柊のできる一面

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 えー、組も順調に決まったわけですが、どちらかといえば種目決めの方が面倒なわけです。

 運動が苦手な人、ちょっと目立ちたい人、運動神経がいい人。

 それぞれがやりたい種目があり、意見が食い違うことも多々。その中で、限られた枠を決めないといけない。


 考えるだけでも億劫だ。

 委員長とか、あまり柄ではない人間からしてみれば、こういった取りまとめは一番の憂鬱―――様々な意見が飛び交って時間がかかるんだろうなぁ……って、思ってました。


「では、赤坂さんと木原くんは借り物競争で……あぅ、一枠あまっちゃいました」


『はいっ! じゃあ私がやるよ!』


「わっ! ありがとうございます、田畑さん!」


 ……。

 ………。

 …………。


「では、学年別リレーなんですけど……どうしましょうか?」


『ふっ……ここは俺達に任せてくれ、柊さん』


『運動部で、それなりに足も速い』


『人数もぴったり、組も分かれているしな』


「皆さんも、問題ないでしょうか?」


『『『『『ないです!!!!!』』』』』


 ……。

 ………。

 …………。


(あれ、俺いらなくね?)


 キュッキュ、と。チョークから落ちる白い粉を浴びないように気を付けながら、そんなことを思う。

 淀みなく、種目枠が決まっていく。あんなにいっぱいあった枠が、あっという間に綺麗に埋められてしまった。


 それを、俺は筆記役として黒板に書き記していく。

 声を拾い、柊の進行に合わせるだけでこの通り―――あと少しのみ。


(おかしい……一番苦戦するかと思ってたのに)


 組決めとは違って、こればかりは枠を取り合うはず。

 なのに蓋を開けてしまえば、皆が率先して枠を選び、譲り合い、名乗りを挙げていく。

 不満に思う生徒がいるのかなと、教室を見渡してみるものの、皆の表情は「体育祭楽しみ」と「柊さん可愛い」、「迷惑をかけるな」というものだけで、「無理やりさせられた」とか「面倒くさいな」といったものがなかった。


「如月さん、学年別リレーは立花さんと、榊さん、桜木さんで、女子は深雪さんと白鳥さん、羽田さんになりました」


「……おぅ」


 なんだろう……この惨め感。

 男なのに、情けない感。


 俺、種目決めにかんしてはまだ一言も喋ってない。

 組決めの時はそれなりにいい案を出せたような気がしたのに、ここではまったく役に立ってない。


 ……ぐすん。


「どうしたんですか、如月さん? 目尻に涙が浮かんでますよ?」


 情けなさに打ちひしがれていると、柊が顔を覗き込んで心配してくる。

 嬉しくて、柊の顔が近くにあるからドキドキするはずなのに―――


「嬉しくなぃ……!」


「え、えーっと……何がです?」


「柊が近づいてくると、いつもは嬉しいはずなのに……今は悔しいっ!」


「わ、私は喜べばいいのでしょうか……?」


 柊が、困ったような顔を見せる。

 こ、これは……できる子故の苦笑なのだろうか?


「そういえば、もう決まっちゃいましたけど……他には何を決めればいいでしょうか?」


 チラリと黒板を見る。

 すると、いつの間にか全ての種目も枠が埋まってしまっていた。


 ……どうして、柊はこうも優秀なのだろうか?

 いつもはどこか抜けていて、おっちょこちょいだと思ったのに。


 そういえば、前に生徒会に入ってたって言ってたっけ?

 であれば、中学時代はこうしたとりまとめをしていて、その経験がこうして活かされているのだろうか?


 進行はスムーズ……ではなかったように思える。

 だけど、柊の人望と人気がクラスの皆のいざこざを失くし、最大限の協力を仰いでいた。


 だから、こうして何事もなくあっという間に終わってしまったのだろう。

 俺が進行すれば、多分こうも早く終わらなかったに違いない。


「……帰ったら、柊の好きなものを一緒に作ろうか」


「質問のボールが明後日に飛んで行ってしまったような気がしてならないですが……それは嬉しいので「はいっ!」って言っておきます!」


 素直な子は大好きだ。


「まぁ、話を戻せば……今は正直ないな。あとは俺達が決めたものを纏めて提出すればオーケー」


「それは桜木さんにお願いしておきました。そうすれば、あとは楽かなと思いまして」


「……うん、じゃあもう終わろっか」


 いけない、俺の目の前にいる女の子が優秀に思えてきた。

 運動もできなくて、勉強もできないおっちょこちょいが魅力の女の子だったのに……眩しすぎるっ!


「皆さん、今回はこれで以上です! お疲れ様でした!」


『『『『『お疲れ様でした~!!!!!』』』』』


 柊が皆に向かって解散を促す。

 それに対し、皆は統率がとれた兵隊のごとく返事を返していった。


 ……これはなんというか、カリスマ性?

 それとも、アイドルとファンという構図なのだろうか?


 それにしても――――


「ふふっ……私だって、やればできるんですよ? これで、少しは見直していただけたでしょうか?」


 蠱惑的な笑みを、柊は俺の顔を覗きながら向けてくる。

 それがどうにも「してやられた」と思わせてしまい……それと同時に、俺の心臓も跳ね上がってしまった。


「……はいはい、凄いな柊は」


「えへへっ……」


 跳ねあがってしまった心臓を誤魔化すかのように、皆に気付かれないように柊の頭を撫でる。

 柊は、どこか嬉しそうに頭を委ねていた。


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