告白

「私のこの想い……聞いていただけますか?」


 月明かりが照らす高台の平地。

 そこで俺と柊は互いの目を見ながら向き合っていた。


「あぁ……いいよ」


 柊の想い。

 彼女から初めて聞かされる気持ちに、俺は小さく頷き耳を傾ける。


『向き合え』。

 その言葉は、きっと彼女達の想いに向き合えと言う事なのだろう。


 受け止め、考え、迷いーーーーそして、決断する。

 己の気持ちは何処にあるのか、何を思っているのか。


 それを、見つけなければいけない。


 心臓の鼓動が早い。

 不思議と足が震えそうになってくる。


 吐きたず吐息が、いつもより冷たく感じるのは気の所為では無いのだろう。


(ははっ、怖いな……)


 怖いんだ。

 彼女の想いを聞くのが、聞いてしまったことで関係が壊れてしまいそうで。


 人間は、平穏を望む。

 変化を拒む。

 変わらぬ日常を好む。


 正に、心地よい充実した毎日が崩れそうで怖い。

 この関係が壊れてしまいそうで、怖い。


(でもーーーー)


 それでも、彼女達は想いを告げることを選んだ。

 勇気を振り絞り、関係が壊れてしまうかもしれないけど、この想いを告げようとしている。


 であれば、俺がすることなんて一つーーーー


「私は、如月さんが好きです」


 ーーーー彼女達の想いに、向き合うことだ。



 ♦♦♦



(※ステラ視点)


「私は、如月さんが好きです」


 言ってしまいました。

 私が抱いていた想い……ついに、如月さんに告げてしまいました。


 緊張で胸の鼓動がすごい……聞こえていないか心配になる。

 それでも、この想いを告げられずにはいられない。


 賽は、投げてしまったのですから。


「如月さんの優しいところが好きです。頼りになるところが好きです。支えてくれるところが好きです。私という人を見てくれるところが好きです」


 胸に手を当て、想いを確かめるように言葉を紡ぐ。


「如月さんに出会えていなかったら、私はこんな輝かしい日常を送れていませんでした」


 誰に見てもらえる訳でもなく、ただただ優等生を演じていたあの頃。

 如月さんと関わりを持つことがなければ、私は今も尚空虚な毎日を送っていたと思います。


「如月さんは、どんな時でも私を見放さないでくれましたよね?」


「……そりゃあ、お前を放っておくと危なっかしいからさ」


「ふふっ、自分で言うのもなんですが、自分でもそう思いますよ」


 女の子であるにも関わらず料理も出来ませんし、勉強もできません、暗い所も苦手ですし、ドジを踏んでしまうことも多いです。


「それでも、如月さんは私を見捨てなかった。そばに居てくれた。私を支えてくれたーーーーそれが、何より嬉しいんです」


 誰にもできないーーーーいえ、誰かできる人はいたんでしょう。

 それがたまたま如月さんで、たまたま見捨てる事をしなかっただけかもしれません。


 でも、私は如月さんだからこそ嬉しいんです。

 彼と言う人物が傍にいてくれたかたこそ、私は輝かしい日常を遅れたんです。


「私が落ち込んでいた時、如月さんに抱きしめてもらったあの温もりは忘れません。あの時の言葉も、忘れません。忘れることなんて……できません。それほどまでに、貴方の存在が、私の中で膨れ上がっているんです」


 如月さんに抱きしめてもらったあの日。


 私は彼に救われた。


 一人じゃないと、見ていてやると、休んでいいと、彼に言われた。

 その時の言葉と如月さんの存在がどれほど私の心に光を与えたかーーーー多分、分かってはもらえません。


 分かって欲しくない。


(この気持ちは、私だけのもの……ですから)


 この如月さんから貰った感情。

 誰にもあげたくない、分かちあって欲しくない、自分だけのもの。


(あぁ……やっぱり、ダメですね……)


「如月さん……わ、私は……」


 溢れるこの気持ちは、止めることができない。

 そして、頬に伝わる冷たい感触は、地面に零れていく。


 吐き出される感情は、自然と涙と共に現れてしまうのです。


「あなたの隣にいたいんです……っ!他の誰でもない、私がぁ……傍にいたいんです……っ!わ、私が……如月さんに見てもらいたい……見て欲しいんです……!」


 独占欲、自分よがり、自己中心的。

 何て言われても構わない。私は、それでも彼の隣にいたい。


 支えたい。

 支えてもらった如月さんを、私が支えたい。


 見ていたい。

 彼がこれからどんな人生を歩むのか、特等席で見ていたい。


 守りたい。

 彼が心折れそうになった時、横で私が守ってあげたい。


「私は、如月さんの全てが欲しい!こんなに素敵な人を、私は独り占めしたい!一緒にいたい!ーーーー幸せなんです……私は、貴方と過ごす時間が……幸せに感じるんです……!」


 拳を握り、この想いを噛み締めるように口を開く。

 溢れる涙は止め所を無くし、一向に止まる気配もない。


 でも、それでもーーーー


「……大好きです、如月さん。こんな涙が流れてしまうほど、貴方が好きなんです……。貴方の全てが、愛おしいんです」



 この想いを伝えずにはいられない。


 だから、私は日に日に増していくこの想いを言葉にしたかった。


 大好きだと、言いたかった。
























































「ありがとうございます、如月さん……。私に、この気持ちを教えてくれて」


 その言葉を言い終わり、気がつけば私の手には彼の暖かい感触が伝わっていた。




 最後の私の顔は、笑っていたんだと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る