聖女様とお昼(1)

「真中、お昼ご飯食べようよ」


「おう、いいぞー」


 我が友達から凄まじい猛攻を受け、身体中に痣を作りまくった俺も、何とか午前の授業を乗り越えやって来た昼休憩。


 そして、弁当を広げようとした俺の元に颯太がやって来た。


「……あ、真中は今日弁当なんだね」


「ってことはお前は学食か」


 おっと、どうやら颯太とは昼ごはんが別れてしまったようだ。


 ……どうしようかな?別に学食に行ってもいいけどさー。


「あら、如月は今日は弁当なのね」


 それに続いて藤堂も俺の元にやってくる。


「あぁ—————というか、俺は大体弁当だろうが」


「ははっ、そうだったね」


 颯太は何が面白かったのか、小さく笑った。


 ……ほんと、イケメンの笑みって見るだけで吐き気がするよね。

 俺達に見せつけちゃってさ。そんなに自分の顔がいいですよ〜って自慢したいのかしら?


「……颯太なんて死ねばいいのに」


「どうして!?」


 うるさい、お前がイケメンなのが悪いんだろうが。

 イケメン罪で牢屋にぶち込まれてしまえばいいんだ。


「如月さん、そんなこと言ってはいけませんよ?」


 すると、俺の妬みの言葉を聞いた柊が俺たちの元にやって来た。


「……そうは言うが、こればかりは仕方ないんだ」


「何がです?」


「俺……実はイケメンが嫌いなんだ」


「ただの嫉妬じゃない」


 そう言って、藤堂が呆れて肩をすくめる。


 おい、この前も俺と同じような発言しただろうが。

 何自分のことを棚に上げてんだコラ?


「それでステラは私達に何か用かしら?」


「えぇ、お昼ご飯をご一緒させていただけないかと思いまして」


「そう?別にいいんじゃないかしら?」


「ありがとうございます深雪さん!」


 柊が両手を合わせて喜んだ。


 ……おい、何勝手に決めてんだよ。

 別に、嫌だって言う訳じゃないが、勝手に決められるのもそれはそれでどうなのかと思う。


 —————それに、


「お前ら、いつの間に名前で呼び合うような仲になったんだ?」


「まぁ、朝話した時に仲良くなってね」


「そうなんです!深雪さんとはお友達なんです!」


「そ、そうか……」


 さっき2人は一体何を話していたのだろうか?

 ……込み入った話なのだと思うが、どうしても気になってしまう。


「……はぁ、じゃあ学食行くか」


 俺は小さくため息をつくと、ゆっくり腰をあげる。


「学食でいいの?柊さんが弁当を持ってきているかもしれないし……」


「いや、大丈夫だ。だって柊は料理できないしな」


「ま、待ってください如月さん!何で言っちゃうんですか!」


 俺が苦手を2人に暴露すると、柊は顔を赤くして俺の胸をポカポカ殴ってくる。

 ……うん、全然痛くないや。

 しかも、本人は一生懸命殴っている所為か、その姿が大変可愛らしい。


「だって、本当の事だろ?」


「で、ですけどぉ……」


 別に、取り繕ったところでいつかバレるのだからいいだろうに。

 何を隠そうとしているのか、この可愛い聖女様は?


「……ねぇ、深雪?なんか僕が思っている聖女様とイメージが違うんだけど?」


「……そうなのよ。私も驚いたけど、どうやらこっちが素みたい」


「……こっちの方が接しやすくていいね。これは真中の影響なのかな?」


「……そうだと思う」


 俺が柊に叩かれている間に、何やら2人はヒソヒソと話していた。


 ちょっとー、そうやって内緒で話されたら気になっちゃうんですけどー!

 悪口じゃないかって心配になっちゃうんですけどー!


「柊さんって料理苦手なんだね」


「うぅ…っ!………はい」


 颯太に料理のことを聞かされると、柊は言葉につまり、渋々肩を落として認めた。


「まぁ、これから料理は覚えればいいんじゃないかしら?別に一人暮らしをしているわけじゃあるまいし」


「いや、こいつ一人暮らしだぞ?」


「え、そうなの?」


「み、見ないでください……」


 柊は俺の後ろへと隠れる。

 その姿を見た藤堂は目を白黒させていた。


「柊は一人暮らしには欠かせない『料理』が出来ないんだよ。俺も初めて聞いた時は「え、マジ?一人暮らし出来んの?」と思ったくらいだ」


 ほんと、人って見かけによらないよね。

 意外となんでも出来そうな聖女様は実は料理+暗い、が苦手ときた。

 ……今でもよく一人暮らしできるなって思うわ。


「き、如月さんこそお掃除できないじゃないですか!一人暮らしには欠かせませんよね!」


「掃除が出来なくても生きていける!一人暮らしには料理が出来れば十分なんだ!」


「違います!ちゃんと綺麗にしないと病気になってしまいますよ!お料理より掃除ができる方がいいんです!」


「いや、生きていくには料理だろ!掃除はハウスクリーニング呼べば解決するからな!」


「それは頻繁には呼べないではありませんか!その分料理は外食すれば問題なしです!」


「外食ばかりだと栄養が偏るだろうが!」


「そ、そうかもしれませんけど……と、とにかくお掃除が大事なんです!」


「料理だね!」


「お掃除です!」


「料理!」


「お掃除!」


 どうしてこの子は分かってくれないのかね!?

 料理が1番に決まっているだろう!?

 外食ばかりだとお金もかかるし、自炊できた方がいいに決まっている!


 そして、俺達は至近距離でお互いを睨み合う。

 自分の主張の方が正しいのだと、アピールするかのように。


 間近にある柊の顔は不満げにほっぺを大きく膨らませている。



 ………触ってみたい。


 俺はそんな触りたい衝動に駆られてしまった。


 ………ちょっとぐらいはいい……よな?


 そう思い、指で柊のほっぺを触ってみる。


 ぷにっ


「な、何をしてるんですかっ!?」


 そして、それに驚いた柊は顔を赤らめ、俺から勢いよく離れる。


「い、いや……ちょっと突ついてみたくてさ」


「も、もういきなりやめてください!」


「いきなりって言うことは、予め言えば触らせてくれると?」


「—————ッ!?ち、違います!」


 顔を真っ赤にして否定する柊。


 ……うん、やっぱり柔らかかったな。

 大変素晴らしい感触でした、ご馳走さまです。



「……私達って何見せられてるのかしらね?」


「……さぁ?まぁ、二人が仲良さそうで良かったよ」


「……ほんと、これでよく私達にイチャつくなって言えるわよね」



 俺達がそんなやり取りをしていると、何やら二人が疲れた様子で話していた。

 ……どうしたのか?だから内緒話はやめて欲しいと言っているのに。


 ほんと、これだからカップルは困るんだよね。


 俺はまた柊に胸を叩かれながらも、二人を見てそう思った。





 結局、俺は弁当を今日の晩御飯にすることにして、学食を食べることにした。

 ……だって、3対1だと負けちゃうからね。

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