聖女様と晩御飯

「お~とこには~じぶんの~せ~かいが~ある♪」


 俺はル〇ン三世の曲を鼻歌で歌いながら鍋のルーをかき混ぜる。

 本日の夕飯はなんと誰もが大好きなカレー。


 柊と別れた俺はすぐに風呂に入ると、こうして我が家の夕飯の準備をしていた。


 うん、カレーって素晴らしい料理だよね。

 めんどくさいというわけじゃないけど、多めに作っておけば明日の朝ご飯を作らなく済むんだよ?

 一人暮らしには持ってこいの料理だと思わない?


 何て事を考えながら、小さな皿に少しだけ盛って味見。


 ……うん、いい感じじゃね?


 というわけでIHのコンロを消すと、俺は皿の上にご飯とカレーを盛ってテーブルに運ぶ。


 時刻は夜の七時。

 ……少し遅くなってしまったが、早く食べてお気に入りのラノベでも読もうかな。


「んじゃ、いただきま「ピーンポン♪」……誰だよ、こんな時間に?」


 俺が両手を合わせて早速夜ご飯を頂こうとすると、不意にインターホンが鳴る。


 ……怪しげな新聞勧誘か、それとも遊びに来た颯太達か。俺に考えられるのは二つ。

 うーむ、どっちなのだろうか?


「まぁ、いっか」


 俺は考えるのを辞めて、玄関へと向かう。


「はいはい、どちらさま「こ、こんばんは……如月さん……」です……は?」


 玄関を開けると、そこにいたのは部屋着を着た柊の姿。

 薄いピンクを基調とした部屋着は、柊の可愛らしさをより一層引き立てている。


 ……それに、お風呂上りなのかほのかにいい匂いがするし、若干火照った柊が…その……妙に色っぽい。


「ど、どうしたんだ……柊?」


 少し見蕩れてしまった己の視線を強引に逸らした。

 ……いかん、何かこのまま見ていたらやばい気がする。


「あ、あの……少し、お願いがありまして」


「お願い?」


 柊は恥ずかしそうに体をもじもじさせながら、俺に向かって口を開く。


「そ、その……私、夜道が怖くて……」


「お、おう……」


 ここでそんなカミングアウトを言われても困るんだが?

 どうしていきなり自分の怖いものを暴露したのか?


「一人で買い物行くことができないんです……」


「そ、そうなんですね……」


 一緒に買い物行くのについて来いということなのだろうか?

 幸い、あたりは暗くなっているがコンピニやスーパーはまだ営業している。

 買い物すること自体は全然可能だ。


(けど、俺今から飯食べるんだけどなぁ……)


 俺はご飯を食べようとしている最中。

 冷めないうちに食べたいので、できればついて行きたくない。


「そ、それでなのですが……」


 少し心苦しいが、買い物に付き合うのは断ろう。

 俺だってご飯食べたいから。……お腹空いてるんだもん。


「すまん、お前の買い物には付き合って「ご飯、食べさせていただけませんか?」———は?」


 俺は、柊の発言に思わず変な声が出てしまう。


 ……え、そっち? 買い物に付き合ってくれというのではなく、ご飯を食べさせてくれ?

 正直、予想していたことと少し違って驚いてしまったんですけど?


「じ、実は————」



 ♦♦♦



「────なるほど」


 俺は、玄関で柊の事情を聞いた。事情を話し終わった柊は本当に恥ずかしいのか、先ほどより顔を真っ赤にして俯いている。


「つまり、お前は家にカップ麺が無くて、本当は今日買い物に行く予定だったけど、俺と帰ることに夢中になってしまい、買うのを忘れて晩御飯がなくて困っている……と」


「……はい」


 なんということだ。本当にカップ麺だけを食べて生活をしているとは。

 ……今まで、よくそれで生きていたものだ。

 俺は柊の生活を想像して頭を抱える。


「他に、食べ物とかないのか? 惣菜パンとか?」


「……ないです。本当に、何もありません……」


「……マジか」


 ……この子、本当に大丈夫なのか? 親御さんもよく一人暮らしを許可したものだな。


(しかし、ここで柊を突き放すのも良心が痛む)

 正直、今日初めて関わったやつにそこまでする義理なんてないのだが———


「……うぅ」


 こんな柊を見てしまうとなぁ……。

 どうしても、助けてあげなきゃって気持ちになってしまう。

 それに、買い物についていくよりかは、まだマシだからな。


「……とりあえず、中に入れよ」


「……え?」


 俺の言葉に、柊は顔を上げて驚く。


「カレーでよかったら食べさせてやるから」


「あ、ありがとうございます!」


 すると、柊は嬉しいのか花が咲いたような笑顔を見せた。


「ッ!?」


 その表情を見て思わずドキッとしてしまう。

 俺は顔が赤くなるのを感じつつも、柊を我が家へと向かえ入れた。



 ♦♦♦



「わぁ! 美味しいです! 美味しいですよ、如月さん!」


 そう言いながら、カレーを頬張る柊の姿。

 ……結局、俺は自分のとはまた別に一人分用意して、早速柊に食べさせてあげた。

 早くしないと冷めてしまうというのもあるのだが……その、あまり男の部屋に女の子をあげるのは……よくないと思ったんだ。


 だから、早く食べさせて帰ってもらおう。

 ————しかし、


「本当に如月さんはお料理が得意なんですね!」


 満面の笑みで俺の料理を褒めてくれる柊。

 その姿を見ると、胸が暖かくなるのを感じる。


(人に、美味しいって言ってもらえるのがここまで嬉しいものだとはなぁ…)


 一人暮らしでは滅多に感じることのない気持ち。いつもは一人で寂しく食べていたものの、こうして誰かと食べることは颯太達が来るとき以来だった。


 それに、こんなにも美味しく食べている姿を見ると、作ってよかったなって思ってしまう。


(これも、たまにはいいのかもしれないな……)


 俺は美味しそうに頬張る柊の姿を見ながら、そう思うのであった。

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