ゲームの勝利は

「如月さん、私と一つ勝負をしませんか?」


 俺の頭を撫で終わり、満足げにしていた柊が突如そんなことを言い出す。


「勝負というのは……このゲームか?」


「はい、このゲームで順位が上だった方が勝ちというのはどうでしょうか?」


 ……ふむ。


 俺は顎に手を当てて考え込む。

 普通に考えれば、先ほどまでの結果を踏まえても実力差は明らか。

 俺が勝つことは間違いないだろう。


 しかし、何だこの違和感は?

 隣で提案してきている柊は何故か自信満々だし、何か裏があると考えてしまう。

 ……しかし、一位になるには実力が一番反映される。


 ならば、例え柊が裏工作をしてこようが、負けることはほとんどないだろう。


「いいだろう、その勝負乗った」


「ふふっ、ありがとうございます」


「して、勝った方は何かあるのか?」


「そうですね……『勝った方は何でも一つ言うことを聞く』というのはいかがでしょうか?」


「な、何でも……ッ!?」


 俺はその言葉を受け、思わず柊の体に視線を動かしてしまう。


 何でもということは、あんなことやこんなこともお願いしてもいいということか!?

 例えば、細くも綺麗な太ももを使って膝枕とか、意外と膨らみのあるあの胸を触らせてもらったり————いや、流石にそれはまずいな。


 俺は一人前の紳士。

 例え何でもお願いできると言っても、そんないかがわしいお願いはするわけもない。

 そんなことをしたら、柊に嫌われてしまうかもしれないし、俺が「そこまで本気になって欲望を叶えたい変態」という扱いを受けてしまうかもしれない。

 だから——————


「俺が勝ったら、生足で膝枕ね」


「どうしてそんなことを満面の笑みで言えるのですか……」


 我慢できませんでした。

 そのおかげで柊が足を閉じて一歩下がってしまったが、これは仕方ないだろう。

 だって、膝枕してもらいたいんだもん。全思春期男子の夢だもん。


「ま、まぁ……膝枕ぐらいなら…」


「ん?なんか言ったか?」


「い、いえ!何でもありませんよ!?」


 確かに何か言っていたような気がするのだが……まぁいいか。


「じゃあ、早速やるか」


 俺はレース会場を選択し、ゲームを始める。

 俺は内心やる気に満ち溢れていた。


 ふっふっふ……見てろよ柊。

 俺が勝って、絶対に膝枕してもらうからな!



 ♦♦♦



「やりました!一位です!」


「馬鹿な……!?」


 俺はテレビ画面前で膝をつく。

 そこには2位と表示された俺のキャラクターの姿があった。


 おかしい!?

 どうしてこの俺が二位になってしまったというのか!?


 あのゴール直前の赤甲羅……すべてはあれが原因なんだ!

 一体だれが…!?———といっても、犯人はすぐ隣にいるのだが。


「貴様…ッ!最後の最後にあの赤甲羅を…!」


「ふふん!如月さんなら余裕を見せて序盤から一位を維持すると思っていたので、最後にぶつけたら勝てると思ったのです!」


 そう言って、誇らしげに胸を張る。

 それによって、少し胸が強調されるのだが……今の俺には悔しさが勝っているので興奮しなかった。


 しかし、負けは負け。

 今回は柊の作戦勝ちということなのだろう。

 潔く、負けを認めるしかない。

 そして、大人しく勝者への要望を応えようではないか。


「さて、俺は今から塩でも買いに行こうかなー」


「どこに行くのですか?」


 俺が立ち上がると、逃がさまいと柊が俺の腕を掴む。


「いやー、ちょっとお手洗いに……」


「さっきと言ってること違いますよ?」


 くっ!

 どうやら、逃がしてくれないようだ!


「仕方ない、では男として潔く負けを認めようじゃないか」


「認めたくなくて、逃げようとしましたよね?」


「……負けを認めようじゃないか」


 俺は顔を逸らし、気まずそうに床に座る。


「それで……俺の膝枕という野望を打ち砕き、屍を超えてまで勝ちにいった柊さんは何をお望みで?」


「言い方に悪意を感じるのですが……」


 悔しいんだもん、仕方ない。


「それでですね……私のお願いなのですが———」


 俺は息を飲んで柊の発言を聞いた。


 もしかして、金をよこせだろうか?

 それとも、恥ずかしい写真を撮らせてネットにアップだろうか?


 ……やばい、ちょっと不安になってきた。


「私と、またデートしてください」


「……は?」


 俺の考えと真逆の発言に、思わず変な声が出てしまう。


「今日のデートは途中でしたし、私はまた如月さんとデートがしたいのです」


 柊は正座したまま、俺に向かって優しい笑みで微笑む。

 その姿は、先ほどの楽しそうな顔とは違い、これからしたいことを想像して喜んでいる———そんな表情に見えた。


 そんな柊の表情を見て


(あぁ……くそっ)


 顔が熱い。

 さらに言えば、胸がドキドキして仕方がない。


 いつから、彼女はこんな表情をするようになったのだろうか?

 始めて関わりを持った時には、仮面越しの作り笑いしかなかったというのに、今では彼女らしさが顕著に見える。


 それに—————


(どうして、俺なんかとデートしたいと思うのかねぇ……)


 そんな疑問が浮かび上がる。


 けど、それはそれ。

 まずは、彼女の要望に対して返事をしなくてはいけない。


「あぁ……いいぞ」




 こうして、俺はまた柊とデートをする約束をした。
















































「じゃあね~!楽しかったよ!」


「おう!また遊ぼうな!」


 そう言って、私はクラスでも人気の高いバスケ部の男の子とお店の前で別れる。

 別れた男の子は楽しそうに見えるが、私の心の中は違った。


(う~ん……もう飽きちゃったなー)


 しばらく関わって、こうして遊ぶのにも飽きてきた。

 だって、終始彼は私にかっこいいところを見せようと必死なんだもん。


 確かに好かれるのは気持ちいいけど、流石に飽きたし気持ち悪い。

 もうちょっと、一途で好意を隠しつつも漏れてしまっているような男の子の方が断然気持ちがいいんだけど……。


(そうだ!確か、あの子だったらぴったりかも!)


 クラスは違うけど、同じ学校にいるあの子。

 中学時代、私に好意を寄せていて見事に告白する前に振った男の子。

 私の適当に言った好みに合わせようと努力してきた同級生。

 そして、今でも私のことが好きな可哀想な子。


 あの子なら、今の私の欲を満たすには一番の存在だ。


「あーあ!学校が楽しみだなぁ!」



 こうして、私はしばらくの玩具を見つけて楽しみになるのであった。

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