美少女達は勉強ができない

「あ、神無月さん。そこ間違ってるよ」


「ありがとう、桜木くん」


「柊、ここ違うぞ」


「ありがとうございます」


 柊と神無月の謎のバトルも終わり、俺達はようやく勉強会をすることが出来た。

 少し大きめのテーブルを囲うように、俺達は各々のしたい科目を勉強している。


「神無月、あんたそこの公式はこの問題では使わないわよ」


「そ、そうなんだ……」


「柊さんも、『kind』の使い方が違うね」


「あ、ありがとうございます……」


 いつもは監視し合うだけで、こうして他人に教えることはほとんどない。

 だから、こうして分からないところや間違っているところを教え合うのは新鮮で、自分の学力も上がっていく気がするので、嬉しいものだ。


「ステラ、それ違う」


「うぅ……」


「神無月さんも、そこ違うよ」


「うん……」


 なので、こうして教え合うことはーーーー


「柊さん……」


「……間違っているんですね」


「神無月」


「……違うんだね」


「…………」


 二人とも颯太達に指摘され、気まずそうに体を縮こませる。

 ちょっと、気になるな。


「……お二人さんや?」


「「ッ!?」」


 俺が二人に声をかけただけで、体がビクッと震える。

 きっと、俺が何を言いたいかが分かるのだろう。


 ……だけど、聞いておかなければならない。

 彼女たちには申し訳ないが、こればっかりは颯太達も気になっているだろうからさ。


「入試の時ーーーー君達は何位だったのかね?」


 俺はゆっくりと、彼女達に問いかける。


 別に、一問二問間違えるのは全然構わないのだ。

 俺達でも、それぐらいの間違いはあるのだから。


 しかし……しかしだ。

 勉強会を始めて30分。彼女達に何回「間違ってるよ」と言えばいいのか?

 別に、見て見ぬふりをしても良かったのだが……せっかくの勉強会だからな。

 間違えたところを放置するのはあまりよろしくないので、指摘させてもらっているのだがーーーー多すぎる。


 是非とも、彼女達の学力が知りたい。


 そして、彼女達は揃いも揃って目を逸らしながら、ゆっくりと口を開く。


「……189位です」


「……191位だよ」


「「「………」」」


 それぞれの順位を聞いて、俺達は言葉が出なかった。


 俺達の学校は学年で200人。

 つまり、順位をつけると200人中という扱いになる。


 ということは、柊が189/200位。神無月が191/200位ということだ。


「柊さんや、勉強は大事とか言ってなかったか?」


「……順位が、全てではないのです」


 柊は恥ずかしそうに耳を真っ赤にして、必死に顔を逸らす。


「そ、そうだよね!順位が全てじゃないんだもんね!」


 開き直った神無月は、柊の意見に賛同する。

 ……賛同してもさ?


「でも、全てじゃなくてもその順位は酷いよね……」


「えぇ、『馬鹿』以外の何者でもないわね」


「「……うッ!」」


 颯太達の物言いに、言葉を詰まらせる二人。


 なんということでしょう。

 どんどん二人が小さくなっているような気がする。

 きっと、恥ずかしくて立つ瀬がないのだろう。


「別に順位が全てとは言わないが、流石に不味いだろ?赤点なんじゃないか?」


「……入試に赤点なんかないもん」


「……そうです。入試は合格すればいいんです」


 さっきの勉強大事の言葉はどこに行ったのか?

 柊に関しては、道端にその言葉を落としてきたようだ。


「……これじゃあ、今回のテストは赤点だね」


「そうね。さっきから勉強見てるけど、とても赤点以上の点数を取れるとは思えないわ」


 颯太達の評価は酷評。

 順位以前に、学力的にもアウトなようだ。


「……だそうだ、二人とも」


「「……はい」」


 大人しくなった二人は恥ずかしそうに俯く。


 ……しかし、本当にやばいよなぁ。

 勉強会を始めて薄々感じてはいたが、二人がここまで学力が低いとは思わなかった。


 神無月は中学の時は違うクラスだったので分からないが、柊に関しては勉強が出来ると思っていた。

 だって、すっごい真面目に授業受けているんだもん。ノートもかかさずとっていたし、分からないところは質問していたし。

 ……俺とは正反対である。


 あれ?聖女様って意外にも残念系美少女だったりする?


「……でも、実際どうしようか?赤点は流石に不味いと思うし」


「確か、赤点の人は夏休みに補習じゃなかったかしら?」


「ほ、補習っ!?」


 聞いていなかったのか……。

 うちの学校、採点がめちゃくちゃ早くて、一科目でも赤点があれば補習なんだぞ?ーーーーって、朝言ってたような……?


「き、如月さん……」


 若干涙目で柊がこちらを縋るように見てくる。

 その姿を見てーーー俺はドキッとしてしまった。


 な、なんだろう……この守ってあげたくなるような感覚は?

 それに、ちょっと柊がいつも以上に可愛く見えた。


 こ、ここは俺が何とかしなければ……っ!

 こんなに可愛い柊の為にも!

 それにーーーーこの前の借りがあるしな。


「何だったら、俺が赤点取らないように教えてやろうか?」


「えっ!?」


「いいのですか!?」


 そう言うと、2人は目を輝かせながらこちらを見る。

 美少女2人のこの笑顔……やばい、破壊力がやばい。


「といっても、最低限赤点を取らないようにするぐらいしか出来ないが……時間的に間に合わないしな」


「そうだよね、そこが精一杯かも」


「大丈夫です!すごくありがたいです!」


「うん!私も問題ないよ!」


 2人は揃って胸の前に拳を作り、やる気に満ちた顔をした。


 正直、赤点取らないためには要所要所だけを満遍なくやる必要がある。

 それが、あと1週間で出来るギリギリの範囲だろう。


「颯太も、協力してくれね?俺1人じゃ、2人同時は流石に厳しい」


「うん、いいよ。深雪もいいよね?」


「……しょうがないわね」


 颯太は快く、藤堂はため息をつきながらも、協力してくれた。

 2人には、またどこかでお礼しなきゃいけないな。


 赤点を回避するには、俺達も教えるが2人の頑張りが必要不可欠。



 ……まぁ、こいつらがいればなんとかなるだろ。

 2人も、やる気はあるみたいだしな。

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