2人の喧嘩
「って言うことは、柊の所には藤堂が来たわけか……」
我が家での晩餐。
久しぶりに柊とのお料理教室をした俺達は、現在ゆっくりと自室のリビングでご飯を食べていた。
「そうですね……逆に如月さんのところには桜木さんが来ていたと……」
「ま、来たと言うよりかは呼んだって感じだな……」
そして、普通の雑談の間にちらりとこの話題が上がり、詳しく話すようになった。
「それで、やっぱり桜木さんは浮気していたのでしょうか?」
少し沈んだ声音で柊が尋ねる。
そんな声が出るってことは心配しているのだろう。
そして、どうして浮気という話に至ったのかーーーー
「いや、実際には浮気なんかしてない。……まぁ、浮気と疑われてもおかしくはないんだがな」
「やっぱり、桜木さんは何かしたのですね……」
そして、箸を握りしめ、プルプルと震え出す。
いかん、早く弁明しなくては颯太の評価が下がってしまう。
温厚で優しい柊が怒るなんて相当キツイからな。
「違う違う。何かしたのは颯太の従姉妹の方だよ」
「従姉妹……ですか?」
「その通りでっせ柊さん。……だから、颯太は全然悪くないーーーーとまではいかないが、どっちかと言うと従姉妹が悪いな」
颯太曰く、夏休みの間に従姉妹が遊びに来ているらしい。
それで、颯太の部屋に遊びに来た。
そして、姉のじゃれあいに巻き込まれ、冗談でキスされようとしたらしい。
んで、そこを藤堂に目撃され、弁明したにも関わらず、話を聞いてくれない藤堂にイラついてしまい、口論になったーーーーという訳だ。
「まぁ、俺も颯太からの話しか聞いてないから、確証はないんだけどな……」
「そうでしたか……」
俺の話に、柊は納得した顔つきを見せる。
そして、徐に頭を下げた。
「すみません、疑ってしまって……」
「いや、別に俺に謝ることじゃねぇし、藤堂の話だけ聞いてればそう感じるのも無理ねぇよ」
「ですが……」
正面に座る柊は、それでも少し罪悪感を感じてしまっているようだ。
柊は人一倍優しい女の子だからなぁ……。
俺は正面に座る柊の横まで近づくと、目を伏せて俯く柊の頭を撫でる。
「これぐらいじゃ、颯太は怒んねぇから安心しろよ。柊も藤堂の為に怒ってくれたんだろ?」
「はい……」
「だったら、気にする必要なんかないよ。事実、別に悪い事した訳じゃないんだからさ」
疑ってしまうのは仕方がない。
何せ、片方の相手の話しか聞いていないのだから。
俺だって颯太本人からしか話を聞いていないし、本当かどうかも分からない。
だから、柊が颯太の事を悪く思ってしまったのは仕方がないんだ。
「如月さん……」
「ん?」
すると、撫でられつつも顔を上げた柊が、ジトーっと下目で俺を見てくる。
「如月さんは本当にタラシです……」
「何故に!?」
「だってそうですよ?告白された相手にこうやって頭を撫でてくるのですからタラシです!」
い、言われてみればそうだ……。
柊と神無月から告白され、返事を保留にしているにも関わらず、こうした思わせぶりな行動をしている。
け、決してわざとではなくて、ただ柊に元気になって貰いたかっただけなんだが……。
普通にクズだな……俺。
自分が嫌になってくる……。
「ですけど、嬉しいから私は許しちゃいますよ」
そう言って、撫でる俺の懐へ柊は思いっきり抱きついてきた。
「あ、あの……柊さん?」
「これは私なりのアピールですから気にしないでください!」
「そ、そうか……」
引き離そうとしたのだが、彼女のそのアピールによって、俺は思わず両手を上げてしまう。
……いや、アピールってお前。
し、心臓の音聞こえてないかな?
すっげぇバクバクしてるんだけど?
「ふふっ、如月さんっていい匂いがしますね……」
(お前の方がいい匂いがするよ!)
なんて俺の気持ちも露知らず。
柊は何が嬉しいのか分からない俺の胸に顔を埋め続ける。
いい匂いがするし、少しばかり柔らかい感触がするし……。
あぁ……顔、あっちぃなぁ……。
♦♦♦
「それで、結局お二人の話はどうしましょうか?」
顔を離してくれた柊が、俺の隣で尋ねてくる。
位置を移動したことや、さっきから肩が当たる程距離が近くないという話は……一応しなかった。
口に出そうとした瞬間、柊に睨まれてしまったからな……少しだけ怖かった。
「そうだなぁ……ぶっちゃけ、誤解を解く以外に方法ねぇし……」
「ですが、深雪さんは結構落ち込んでたりしてましたし、かなり深そうですよね……」
「本当に、そうなんだよなぁ……」
話し合いをするにしても、もしかしたら藤堂が未だに怒ってるかもしれないし、いざこざが起きないとは限らない。
いずれ話すにしろ、もう少し何かしらの手を打っておきたい。
しかし、時間をかければかけるだけ、2人の溝が深まり元に戻らなくなる可能性だってある訳だ。
何かしら手を打つにしろ、あまり時間をかけたくない。
それにーーーー
「あの事も考えないといけないし……」
どうするべきか……。
隣に柊の暖かさを感じつつも、俺は頭を悩ますのであった。
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