分かってる……分かっているんだ

 あぁ……。

 どうして俺はあんな事を言われたのだろうか?


 神無月に手を引かれながら、俺は高鳴る心臓を他所に考えこんでしまう。


『神無月に告白された』。


 その事実は、俺にとって受け止めるには多すぎる。

 何せ、俺の初恋相手からの告白だ。普通に告白されたのとは訳が違う。


 自他共に認める美少女である神無月。

 周囲からは『女神様』と呼ばれていて、その明るい雰囲気に幾多もの男子が虜にされてきた。

 その内の1名に、俺も含まれていた。


 しかし、神無月自身はそんなことを思っていなくて、実は俺達男は内心嘲笑われていたんだがーーーー。


(それは、もうないし……)


 体育館で彼女に言われた発言。

 その時はかなり落ち込んでしまったし、柊がいなかったら立ち直れていなかったと思うほど、突き落とされた気分だった。


 だけど、神無月は変わった。

 変わりたいと言ってくれたし、事実彼女は変わった。


 愛想良く振舞っていた彼女の姿は今はもういない。

 今、俺の目に映るのは本当に楽しそうにありのままの自分で謳歌している彼女の姿。


 そんな彼女は昔よりも魅力的だ。

 彼女の事を全て知れた俺は、神無月の魅力にあてられているのだろう。


(でも……。だけど……さ)


 今の俺は、彼女の事をどう思っているのだろうか?

 あの時みたいな恋の感情?それとも友達?……少なくとも、ただの友達って訳じゃないと思う。


 情けない。

 すっごい情けないんだ。


 ハッキリしない自分に、彼女の想いに応えれていない自分が。

 惨めな自分が……本当に嫌いになりそうだ。


 俺は引かれる手の感触に、違和感を感じてしまう。

 暖かいはずなのにーーーー今の俺の気持ちはこんなに冷たい。


 嬉しいんだ。本当に嬉しい。

 魅力的な女の子である神無月告白されて、一人の男として誇らしいし嬉しい。


 でも、それ以上に応えを出せない自分が辛い。


「どうしたの如月くん?……少し手が震えているけど?」


「あ、あぁ……なんでもないさ」


 自分の手が震えていた事に驚きながらも、なんでもないと素振りを振る。

 少し不思議そうにした神無月も、気にしないでそのまま先へと歩いてくれた。


 俺たちの間に会話はない。

 それは、多分俺がこんなにも思い悩んでいるからだろう。


 彼女は俺に告白してくれたのに、いつもと変わらない。

 それ以上に、どこかスッキリしたような顔をしている。


 それから、俺達は下山する為にロープウェイに乗った。

 揺れるロープウェイの感触が、足元から伝わり、窓から覗く景色はチラホラと街灯が灯っていて綺麗だった。


(あぁ……分かっているんだ。俺がどうしてこんなに悩んでいるかは)


 昔の俺ならこの告白『OK』とすぐに返事ができた。


 別に、彼女が嫌いになったわけじゃない。

 さっきも言ったが、彼女は昔よりも魅力的になったんだ。


 では、どうしてなのか……?


(柊……だよなぁ)


 それは柊の存在。

 ここ最近ずっと傍にいる彼女。


 俺の中で彼女の存在が、神無月に対する告白の応えを引っ張ってるんだ。



 自惚れでは無い限り、最近の彼女からは好意を感じる。


 きっかけは分からない。

 それでも、最近はそれが顕著に感じるのだ。


 そんな彼女の好意は神無月同様凄く嬉しい。少し意識してしまう事も多々あるし、それの所為で俺の胸が高鳴っていた。


 だけどーーーー俺は、好意を寄せてくれているであろう柊のことをどう思っているのか?


 そこも分からず、『自分の気持ち』という問題を、この夏休みの課題にしたんだ。


 いやーーーー違うな。


 俺は問題を先送りにしていたんだ。


 この関係が好きで、ずっとこうしていたくて。変わって欲しくなんかなくてーーーー


「着いたよ〜!」


「そ、そうだな……」


 ロープウェイはいつの間にか麓まで辿り着き、神無月に手を引かれてロープウェイから下りる。


「お帰りなさい」


 そして、乗り場のベンチで座っていた柊が、笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「ただいま〜!」


「あ、あぁ……」


 元気よく言葉を返す神無月対して、俺は詰まってしまう。


「ふふっ、では戻りましょうか。こんな時間ですし……厳島神社は、またの機会にでも行きましょう」


「そうだね!フェリーの時間も少なくなっちゃうだろうし!」


 柊は何も聞かない。

 それは、俺達が何を話しているかが分かっていたかの様だった。



(そうか……母さんの言っていたことはそういう事か……)


『向き合ってやれ』。


 母さんの言っていた意味がようやく分かった。


「如月くんも早く帰ろ!」


「そうですね……お義母様も心配されるでしょうし」


 二人の先行く背中を見て、重みというものがのしかかって来た。





 言葉の意味を理解するのが、どうやら遅かったようだ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

※作者からのコメント


読者の皆様申し訳ございませんm(__)m


僕の全作品、更新時間を今後19時に変更させていただきます。

諸事情で申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。

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