手伝いの終了
「ふふっ、やはり君は面白い────先生が気に入る理由も分かるよ」
「冗談はよしてください。先輩に言った発言を聞けば評価が変な方向に向いていることぐらい普通に分かりますって」
先輩の教室へと、両手いっぱいに抱えられたプリントを持って戻る。
廊下に出てみると、先程のような人集りが先輩を覆うことはなく、生徒の姿が見当たらなかった。
もう帰ったのだろうか? そんな疑問を抱きつつも、足止めされないことにどこか安堵してしまう。
そのおかげもあってか、初めてらしい談笑を先輩と交わすことになった。
「普通の生徒相手に、遠慮もなく手伝えとは言わんさ。君を信頼しているからこそ、私の手伝いをさせてもいいと思ったんだろう」
「そうっすかね?」
「そうだとも。少なくとも、私はそう思っているさ」
どうしてそんなに俺への評価が高いのか気になるところだ。
本当に今日出会い、話したばかりの後輩だというのに。
「そんなに評価が高い意味が分からんっすわ。先生も、先輩も」
「なに、話してみて人柄が分かるのは普通のことさ。君はなんだかんだで仕事に責任を持つタイプと見た」
「まぁ、やるんだったら責任は持ちますが……」
「ほら見たことか。私の見る目は正しいということが分かったな」
ふふん、と。胸を張って誇る先輩。
凛々しい雰囲気からのギャップもあって、どこか胸が高鳴ってしまう。
これが軍姫と呼ばれるお人か……うぅむ、皆が慕う理由が垣間見れた気がする。
人気者の理由が分かったよ。
「まぁ、先輩の目は関係なさそうな気がしますけどね」
「つれないな、君は」
つれないも何も、悪い人じゃないだろうけど柊や颯太達と同じぐらいの親密度と言われれば違うから。仕方ないことなんです。
そんなことを思っていると、先輩の教室の前までやって来た。
両手が塞がっているので、とりあえず足で扉を開く。
「こら、行儀わるいぞ、君」
「両手塞がってるんで仕方ないことです」
今時、こんなことで怒られると思わなかったなぁ。
俺は教室に入ると、とりあえずプリントを近くの机の上に置いた。
さて、柊は────
「…………」
教室の真ん中で、一人無言で座っていた。
ノートを広げ、メモと睨めっこをしながら真剣に筆を走らせる。
俺達が入ってきたというのに、気づいた様子もないように見える。
(すげぇな、柊は……)
自分の仕事ではなく手伝っている立場にもかかわらず、真剣に取り組んでいる。
妥協も、楽もしていいはずなのに、そんな素振りはない。
どれだけ柊が真面目で優しい少女なのかが分かる瞬間だと思った。
「ふむ……君もあれぐらいの真面目さを持ったらもっと先生からの評価が上がると思うぞ?」
先輩が柊の姿を見てそんな言葉を漏らす。
「今先生の評価とか上げる必要ないっすから。評価と好感度は内申が必要になってきた時に上げますよ」
「まったく……君らしい」
らしいってなんだよ。俺の何を知ってるというのかね? うぅん?
「おい、柊。戻ったぞ」
とりあえず、先輩の言葉は気にせずに柊に声をかける。
すると、柊は肩をビクッ! っと跳ね上がらせてしまった。
「す、すまん柊……驚かすつもりはなかったんだ」
「い、いえ……大丈夫です」
シャーペンを置いて、柊が余韻の残るような笑みを浮かべた。
「それにしても、凄い量ですね……お疲れ様です」
柊が後ろに置いたプリントの束を見て、そう零した。
「どうしてこんなに刷る必要があったのか分からんがな。柊の方もお疲れさん、すっげぇ集中力だったな」
「こういう仕事をしている時は自然と集中してしまうんです。中学の時はこういう仕事をする機会が多かったもので……自然と得意というか、慣れてしまってるんです」
「ん? 何かやってたのか?」
「ふふん! 私、実は中学生時代は生徒会に所属していたんですっ!」
びっくりしましたか!? なんて言葉が顕著に窺えるようなドヤ顔でこっちを見てくる柊。
可愛らしいという言葉の前に、何となく想像がついてしまったので驚くことができなかったのが申し訳なかった。
あ、でも一応驚いたぞ?
だって────
「勉強できないのに……生徒会にいたのか?」
「か、関係ないですもんっ!」
「大丈夫だったか、生徒会の仕事……?」
「だから得意だったと言ってるじゃないですか!?」
疑わしい……特に、柊の点数を見てしまった後だとなおさら。
イメージとしてはピッタリなんだが、違う一面を見てしまうとどうにも……。
「ふふっ、仲がいいのは結構だが、そういうのはできれば私のいないところでやってほしいものだ」
「す、すみませんっ!」
柊が詰め寄ろうとしたが、先輩の言葉によって静止する。
いけない、普通に空気みたいになってしまっていた。
「すまないが、柊くん────議事録の方はどうなっているんだ?」
「あ、ちょうど完成したところでした!」
「ふむ……なら大丈夫か」
先輩は柊からノートを受け取ると、そのままプリントの束の上に置いた。
「今日はここまでにしようか。あとは明日の朝にクラスの生徒にでも手伝わせたらいいだろうからな」
「結局、プリントを運んだだけですね」
あとはありがたいお節介ぐらいかな。
「私一人では一度には運べなかったから助かったよ。何往復なんて、正直ごめんだからね」
「そうっすよね」
俺だってごめんだから気持ちは分かる。
「今日はありがとう。また手伝ってもらうことにはなると思うが、その時はよろしく頼む」
でも、もう一度手伝わせようとする先輩の気持ちだけはどうにも理解できなかった。
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