっ! 如月さんが紅組です!」


 嬉しそうに破顔させる柊。きっと、一人の不安がなくなったからだろう。

 それを見て、心の底から嬉しさとモチベーションが湧き上がってきた。


「よろしくな、柊」


「はいっ! 心強いです!」


 だけど───


「これでラフプレーに遠慮することはなくなったわね」


 どうしてか、そう呟いた藤堂の言葉にモチベーションがダダ下がりしたのであった。

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